27.シア
「スールーさんに伺ったんだが、こちらに魔道具を作る方がいらっしゃるとか。」
食事を終え、少しゆったりとした時間を過ごす中で、俺は町長に切り出した。
「はい。古来より、我々海洋人に伝わる伝統魔法と伝統技法ですが。」
俺の問いかけに町長は少し気恥ずかしそうに答えた。海底に沈み、隔絶されたことで、独自の社会を築いたこの町の土着の魔法であることで気後れしたようだ。だが、陸地にある国々で、魔法文明を築いているのはアリステリアだけだ。唯一の魔法国家として、何かプライドのようなものがあるのかどうか、そんなことは俺の知ったこちゃない。アリステリアの魔法の在り方に疑問を持つ俺としては、他の魔法を知る事で現状を打開する何かを得られるかもしれないという思いがあった。
「どうだろう。素晴らしいおもてなしのお返しに我が国最高峰の魔法使いと魔法技師との意見交換をさせていただくと言うのは。」
町長は目を輝かせた。
「陸地の魔法技術を教えていただけるのですか?何とありがたい!」
「いや、こちらこそこの町独自の魔法や魔道具を見せていただけるのは大変ありがたく存じます。」
ミリアムさんもロッドも目を輝かせて頷いていた。
「早速魔法使いの元にご案内させていただきますよ。」
そう答えると町長は素早く会議室へと泳ぎ去った。
「スールー!皆様をシアの元へお連れしろ!」
スールーは快く案内を引き受けてくれた。
町唯一の魔法使い、シアの家は町の外れにあった。
「これはこれは。遠いところはるばるありがとうございます。」
シアは、見る限り相当な高齢だったが、魔法というものは見た目だけで判断できるものではない。そう思いながら俺はミリアムさんを横目で見た。
「ミリアムさん、本当に83歳なんですか?とてもそうは見えません。陸地の魔法は素晴らしいですなあ。」
どうやらシアは見た目通りらしい。
「私は陸地の中でも最高峰の魔法使いだからね。他の者はここまでの若返り魔法を常用しながら他の魔法も使って暮らすことはできないよ。」
「なるほど…陸地には魔法使いがたくさんいるのですな?」
「そう。その者たちが魔法の研究をし、生み出した魔法を、この魔法技師達が魔道具に蓄積し、魔力を循環させることで国全体に魔法を行き渡らせているんだ。」
ミリアムさんに促されロッドが話の後を継いだ。
「ここなら魔力は水に溶け込んでるから循環させるのはたやすそうだぜ?爺さん。」
「どういうことです?」
「陸地と同じなら、魔法をアップデートする必要があって、その時はあんたが魔力を与えているんだろう?」
「ああ…それが魔法使いの務めだからな。」
「俺達は魔道具を動かす魔力は人に依存していないんだ。魔力を持つ者は魔法使いとして魔法と魔道具の研究、開発に専念してる。魔力は地中や魔界と繋がる洞窟から採取して供給してるんだ。ここなら採取はそこいらじゅうどこからでもできる。正直、陸地より楽に循環供給の仕組みが稼働する。」
「おお…そんなことが…。」
シアはそれきり言葉を失い震えた。劣等感を持っていた陸地よりも海底の方が魔法技術の運用は向いていた。その事実がシアを感動させた。
俺は、この隔絶させた状況でも魔法と魔道具を開発するに至れたということは町の人達は元々魔法に見識があったのかと疑問に思った。
「町役場の壁画を見させてもらったが、陸地にいた時のことがなかったな。もう陸地のことは言い伝えも残ってないのか?」
「いや、言い伝えるような特別なものは何もなかったということだ。ごく普通の町だった。」
「じゃあ、魔法は…。」
「町が沈んだ時、皆が死ななかった時まで魔力なんてものがあるなんて気が付きもしなかったし、魔力を魔法として使えるなんてことも知らなかった…わしら海洋人には、魔法も魔道具もただ生き延びるための苦肉の策だ。」
それこそが本来だと俺は思った。己の力の誇示のために利用するなど間違っているんだ。
「じゃあ魔物が現れた時とかは…。」
「そんな記録はないねえ。」
何だって…。
「魔物が海にも現れるようになったのは1200年ほど前だと聞いているよ。」




