20.罪の意識
「えー?何それ。いいなあ。俺もその場にいたかった。起こしてくれればよかったのに。」
丸一日眠り、すっかり元気になったジュードは、ロッドとアレッサの顛末を聞いて口を尖らせた。
「お前…お前さ?俺にもすぐ彼女は?とか結婚は?って言うけど、そう言うことに興味津々の思春期を地下牢に幽閉されて過ごしてて何でそんなこと知ってんの?」
「あいつがずーっと頭の中で騒いでて煩いから、聞こえないように外の音に耳を澄ませてたら、みんなどこの誰ちゃんがかわいいとか、デート行った時こうだったとかあーだったとか…そんな話ばっかりしてた。」
そんな悲しい理由から堕落した国の一面を知るとは…。それにしてもなんつう国だ。城の中でそんな話ばっかりって。
「てか、お前聞こえてたの?城中の恋バナが。」
「一応勇者なんで耳とかも人よりいいみたい。」
「それで耳年増に…。」
「しょーがないだろ?あの生活でどうやって童貞を捨てろと?」
「確かに。」
「そういう兄ちゃんはどうなんだよ?いつもモテないモテない言ってるけど、まさか四十二で童貞ってことはないよね?」
ジュードは返す刀で俺を切りつけた。
「そらまあ、それなりには。」
「それなり?それなりって?今彼女いんの?」
まったく…俺以外の人間には、吃るし、「あっ」とか「えっ」とかしか話せないくせに、俺にはグイグイ来やがる。
「いるっちゃあいる…。」
「マジで?!付き合ってどれくらい?」
「んー…もう10年くらいかなあ。」
「えーっ!全然わかんなかった!何で教えてくれなかったんだよ?」
「うーん…。」
話さなかったのは、話しにくかったからだ。
「私のことは気にしなくていいよ。あんたの気が済んでから考えてくれれば。」
マナ…それが彼女の名前だ。本来ならもうお互い身を固めていてもいいくらい、時を重ね、年も重ねているのに踏み切れない俺にマナはいつもそういう。
「でもさ、いつ、俺の気が済むかなんてわかんないぜ?待てなくて次に行くとしても俺はお前を止めないぜ。」
待たせていることは理解している。しかし、魔物と融合している弟がいて、二年に一度、旅に出て半年ほど帰らない…そんな生活をしている人間と一緒になるのが本当に幸せなのか?そう考えると踏み切ることができなかった。
「その程度の気持ちってこと?」
ニヤニヤしながらマナが言う。そんなわけないとわかっていても言っているってことだ。
「違う。申し訳ないんだよ、お前の時間を食い潰してるのがさ。」
「私はそう感じてないよ。むしろ、見届けてみたいかな。」
「見届ける?何をだ?」
「オリヴァー・ガーランドが己の罪の意識にどう決着をつけるのかをさ。」
罪という言葉に虚をつかれた。罪?俺が何に罪を感じているというんだ?
「罪の意識なんて…別に俺は。」
「じゃあ何であんたみたいな不器用で嘘のつけない人間が何十年も偽勇者をやってんの?」
「そりゃ…始めた頃はまだ子どもだったし、それに家族のことだぜ?ほっとけないだろ?」
「でも、続けていくうちに大人になってるじゃん。旅の途中で逃げるとか、国の根幹を揺るがす秘密の当事者なんだから交渉したりとか、大人ならではのやり方はあったと思うよ。」
そんなこと、百遍だって考えた。でも、それでは俺が重圧から逃れるだけで、あんな体にされてしまったジュードは幸せにはなれない。
「今更…。」
「だから、私は待つんだよ。」
この十年でマナとの間に何度も繰り返された会話を思い出す。
「まあ、俺のことはいいじゃん。」
こんな理由を話したらジュードは傷ついて体を手放してしまうかもしれない。
「一番気になるだろ?家族なんだから。」
ジュードは少し寂しそうに笑った。




