16.決意
体が焼かれてるように熱くて痛い。体が動かない。声だけは出せるから叫ぶけど、叫んでも叫んでも何も変わらない。頭に黒い靄がかかり、何も考えられず、何も感じられなくなった。死んだかと思ったら頭の奥から恐ろしい叫び声が聞こえた。
「肉体だ!受肉成功だ!血だ!血をよこせえええええええっ!もっと!もっともっとだ!血を!血を捧げろおおおおっ!!!!殺せ!壊せ!全てを破滅に追いやれ!血を流させろおおおおおっ!」
体中血塗れだった。洗いたい。全て洗い流してしまいたい。
くそ、これは夢だ。
「な…んで、お前…。」
この旅の間はいつも見る夢を見ない。見るのは幸せだった子どもの時の日々の事。それなのに今回は…今回だけはあいつは夢を見せてくる。それは多分…
「お前の思い通りにはさせないって事だよ。」
頭の中で声が響く。
「どう言う意味だよ?」
「お前はあの脳筋バカ兄貴の考えに希望を見出しているだろ?」
小馬鹿にするように声がいう。確かにそうだけど兄ちゃんを悪くいうな。
「悪いかよっ?!三十年、ずっとお前に苦しめられてきてんだぞ?それから逃げられるかもって思って何が悪いんだよ!」
「苦しめてなんていないぜ?お前が勝手に苦しんでるんだ。」
「だってそれは…。」
死ぬってことだ。あの時、体を乗っ取られた俺を、兄ちゃんが連れ戻してくれた大事な命だ。簡単に手放せない。それに俺が死んだら全てを知ってる兄ちゃんだってただでは済まない。
「体を寄越せば苦しむ必要は無いのにお前が勝手にそれを拒んで苦しんでるんだよ。」
「それをしたら…お前だって殺される!」
その瞬間、脳みそに直接何かを突っ込んでかき混ぜられたかのように思考も感情も感覚もぐちゃぐちゃに乱れた。痛みとは違う苦痛。
「ジュード!?」
目を開けると兄ちゃんの心配している顔が見えた。俺は体中、汗に塗れてた。悲鳴をあげていたのか、ミリアムさんとロッドさんも不安げに俺を見ている。
「んあ…あ…兄ちゃん。ごめん、うるさかった?」
「気にすんな。どーせ起きる時間だったから。」
「ジュードくん…大丈夫か?」
ミリアムさんが俺に手をかざすと小さな魔法陣が現れた。
「魔力が不安定になっているね…リミッターへの魔力の供給、難しいかい?」
「や…」
「やるなあっ!」
俺の答えを遮るように頭に響く怒号。じんわりと広がる靄と頭痛。
「んう…だ、大丈夫…やれます。」
兄ちゃんが眉間に皺を寄せて俺を見る。
「ジュード…。」
「大丈夫、大丈夫だから。」
正直、今の状態でうまくやれるかわからない。でも、やらなきゃ。
「考えすぎんなよ。この旅は遊びが八割だからな。」
兄ちゃんがそう言って俺の肩をポンポンと叩いた。
「うん。」
あいつの声が聞こえない時には力を自分のものとして発露できていた。今、あいつの声が聞こえているのにそれができるか不安がある。それに…もしそのまま体を取られてしまったら…。
重い沈黙の時間が流れた。力が出せない。不安な気持ちが踏み切ることを止めてた。
「ジュードくん?今日はやめておくかい?」
「え…。いや、あの、だっ大丈夫…」
「体を渡すなら力を使わせてやるよ?」
またあいつの声が頭に響き、頭の中に黒い靄が広がり始めた。喉の奥から唸るような、笑うような声が迫り上がってくる。
「ゔゔああぁぁぁっ!…あ…わ…」
兄ちゃんが駆け寄り、俺の肩に腕を回した。
「オリヴァーくん、どうした?」
兄ちゃんの様子にミリアムさんが慌てた声を出す。
「あいつだ。あいつが動いていやがる…。そうなんだろ?」
「怖いんだよっ!あいつを抑えられてない時に力を使って…もし、俺があいつになっちゃったら…。」
兄ちゃんは俺の肩を摩りながらしばらく考えた末、口を開いた。
「俺は何の力もないただの牛飼いだ。わかったよーなことや気休めになる無責任なこたぁ言えねーよ。でも、お前がどうしたいか考えて決めたことに誰にも文句言わせないことはできる。だからお前が決めろ。」
力強い言葉は俺の気持ちも強くした。
「も一度やる。もし俺があいつに乗っ取られたら…俺を殺してくれ。」
「ジュードくん!それは…」
「わかった!任せとけ!」
「ちょっとオリヴァーくん!」




