32.革命会議
ジュードは憮然としていた。
「ごめ…ちょっと飲み過ぎた…。」
ずっしりと重たくなった頭を何とか敷布から引き剥がすと、同じく隣でロッドが四苦八苦していた。
「ジュード、もう少し…もう少し待って…。」
「い、いや…これは私らが悪いよ。ま、魔法で何とかしよう。」
ミリアムさんが頭を抑えつつ起き上がり、魔法陣を描いた。
「お酒飲む人のこういうとこはわからんね…。」
小さな声だがしっかりと不機嫌な気持ちを言葉にしたジュードに俺は成長を感じ、胸に熱いものが込み上げてきた。
「お前、随分成長したなー。」
「ん…そうなのかねー?わかんないな。ただちょっと前向きにはなったかもな。」
「うん!いいことだ!」
俺は嬉しくてバンバンとジュードの背中を叩いた。ジュードは少しだけ笑っていた。
「いや、ごめんな、ジュード。婆さんもありがとうな!さて!次はどこ?兄ちゃん。」
ロッドが結局堪えきれずにサウティシアのマーケットで買った露出の多い真っ赤なドレスに着替えながら言った。
「もう東しかないだろ。イーティシア。」
「そうだね。革命家となった我々は最後に中央に攻め込むのさ。」
ミリアムさんがニンマリと笑っていった。
「革命家?」
「そう。革命家。ロッド、更に倍額出すから君も協力してくれないか?それからガーランド兄弟もちょっと話を聞いてくれ。」
ジュードが心細げに俺を見る。
「心配ないよ。」
軽めの朝食とコーヒーを用意して俺達4人で話し合いの席についた。
「婆さん、話って何だ?」
ロッドが朝食を口に運びながらミリアムさんに問うた。革命家という言葉が出た時からミリアムさんが何を話そうとしているかを察していた俺は口を開いた。
「そこはまず俺から話そうか。」
ミリアムさんがゆっくりと頷いたのを確認して、俺は話を続けた。
「俺はこの30年間、ずっとこの国に復讐してやりたいと思ってた。」
「復讐?」
ジュードが怯えた声で聞き返した。
「そう。こんな、己の名声のためにジュードの、いや、これまで勇者と呼ばれた人も、勇者と呼ばれるに至らなかった人も、だ、人生をめちゃくちゃにされた。俺が、ジュードが勇者の代で俺はそれを終わらせたい。そう思っていた。でも、方法がないまま、30年…あの時助けられなかったまま、ジュードに辛い思いをさせて来てしまった。」
いつもヘラヘラと陽気に振る舞って深く考えないようにしていたことを、言語化して吐き出すのはさすがにしんどい。俺はコーヒーを飲み、一呼吸入れた。
「でも、今回の旅は違う。ミリアムさんと会って、ロッドと会って一緒に旅をして…それまで1人で気持ちばっかりだったのが、ちゃんと情報や技術が揃い始めて、動き出せそうだと思えたんだ。」
「う、動き出すって…何すんの?」
ジュードが不安そうに言った。
「ここから先は私が話すよ。オリヴァー君にも話していないとっておきもあるからね。」
今度は俺が不安を感じる。
「とっておき?」
「そう、とっておきだよ。それにはロッドの力がいる。」
「俺の?」
「そう。オリヴァー君から聞いた話では、魔物は宿主を殺せない。魔物が体を乗っ取るには宿主が自死するか自然に死ぬかしかない。」
「じゃあ、ジュードはずっとこのまま?」
ロッドは口に運んだコーヒーを慌てて飲み下し言った。
「それが嫌だからオリヴァー君は魔物を自分に乗り換えさせようと考えていたよね?」
ジュードの前でそれを言われると鼓動が早くなる。
「ああ、それは今でも変わらないよ。」
「そんなことしなくていいよ…。」
やっぱりジュードは傷ついたように言った。
「でも!俺はあの時お前を守れなかった!その後悔で何もできなくなってるのも、ずっと抱えていくのは嫌だし、魔物の力でそんな状況にした国に復讐したいんだよ!」
ジュードの目が潤んでいる。くそ…こんな顔させたくなかったのに…。
「オリヴァー君、落ち着いて。ジュード君のいう通り、そんな事はしなくていい。」
落ち着いた声でミリアムさんが言った。
「そこでロッド、お前にお願いだ。」
「え?俺?」
「魔道具で魔物の依代を作れるか?」
ロッドの目がパッと輝いた。
「へー!面白そう!やりたいやりたい!」
「依代…?」
初めて聞く単語だ。
「魔術を何かに宿らせる技術がイーティシアにあるんだよ。」
「マジか?魔法と言えばウェティシアなのに、イーティシアに?」
「そう、古来より伝わる技術なんだよ。」
「そんなことができるのか…。」
もし、魔物を全く別の体に移せれば…ジュードも、そして俺とマナも…でもそんな都合の良いことができるのか?
「そのためには、もう一人意見を聞かないといけない者がいるよね?」
ミリアムさんが言い、ジュードを指さすとジュードはその場に倒れ込んだ。
「ジュード!」
「魔法で眠らせただけだ。魔物君と直接交渉と行こう。」
ミリアムさんが呪文を唱える。
「えっ?あっ!」
ジュードの体から真っ赤な炎が吹き出して禍々しい魔物の姿となった。




