13.町に出よう
買ったものを運んだ後のロッドの作業には魔法の知識や魔法そのものが必要で、ただの牛飼いの俺に手伝える事はなかった。ジュードは寝ている。魔力温存のためもあるのだろうからこのまま寝かしておこう。
暇だ。
手持ち無沙汰で落ち着かない。
「飯作るくらいしかできねえなあ。」
暇に耐えきれず何かしようと一昨日塩漬けにした猪肉を燻煙してベーコンにすることにした。
「ゔ…ゔぅ…」
ジュードの苦しそうな唸りが聞こえた。多分、魔物が抗っているんだろう。今までなら旅の間、魔物はジュードに抑え込まれている。こんな風になるのは初めてのことだった。それだけリミッターのアップデートが魔物を焦らせているんだろう。
「おい、大丈夫か?」
俺はジュードを軽く揺さぶり声をかけた。
「…う…うん…大丈夫。あれ?兄ちゃん、なんか作るの?」
「ああ、ベーコン作ろうと思ってな。パンも焼けば手軽だけど腹持ちのいい飯になるだろ?」
「おー、美味そうだね。なんか、手伝う?」
「いや、お前は後で大役があるんだから今はのんびりしてろよ。」
「なんかやってないと気まずい。」
離れて暮らしてても血は争えないというか…やはり兄弟だな。考えてることが同じだ。
「それな。とは言え、俺もどうしていいかわからん。とりあえず飯作るしかできねえから、お前はパン焼いてくれ。」
ジュードはほっとしたように笑って作業に取り掛かった。
二時間もしたら、あたりはスモークされた肉の油とパンの焼き上がる香ばしい匂いで満たされた。
「おーい…区切りのいいところで飯にしようぜ?」
「うおっ?すげえ!ちゃんとしてる!通りでいい匂いすると思ってた!」
ロッドが鼻をひくつかせながら言った。
「そうかあ?あるもんで簡単に作っただけだよ。」
「マジか…お前、いい奥さんになれるタイプじゃん。」
「よくわかんないけど褒められたって思っとくわ。」
「思えば、オリヴァーくんのこの料理の腕がなければ、私と出会うこともなかったしな。」
ミリアムさんも目を輝かせてパンに挟まれたベーコンを見ている。
「この高慢でわがままな婆さんが褒めるなんて…あ、美味…。」
「週末だけだけど牧場でカフェもやってるからな。ただの男やもめとは違う自負心はあるぜ。」
「へー。じゃあ落ち着いたら食いにいくわ。」
「おー。サービスすんぜ。」
風が気持ち良い午後だ。ロッドはゴロンと横になりウトウトし出している。あー、これが単なる旅だったらなあとぼんやりと思う。まあ、終わればウェティシアの美味いもん食ったり観光したりの時間も取れるだろう。
「どんくらいかかるもんなんだ?」
「物理的な補強は今日中になんとかできるだろうな。んで、明日、ジュードに魔力注いでもらって、それからアップデート。まあ、一日かかると思ってもらえれば。明後日地脈から魔力を得るための魔法をミリアムにやってもらって、そのあと一日様子見で終わりかな。」
「結構かかるもんだなあ…なんかやれることないか?申し訳ない気持ちになる。」
隣でジュードも頷いていた。
「うーん…やってもらいたいことはもうやってもらってるしなあ…まあ、夕飯も期待してるから、そっちをよろしく頼むよ。」
「おお…それくらいなら頼まれなくてもやるよ…そうじゃなくてさ…。」
「あんた、いい奴だな。でもマジでここはプロに任せとけ。」
そういうとロッドは立ち上がり、また作業へと戻っていった。ミリアムさんも後に続く。また、ジュードと二人取り残されてしまった。
「じゃあ俺らで崖崩れ補修するか。水気で地盤が柔らかくなってるから、擁壁を作った方がいいな。ジュード、町に買い物に出よう。」
「えええ…。」
ジュードの顔が曇った。
三歳でうちに来た時から、ジュードは気が弱くて人見知りで、人が大勢いるところが苦手だった。初めのうち、親父は村のみんなにも慣れて欲しいと考えて連れて歩いたが、真っ青な顔で目に涙をいっぱいに溜めて震えて歩く姿を見て連れ出すことを諦めた。その代わり、牧場の仕事や自分の身の回りのことを教え、人と関わらないでも生きていけるようにしようとしていた…まあそれもその四年後には潰えるわけだが。
「ジュード、この計画がうまくいったら、お前も村や町で人に紛れて生きることになるんだからさ、最低限は人に慣れないとダメじゃないか?」
「そ、そしたら、兄ちゃんの牧場手伝うから…。」
「お前さー、すぐ俺に彼女だの結婚だのいうけど、四十近い引きこもりと暮らしてる四十過ぎの男に嫁ごうなんて女いないぜ?」
「そん時は俺は牛小屋で暮らすから…どうせ見た目熊だし。」
「熊と牛は違うだろ…じゃなくて!だめだめ!人間らしく生きれるようにならなくちゃ!ほれ、行くぞ!」
「ううう…。」
俺は涙目のジュードの腕を引き、馬車に押し込んだ。




