26.おもてなし
「でも勇者様もお連れ様方も水の中で呼吸できませんよね?どうしましょう…。」
鮫人間が思案げにいうとミリアムさんが応じた。
「そこは私の魔法で何とかなる。」
「よし!じゃあいざ!」
張り切る俺にジュードが小さく声をかけてきた。
「兄ちゃん、装備外さないと…また…。」
そうだった。沈んでしまう。お飾りの剣やらお飾りの鎧やらをガチャガチャと外していると鮫人間が震える声で言った。
「丸腰で来てくださるんですか?」
「え…」
鮫人間は目を潤ませていた。
「自らも魔物か人か判然としない気持ちの中で生きている、そんな私達の町に武器も持たずに来てくださるなんて…私たちを人と認めてくださるんですね。」
鮫人間は感極まってわあっと泣き出した。そんなに深く考えていたわけじゃないが…。
「ぜひ!ぜひ来てください!お口に合うかはわかりませんがおもてなしさせていただきたいです!」
頭の上を魚が泳いでる。初めての光景だ。
「綺麗だなあ…。」
そう口にするとポコポコと口から泡が出て上に浮いていく。
「町長!勇者様御一行をお連れしました!」
鮫人間が一際大きな建物のドアを開け、大きな声で呼びかけると、巨大な鮫人間の老紳士が現れた。
鮫人間がしばらく鮫人間の町長に何かを話したのち、鮫人間の町長は俺に目を向けた。
「急に訪ねてきてすみませんでした。オリヴァー・ガーランドと申します。」
俺が挨拶し頭を下げると、鮫人間の町長はにっこりと微笑んで俺の方に泳ぎ寄った。
「お話はこの者…スールーから聞きました。私共の勘違いで大変失礼なことをしてしまったというのに寛大なご対応をいただき、何とお詫びを申し上げたら良いか…。」
町長は丁寧に頭を下げた。
「いや、お気になさらず。俺もあなた方の町には興味があるので色々お話しさせてもらえればと思っているので。」
「それはもう何なりと。ささ、こちらへどうぞ。」
町長の招きに応じ、俺達は一際大きな建物、町役場の中に入った。
町役場のエントランスには壁画が施されていた。具に観察すると、どうやら町の成り立ちを描いたもののようだった。
「ふっ…。」
壁画に見入る俺の隣からジュードの息遣いが聞こえた。
ジュードは顔が熱ったように赤くなり、しんどそうな短い息を吐いていた。
「ジュード?どうした?具合悪いのか?」
ジュードが勇者になる前の幼少期であれば、熱を出したり咳をしたりと体調を崩すこともあったが、勇者になってからのジュードは一度も体調を崩したことはなかった。
「だ、大丈夫…多分、この空間の魔力が多すぎて…。」
少し足元もふらついている。何となく見知った感じのする様子だ…これは…飲み過ぎた日の俺と似ている…。魔力酔いなんてあるのだろうか?
「地下水や川の水が集まったものが海だからな。魔力も同じように海に集まるんだろう。」
ミリアムさんが言った。
「あっ、だからか。」
「え?」
「この町の人達が地震で死ななかったのは、海の魔力を取り込んだからか。」
「ああ、確かに。その上魔力の塊となっている魚を食べたのだから進化していくのもそうなんだろうな。」
つまりここの人達は魔力だけを取り入れて魔物は取り込んでないってことか。それができるのになぜ勇者を作るのにわざわざ魔物を埋め込むなんて手間のかかることをするんだろう。
「陸地で暮らしたいとは思わないんですか。」
「我々は生まれた時から海で暮らしています。例え、祖先は陸地で暮らしていたとしてももうそれは我々には関係のない話です。さあ、勇者様、歓迎の用意が整ったようです。こちらへどうぞ。」
魚!魚!魚!とにかく魚料理!しかし生!生!生!うーん…。
「すみません。どうしても水中なので加熱できなくて。我々は食べ慣れていますが、お口に合いますかどうか…。」
町長が申し訳なさそうな顔をしている。
「いやいや!お気になさらず!旅の食事はその土地の珍しいものが食べられるのが醍醐味ですから!」
そう言って生の魚を口に入れる俺をみんなは不安そうに見守った。
「あっ…。」
さっくりと口の中で解けるような食感と濃厚な味わいのある油。その初めての味を何と表現したものか…ただとにかく美味いものだった。俺が再び手を伸ばすのを見て、安心したようにみんなも食べ始めた。
「おお…。」
「なるほど…。」
ロッドもミリアムさんも美味しそうに舌鼓を打っていたが、ジュードは手を出さないでいた。
「ごめん…兄ちゃん、俺、これ食ったらやばいかも。」
「そうなのか?」
「この町の人の進化を考えると。」
確かにこの町の人達は穏やかで優しいが、魚を食らい進化した見た目は魔物そのものだ。元々魔物が体にいるジュードが食べるのは危険だ。
「お口に合いませんでしたか?」
「いや、ちょっと弟は体調を崩していてね。せっかくの料理を、すまない。」




