31.見えなかったもの
「へー!あなたが勇者さん?よろしくご贔屓にー!」
83歳の婆さんがいくようなバーだから渋くて静かで落ち着いてるのかと思いきや、屋根に椰子の葉をあしらい、ウッドデッキにも椰子の木、店内は七色の間接照明が瞬き、何とナイトプールもある。ザ・観光地なチャラい感じの店で客も見た目が派手な若者達がほとんどだった。
「何か言いたげだね?オリヴァーくん。」
想像と違う店に面食らってる俺にミリアムさんが言った。
「いや…ノリが若いなーと思って。」
「83だが?」
ミリアムさんがシレッと言う。
「あー、もう!やっとその見た目で中身がおばあちゃんなの慣れてきたのに突然見た目通りの要素ぶっ込まれると脳の処理が追いつかんよ!」
「まあ酒とつまみは本当にいいものを出すから。年寄りの言うことは聞いておけ。」
ミリアムさんが笑顔で言った。
「だから、急に年寄り感出すのもやめて。もう酔いそう。」
俺はため息を吐いてカウンター席に座った。
「マスター。勇者様におすすめの酒を。」
「俺も俺も!」
ミリアムさんが俺の隣に座り、ロッドがその隣に座った。こう言う場に慣れないジュードは固まって巨大な岩のようになっていた。
「ジュード、ほら、こっちの俺の隣、空いてるから!」
「ぁ…ぁ…ぃ…。」
かの泣くようなか細い声で返事のようなものをしてこちらに歩いてくるが右手と右足、左手と左足が同時に出ている。
「ジュードくんは…酒はどうなんだ?」
「の、の、あ、飲…ト…い…あ」
ミリアムさんが声をかけたが、ジュードが環境に圧倒されてコミュ力がなくなってる。仕方なく俺が代わりに答えた。
「一度も飲んだことはないよ。酒飲んでうっかり暴走したらまずいし。食い物も美味いんだろ?なんかあるか?」
カウンターで忙しく立ち働いていたマスターが口を挟んだ。
「食い物も、じゃない。うちは、食い物が、美味いんだ。」
「え?このチャラい感じの、ザ・飲みどころ!みたいな店が?」
俺が驚いて聞き返すとマスターはニヤッとわらって言った。
「そう思えるかい?なら成功してるな!」
「どういう意味なんだい?」
「この店の客達はみんな普段は真面目な裏方だ。観光で食ってるこの町は、観光客と住民の間に大きな格差がある。他所のこう言うキラキラした店は、住民が安月給で来られるようなもんではなくてね。観光で来ている富裕層しか来られない。」
マスターは話しながら手際よくキッチンを動き回っていた。
「そんなのおかしいじゃねえか。裏方で頑張ってもてなしてる人たちあっての観光収入だろ?だから俺は、自分らの提供してるキラキラがどれだけ魅力的かわかって欲しくてこの店をやってるんだ。カクテルや酒の見立ては後付けだよ。本来は…こっちさ!」
そう言ってマスターが出した料理にみんな目を見張った。
「わあ!美味そう!」
常に常夏の南国でしかなし得ない彩り豊かな夏野菜のサラダ、油が乗っててテラテラと輝いている白身魚のオイル漬け、赤色を程よく残している牛肉のロースト、硬めのパンのガーリックトースト。美しい色合いのカクテル。
「とりあえず、お疲れ様でしたっ!」
俺はそう言ってグラスを高く掲げた。
「お疲れ様でしたっ!」
ミリアムさんとロッドも合わせてグラスを掲げた。
「ジュードも、お疲れ様。」
俺は身の振り方がわからず、固まっているジュードが手にしているノンアルコールカクテルのグラスにもグラスを合わせた。
「あっ…えっ…おっ、おつかれさま。」
酒も料理も素晴らしいものだったし、マスターの心意気にも感銘を受けた。
しかし、三十年、二年に一度同じ町を訪れているのに、今さらそんなことを知るなんて…俺は勇者として対応される場合しか、人々と接して来なかったことを悔いた。ジュードに国がしたこと、それに対して俺が何もできなかったこと、それに囚われすぎてて周りを全く見ていなかったんだ。俺が嫌っている王都センティシアだって、民間レベルであれば、もっと違う何かが見えるのかもしれない。




