19.アレッサとロッド
「あっ!何だ?君達、そんな美味そうなもの食べて!」
俺とロッドが肉を堪能しているところにミリアムさんが戻ってきた。
「おう!婆さん、あんたの分もあるぜ?」
ロッドが手のついてないローストビーフサンドをミリアムさんに差し出した。ミリアムさんは、いそいそとサンドイッチの包みを開けたが、困惑した表情になった。
「肉のボリュームがえげつないなあ。さすがに八十すぎの胃腸にはきつそうだ。アレッサ、半分もらってくれるか?」
「うん。」
「アレッサちゃんも婆さんに似てよく食べるもんなあ!」
ロッドのその言葉に、受け取ったサンドイッチを今まさに齧らんとしていたアレッサはハッとして動きを止めた。
「そういうのいいよなあ。女ってすぐ太るだの痩せるだの言って食わねえだろ。俺、たくさん食う女好きなんだよ。」
ロッドは屈託無く、ただの親戚のおじさんポジションで言ったが、アレッサにはそう聞こえなかったようだった。
「別にあんたに好かれたいわけじゃ…」
アレッサがもごもごと口にした言葉に被せるように、いや、確実に被せてミリアムさんが俺に声をかけた。
「おお!そうだ!勇者様!こっちに見て欲しいものがあるんだ!ちょっと私ときてくれないか?」
立ち上がり、俺の腕をぐいぐいと引く。いや、察するよ?察するけどさ?白々しすぎてバレるだろ?こんなの。
「かしこまりました!お戻りは如何程になりますか?」
「おー。じゃあ俺らここで待ってるわ。」
…鈍い。二人とも、とても鈍い。そりゃ恋仲が進展しないはずだ。
「見てもらいたいものってなんだ…い?」
どこに人の目があるかわからないので勇者様らしい言葉遣いや歩き方に注意をしながらミリアムさんの後を追う。
「数年前に発掘されて勇者の起源なのでは?との仮説の元、ずっと研究されてきてる遺跡があるのだが、この度…」
そこまで話したところでミリアムさんに腕を引かれ花壇の植え込みの奥に引き込まれた。
「何だよ?」
「見て欲しいものを見てもらおうと思ってね。ここなら、あそこからは目が届かないのさ。」
指差した先にはロッドとアレッサがいる。
「はぁ…。」
どいつもこいつも本当にこう言う話が好きなんだなあ。
「アレッサがここで働いてるのもミリアムさんがお膳立てしたのか?」
「とんでもない。それはあの子の努力だ。」
「それは…失礼した。」
「魔力がないとわかった時にはものすごく落ち込んでいてね。それがいつの頃からか、マナーや礼節、タスク管理なんかを学び始め、礼儀正しく手際が良いとして今の職に就いたんだ。」
「そうか…その、じゃあこないだは失礼な事を言ってしまったな。申し訳ない。」
「いや、人それぞれ得手不得手はあるものだ。気にしなくていい。それより見てみろ。」
そう言われて目を向けると、ロッドがアレッサに何か話しかけている。
「はあ…参ったな。婆さん達おせえよな。気まずいだろ?俺と二人って。」
そわそわと貧乏揺すりをしながら辺りを見回す。俺らを探しているんだろう。
「ミリアムさん、行った方が…。」
「しっ!」
ミリアムさんは、その厳しい声色とは裏腹にニヤついている。
「オリヴァーくんは、まさか童貞ではないよな?」
ジュートのみならずこの人まで…そんなに俺はモテなさそうか?
「そんなわけないだろう?もう四十過ぎてんだぞ。」
「じゃあわかるだろ?この空気感がどう言う空気なのか。」
そりゃあわかる。わかるけどこのままほっといてどうにかなるだろうか?二人ともぎこちなくて。
「ロッドはあんなだからな、当然童貞なんだよ。」
ムキムキでツインテールでピンクのドレスじゃあ、まあ、そうだろうなあ。
「ってか、何で知ってんの?怖ぁ…。」
こそこそとそんな話をしているとアレッサの声が聞こえた。
「べっ別に…お構いなく!」
そして、沈黙。
「あー…あのさ、君が魔力ないってわかった時、俺、色々話したじゃん?もしかして、なんか失礼なこと言ってた?」
「え?」
「いや…それから、なんか冷たくなったって言うか…。」
「そういうわけじゃ…。」
「そっか…ならよかった。アレッサちゃんを傷つけたんじゃなくて…じゃあ、あれだな、年頃になったってことか。小さい時からの知り合いのおじさんとかと話すの気恥ずかしくなるもんな。特に、こんな俺だしな。」
ロッドはツインテールの髪の先をクルクルと指で回した。
「そっそんな事…私言ってないでしょ!」
「お…」
キョトンとしているロッドを尻目に、アレッサはサンドイッチをバクバクと頬張り食べ終え、コーヒーをぐいっと飲み込み口を開いた。
「ありがと。」
「はえ?」
「あの時のお礼、言ってなかったから。」
「そんな事、気にしてたのか?」
「あんただって気にしてたじゃん!」
「そう言えばそうだな!ははっ!魔力のない者同士気が合うなー!」
ロッドの屈託ない笑顔に釣られてアレッサも笑顔になった。ホッとして隣を見るとミリアムさんもにんまりと笑っていた。
「さあて!戻るとするか!オリヴァーくん。」




