25.海底へ
鮫人間の話は興味深かった。
何より、アリステリアが建国する前の話を聞くのは初めてだったし、洞窟ができる前の話なんて考えたこともなかった。
またそれに応じた疑問も湧く。
アリステリア建国前のこの地はどんな世界だったのか?魔力はその頃からあったのか?魔物は?何故町が海底に沈んでも人は死ななかったのか?進化させるに至る力は何なのか?
ぐるりを見渡すと、ミリアムさんもロッドも興味と興奮で目を輝かせている。2人とも魔法に造詣の深い人達なんだから当然だろう。それを考えると、2年前も、その前も…ずっと俺が来た時は様子を伺われていたというの、今の今まで全く意に介していなかった俺の、なんたるただの牛飼い感よ…。
「しかし、今まで隠れて様子を伺ってきてたんだろ?なぜ今回は、攻撃してきたんだ?」
「それは、だから、あの…お、お連れ様が…。」
ジュードが悲しそうな顔をしている。
「あー…いや、でもこいつは俺の義弟でいつも一緒に来てるんだぜ?」
「は、はい。でもあの…私達は魔物の襲撃を察知する魔道具を作って常に町とその周囲を監視させているんですが、今まで勇者様が来ても反応しなかったのに今回はものすごい反応を見せまして。」
鮫人間は怯えた顔でジュードを見た。まずい…まだジュードを魔物と疑っている。しかし、何と言って乗り切る?
「その魔道具の精度はいかほどなんだい?」
俺が考えあぐねているとミリアムさんが口を挟んだ。
「私は存じません…私は今年で62年生きておりますが、その間魔物が来たことがないので。だから余計に驚いてしまってこんな愚行に及んでしまいました。」
俺とジュードが勇者を担うようになって30年の間で、魔物に出会ったのはこの間の猫が初めてだが、過去を遡っても62年も魔物は出ていないということか。最後に魔物を討伐した勇者は一体いつ頃の勇者だったんだろうか。
「なるほどね。多分、勇者様の魔力を魔物と認識したんだろう。」
ミリアムさんがニヤリとしながら俺の方に目を走らせた。
「でも例年はこのような反応はないのです。」
「それは勇者様が魔力を制限していないせいだろう。そのせいで誤差が生じたのか、それとも、もしかしたら何十年も経っているからズレが生じているかもしれないね。」
ミリアムさんのフォローに俺は小さく感謝の会釈を返した。
「はあ…あの、あなたは?」
「私は国立魔法研究所のミリアム・ステッドリーだ。」
「国立魔法研究所…。」
鮫人間の目に不安と尊敬の入り混じった色が見て取れた。魔物と認識されれば討伐、そうでないなら力を借りたい、そんな葛藤があるんだろう。
「あなた方はその魔道具はどこで手に入れたんだい?」
そう言うミリアムさんの声には純粋な好奇心が滲んでいた。
「独自に開発されたものと聞いています。」
「そいつぁすげえ。」
ロッドが感嘆の声を上げた。
「あんたんとこには独学で魔道具開発できて、それを構築できる技師がいるってことかい?」
「は、はい…えと、素敵なドレスですね…。」
「おお!ありがとな!その魔法使いと技師にあってみてえなあ!」
ドレスを褒められてさらに機嫌が良くなったロッドは褒められたドレスにそぐわぬ声でガハハと笑いながら言った。
「兄ちゃん…。」
ミリアムさんの機転で一息ついた俺に小さな声でジュードが呼びかけた。
「どうした?」
「俺も会ってみたい。」
ジュードが神妙な顔で言った。
確かに、魔物を埋め込まれたジュードと海に適応した進化をして魔物化した鮫人間達には何か共通点がありそうな気がする。
ジュードをこんな体から解放する手がかりがあるかもしれない。
「ちょうど、大魔法使いのミリアムさんと天才魔法技師のロッドが同行している。良かったら魔道具のメンテナンスをしたいから町に招待してもらえないか?」




