15.ある考え
「なんだかんだで夕方になっちゃったな。擁壁は明日、一人でやるか。」
洞窟に戻った頃にはすっかり陽が傾いていた。ジュードはあれから黙りこんでいる。
「おかえりー…おや?ジュードくん、何かあったのかい?」
俺たちが戻ったのを見てミリアムさんが声をかけてきた。ジュードは俯いて黙ったままだ。
「ちょっと、色々あってな。」
かいつまんで話をするとミリアムさんはふむっとため息をつき、ジュードに向き直った。
「私はね、もちろんリミッターの開発に関わっているものとして正しく使ってほしいと言う思いは持っているよ。でも、それよりは目の前にいる人たちの幸せを守りたい。もちろんその人たちには、ジュードくんもオリヴァーくんも含まれているよ。」
ミリアムさんが背伸びをし、蹲るジュードの頭を優しく撫でながら言った。
「ん…。」
ミリアムさんの言葉にジュードはかすかな声だが答えた。
「俺も?俺は幸せだぜ?」
ミリアムさんはふふっと笑った。
「オリヴァーくんはいい子だな。」
「はあ?子って?子って何?俺、もういいだけおっさんなんですけど?」
「八十三のババアから見りゃ子だよ。」
そうだった。いけない、どうも感覚が狂う。
「よう!おかえり!兄ちゃん!夜ご飯何?!」
こちらもこちらで調子が狂う。
「なんであんたまで兄ちゃんって呼ぶんだよ…。」
「まあそういうな、兄ちゃん。」
ミリアムさんが言う。
「いや、あんた八十三のババアってさっき…。」
「ふっ」
アホみたいなやり取りが気持ちをほぐしたのか、ジュードが静かに微笑んでる。仲間がいるっていうのはありがたいと心底思った。俺一人じゃこうはいかなかっただろう。
「よし!期待されてるならしゃーない!飯作るぞ!」
「じゃあ婆さんよ、俺らも最後の追い込みだー!」
「頑張れー。」
「あんたもやるんだよっ!」
やれやれ、本当に賑やかだ。賑やかで、とても楽しい。
「ジュードはこっち手伝ってくれ。」
「うん。」
ベーコンと、町で手に入れた野菜を炒めてトマトと水を入れて、蓋をして火にかける。
「ジュード、火加減見守っててな。」
「いいけど…これであってんの?ふた、乗っかっちゃっててしまってないよ?」
「大丈夫。むしろ、ふた閉まってからの方が焦げないようにしなくちゃいけないから、気をつけてくれよな。」
「わかった。」
その間に俺はベーコンを刻んで米と一緒に炒める。後はなんか適当に豆やらとうもろこしやら入れて塩、胡椒を軽く、それからスープで炊き込む。
具沢山のトマトスープとピラフ。いい感じだ。
「ふぃー…こっちはなんとか物理的な補強は終わったぜ。」
ピンクのふわふわのタオルで汗を拭きながらロッドが言った。
「魔法受動体も交換したよ。あとは明日…ジュードくんの力を借りてアップデートすればとりあえずウェティシアの洞窟に君らが二年ごとに来る必要はなくなる。」
ミリアムさんが料理を物欲しそうに覗き込みながら言った。
「本当にすげえな!夢みてえだ!」
「でも…そんなにうまく行くか?」
ロッドが汗と汚れを拭い、ピンクのドレスに着替えながら呟いた。
「お疲れ様で済まされるとは思わないんだけどな…。」
俺はチラッとジュードを見た。ジュードはミリアムさんに配膳している。
「まあそん時はそん時よ。」
そんなことは俺もちゃんとわかっていて、あることを考えていた。ただジュードの前でそれを話したくない。
食事が終わり、ジュードとロッドは早々に眠りについたが、俺はぼんやりと焚き火の前に座っていた。
「さっき、ロッドが言っていたことだが…。」
ミリアムさんが隣に来て言った。
「君は私に、国がジュードの力を知っていることが武器になると言っていたよな?」
「うん。」
「あの時も言ったが、それだけだと楽天的すぎる。それで脅したとして、君たちが殺される可能性があるんだぞ?」
「なんとか…」
「ならないだろうと、私の優れた頭脳が結論づけているから言っているんだ。君達が式典で全てをぶちまける。国が君達を拿捕しようとする、或いはもっと悪いことをしようとする、その時にジュードくんが魔力を解放しようとする、それで怯む…怯まなかったら?それにその後だって君達を暗殺することだってできる。」
「わかってるよ、そんなこと。」
「じゃあ具体的にどうするつもりなんだ?」




