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公認偽勇者  作者: 溝野魅苑


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24/35

24.鮫人間

「兄ちゃん!大丈夫?!」

気がつくと砂浜にいた。

「助けてくれたのか…ごめんな、お前に迷惑かけたるつもりはなかったんだけど。」

全く、何が弟を守るだ…。逆に守られてりゃ世話ないだろ。

「そんな…兄ちゃんこそ褒めてくれてありがと。あんな大声出したの初めてだ。」

「ああ…それだが、どういうことだ?あの鮫が人間?」

「うん…兄ちゃんも見ただろ?海底の町。」

「ああ、やっぱ夢じゃなかったのか。いや、でも、だからと言ってあれが人間とは限らないんじゃないか?こないだの猫みたいに隠れて暮らしてる魔物の可能性も…。」

「いや、ジュードの言う通りだ。匂いが違う。」

ロッドが己の鼻を指さして言った。ロッドの嗅覚は仕事の命綱だ。間違いなどあり得ない。

「ロッドが言うならそうなんだろう。でも、じゃああの姿はなんだ?あれじゃまるで…。」

俺は言葉を飲み込んだ。

あれじゃまるでジュードと同じじゃないか。

「あのっ…。」

ちょっと気まずい沈黙が降りたその時、海側から声をかけられ、振り返ると、人間の上半身が砂浜から生えていた。

「うっうわああっ!人間生えてきたあああああっ!」

「あっ!あの!違います!あっ!あっ!生えてない!そう!生えてません!下半身あります!ほら!ほら!ね!」

騒然とする俺達にびっくりしたのか、上半身の人間はオロオロしながら魚のような下半身を曝け出した。いや、魚じゃない。鮫だ。鮫。

「鮫…あ!あんたさっきの?」

「あ、さっきはすみませんでした!あの、まさか勇者様のお連れ様だとは思わず、ま、魔物が来たと勘違いしまして。」

「いや、あんたも十分魔物だろう!」

「確かに…。」

鮫人間は顔を真っ赤にして俯いてしまった。だが、悪い奴ではなさそうだ。俺は鮫人間の隣に座った。

「話はわかったが、まず、その、君達について説明してくれないか?」

「はい。あの、私達は元々は人間でした…」

鮫人間は話し出した。


元々、鮫人間達の住む今の町は陸地だった。それはもう、何千年も前の話…洞窟ができる前の話だ。ある時大きな地震があり、町は海底に沈んだ。本来であれば住民は全員死んでおかしくない。ところが彼らは死ななかった。

誰一人として。

海底で水圧になす術もないまま、死ぬことさえ許されず一日が過ぎた。ただ揺蕩うしかできずにいるのに、生きている肉体は当たり前に生命の欲求に襲われた。まず第一に食欲。自ずと人々は目の前を泳ぐ魚に手を伸ばし始めた。空腹を満たし、睡眠欲に駆られた時、人々は町はそのままの姿を保ち、眼下に広がっていることに気がついた。

ああ、そうだ。家に帰ればいいんだ。

家に帰り、眠り、起きる。魚を取る。気がつくと生活のサイクルが出来上がっていた。

何年もそれを続けるうちに、ある時牙を持つ者が生まれ始めた。牙を持つ者は魚を撮るのが上手く、町に恩恵をもたらした。

また年月が過ぎるうちに魚の体を持つ者が生まれた。彼らはさらに遠くまで魚を撮りにいくことができた。

牙を持ち、魚の体を持つ者がこの町での優性体となり、今ではみんなが牙と魚の体を持つ鮫人間となった。

鮫人間達となってしまったかつての人間達は、既に地上への未練などなく独自の世界を構築していった。しかし1200年ほど前に転機が訪れた。

アリステリア王国の建国である。

リゾートとして開発されたサウティシアの喧騒は海底まで届いた。不安を感じた鮫人間達は地上を定期的に監視するようになり、勇者という存在に気がついた。警戒し、勇者の存在を紐解くうちに洞窟の存在を知った。

魔力と魔物が流入する洞窟。

魔物…その存在は鮫人間達にとっては心の痛む存在だった。自分達は人間ではなく魔物になってしまっているのではないか…。

そうした思いから、サメの背鰭を見せ、人を遠ざけることで海底の町を守り続けてきていたのだった。

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