34.真実
体中痛い。熱い。
「洞窟に…行くんですか?」
誰かの声…違う、この声を発しているのは俺だ。目の前にいるのは王冠を被った逞しい男。
「そうだ。お前ならできるだろう?ディアブロ・アリステリアJr。」
ディアブロ・アリステリアJr?違う、俺はジュード・ガーランドだ。そう言いたかったが口が動かせない。それは体の主導権が奪われたからではなくて…俺をディアブロ・アリステリアJrと呼ぶこの男、ディアブロ・アリステリア、つまり父に対する恐怖心からだった。
恐怖心。ジュニアは父を恐れている。
縦にも横にも大きな体。後ろになでつけた銀色の髪。せり出した額の奥でギラギラと輝く目。特に恐ろしく感じるのはその目だった。
「村が一つ沈むほどの大きな地震。それにより口を開けた東西南北四つの洞窟。しかしその洞窟はとんでもない金脈だ!あの洞窟から流れ出る力は何でも思い通りにできる不思議な力…人類では到達できない…そう、魔法。魔法の力だ。あの洞窟の先にあるであろう世界から漏れ出てくるだけでもこの土地に力を与えている。この土地の人々はその力を使い、作物を育て、必要なものを錬成し、暮らしを豊かなものにしている。」
ディアブロ・アリステリアはうっとりと語っていたが、ふいに語気を強めて先を続ける。
「だが!この土地の奴らは頭が悪い!これだけの力を己の生活のためだけにしか使っていない!この力があれば何でもできる。他の大陸を全て配下に収めることも夢ではないというのに。だから私が導いてやる!教えてやるんだよ!この土地の東西南北の洞窟を中心に豊かさを得た村を中央で統治し、更に強い国として…いずれは全てを手に入れるために!」
その力強い声はジュニアの心を冷やす。心臓はとんでもなく早く動いている。四肢の震えは止まらない。
「ジュニア。」
ディアブロ・アリステリアの目が、ギラギラと輝く目がディアブロ・アリステリアJrの姿を捉えた。
恐怖でジュニアは呼吸を忘れた。
「そのために必要なのは何だと思う?」
「わ…わかりません。」
「ストーリーだ…人々の胸を熱くするブレイブストーリー。そしてカリスマだ。」
ブレイブストーリー…勇者の物語を綴るために、何も争いのない平和なこの土地に何かしようというのか?そしてそのために俺を…。
「次に王となるのはお前だ。つまり、お前にも利はあるのだ。だからもちろんやるよな?」
ないないないない!俺は今のこの土地の豊かだがのんびりとした雰囲気が好きだ!それを壊すなんて俺には利はない!しかし、そんな心とは裏腹に言葉は紡ぎ出された。
「やります。」
頭が痛い。割れそうだった。しばらく目をギュッと閉じ、その頭痛をやり過ごし、再び目を開けた時に俺は暗闇の中にいた。湿度がものすごく高くて、立っているだけで体がじっとりと湿り気を帯びる。
ここは一体どこなんだ…?
手を伸ばすと湿った硬いものに触れた。手でなぞるとゴツゴツしている。多分これは岩だ。なぞりながら手を伸ばしていくと前へと伸ばすことができた。そのまま手で壁をなぞりながら歩いていくと、急に足の下に地面がなくなった。
「うわっ!」
落ちる!そう思って身を固くし身構えているが何も起きない。何が起こってるんだろう?周りの様子を見るにはどうしたらいいんだ?
「ぎゃああっ!」
急に肩に激痛が走り、思わず悲鳴を上げた。頭の元を手でさするとぬるっとした感触があり、慌てて袖を捲り上げるとぼんやりと光る紋様があった。ゾッと寒気が背中を駆け上がってきたが、その紋様の光のおかげで、俺は洞窟にぽっかりと開いた竪穴の真ん中辺に浮いていることがわかった。
「なんだ…これ?」
次の瞬間、竪穴から己を包む青白い炎が吹き出した。
痛い!どこがというんじゃない!全てが痛かった。体も四肢も頭も、心も。
何だこれ?何だ?なんなんだ?!痛い!痛い痛い痛い痛い!体も四肢も頭も隈なく、外側も内側も焼かれているような痛みで痛いしか考えられなくなりそのまままた全てが闇に閉ざされ、ただ痛みだけがそこにあった。気が狂いそうだった。なぜ俺がこんな目に?ただディアブロ・アリステリアの息子に生まれただけで。好きでディアブロ・アリステリアのもとに生まれたわけじゃないのに。何で他の誰でもなく俺なんだ?ああ…ディアブロ・アリステリアさえいなければ。ディアブロ・アリステリアさえいなければ。ディアブロ・アリステリアさえいなければ。痛みと闇の中で反芻される問いはやがて憎しみに変わり、最後にはそれだけになった。
「ジュード!」
目が覚めると兄ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。
「ミリアムさんが魔法でお前を眠らせていたんだが…大丈夫か?」
「ディアブロ・アリステリア…。」
意図せず口をついて出た。
「何だって?」
「この国は狂ってる…。」




