17.国立魔法研究所へ
「ちょっと寄りたいところがあるんだがいいか?」
馬車の準備をしていると、ミリアムさんが言った。
「いいけど…どこ?」
「国立魔法科学研究所だ。」
国立魔法研究所って言ったら国一番の魔法の権威じゃないか。正直、俺はあまり行きたいところじゃない。堅苦しくてちゃんとした頭の良さそうな人達にへらへら愛想笑いするのは、正直気が重い。
「んー…まあいいけどよ。そんなとこに何しに行くんだ?」
「何しにって仕事だよ。」
「えっ!?ミリアムさん、そんな大層なとこで働いてたの?そうは見え…あっいや…。」
慌てて口を抑える。
「堅苦しい奴らがいる印象しかないかい?」
ミリアムさんがイタズラっぽい笑顔で言った。何でもお見通しってわけか。
「えー…うん。正直…。」
「まあ、勇者の君に挨拶するような人達はそうだったかもしれないね。」
「勇者じゃねーけどな。」
「魔法研究のために国から毎年の予算を出させなきゃならないからね。彼らはそのために外交に特化してる人達なんだよ。あの堅苦しさも君は苦手かもしれんが国に対してなら立派な武器になる。どちらかというと研究者は変わり者が多いよ。」
「ああ、ミリアムさんみ…あ…。」
今度は両手で口を塞いだ。何で俺はこうなんだ…。
「君は本当に素直でいい子だな…。」
「あ…ご、ごめんなさい。いや、悪い意味で言ったつもりはないんだが。」
それは本心だった。見た目はどうあれ、親子ほど歳が離れた人がそばにいてくれるのは、頼りになるし、その上魔法の知識もあり、魔法も使える。何より俺とジュードの秘密を分かち合えるのは本当に気が楽だった。
「まあ、よく言われるし気にしちゃいないよ…私ほどの天才ともなると凡人にはそう見えてるんだろうし…別に…。」
「俺はその方が好きだぜ。」
俺の言葉にミリアムそんは一瞬戸惑い、それからニヤリと笑った。
「…君は本当に素直でいい子だな。」
「しかし、仕事って事は、ミリアムさんは一緒に来てはくれないのか?」
あのジュードが懐いてる。早くから母親と離れて男やもめの親父と一人息子の俺と暮らしてて、その四年後には牢に幽閉生活だ。親ほど歳上の女性に懐くのも無理はないだろう。
「行くさ。私しか最新のリミッターの魔法受動体を扱うことができないからな。そのために息子と孫に仕事の引き継ぎを頼みに行きたいんだ。」
「うげ…。ババアの孫に会うのかよ。」
背後から声がした。
「あー、ロッド。起きたのか。おはよう。」
「おう。兄ちゃん、ジュードは…大丈夫なのか?全く起きる気配がないが。」
「まあ、勇者だから、魔力はほぼ底無しとはいえ、あれだけ一度に放出すれば体力は消耗するんだろう。しばらくほっといてやってくれ。」
「おう。まあ本当にすごかったしな。俺ぁ勇者が魔力を解放する姿を見たのは初めてだったけどよ、あれほどとは思わなかったぜ。」
俺もあそこまでの力の放出は初めて見た。ジュードの全身が炎に包まれ、姿は巨大な獣のような、魔物のような、人間離れしたものに変わっていた。放出された魔力は今までの旅でリミッターに注いだものの何倍、いや、何十倍、何百倍とも思える強さで、周辺の森は一瞬で消え去った。それでも止まる事はなく、このままではウェティシアを消し尽くしてしまうのでは…と不安を感じるほどだったが、リミッターは渦を巻く魔力の青白い炎を全て吸い込んでいった。
「マジかよ?あれだけの魔力を…。」
思わず口をついて出た言葉は、ジュードにもリミッターにも向けられたものだ。
それからジュードは眠り続けていた。
「そんじゃまあ、ジュードも起きねーし、国立魔法科学研究所に向かいますか。」
俺は馬に鞭を入れた。




