12.買い物
断崖絶壁のような険しい岩山の中腹にある西の洞窟は周辺の崖が崩れ、岩に覆われていた。
「まただ…。」
ジュードが呟く。そう、前回もここは同じ有様だった。幸いリミッターは無事に動作していたが、いつ止まってもおかしくないほど魔力は減少している。
「兄ちゃん、みんなを連れて馬車に戻ってて。」
ジュードの目が赤く光り出し、身体中の傷が血を流す。魔物がいるのか?
「ロッドさん、魔物の匂いはするかい?」
「いや…大丈夫だ。」
「ジュード、落ち着け。」
ジュードの肩を軽く叩き落ち着かせてから、俺は周辺の地面を調べてみた。岩山の合間に土が固まっている。土砂に流されたかのようだった。
「地面の水分量が増えて弱くなってんのかなあ。四年前に何が水害があったりした?」
「うーん…覚えてない。」
ロッドの答えを受けて、ミリアムさんが何か閃いたようだった。
「特にはなかったが…もしかしたらあっち側ではあったのかもしれんなあ。」
「あっち側?」
「異界の方さ。繋がっているならこっちにも影響はあるんじゃないのか?」
「なるほどな…いや、やっぱミリアムさんはすげえな。そんな事考えもしなかった。」
「リミッターの魔力供給システムは私が開発しているからな。この世界が異界と地続きであることは魔力の地脈からわかっているんだ。」
「地脈?」
「そう。魔力は地中を流れている。地下水のようにな。その発見があったからリミッターは勇者の力を借りずに済むようになった…まあ、だから、この計画が成功したら私はこの国の救世主となるわけだよ。」
ああ…また自己肯定感が増大化してる。
「そんな大きい話になると、俺には何もわからねえが、とりあえず俺達兄弟は救われるよ。」
「うは…すげえな。マジでこれ、最初期から何にもしてねえ…これ、物理的にも手を加える必要があるし、その後アップデートするのに三日はかかるぞ。」
リミッターを確認していたロッドがうんざりした声で言った。
「物理的な工作なら手伝えるよ。」
「おお、それはありがたい。」
ロッドはぶつぶつと言いながら、紙に何かを書き始めた。しばらく考えてる風情で、ふと手を止めてジュードに声をかけた。
「ジュードはのんびりしててくれ。再起動の時、魔力を注入する時にたっぷり力を貸してもらうから。」
「本当にそれだけで大丈夫なのか?今まで二年ごとに遠征してきていたが常に息切れしかけていたぞ?」
二年ごとの遠征をしなくていい…そんな話を聞いても三十年も続けていた事だ、俄かには信じられなかった。
「さっき婆さんが言ってたろ?魔力の地脈。今のリミッターは、その地脈を利用して魔力を異界から取り入れる。ただ起動してからじゃないとそれはできない。でも起動するには魔力がいる。それも膨大な。だからそこはジュードに頼るしかない。」
「わ、ワカリマシタ…。」
「じゃあ、早速町に必要なもの買い出しに行くぞ。」
キビキビと場を仕切るロッドの姿は、ツインテールもふわふわのドレスも霞むほど、男らしく頼もしいものだった。
「おう!楽しみだなあ!牧場やら村の爺婆に頼まれてやらでいろんなもん作ったり直したりしてきたけど、魔道具に関わるのは初めてだよ。」
俺は俺でワクワクしていた。元々ものづくりは好きな方だ。初めて関わる魔道具作りは心が踊る。
「よお!変態ロッド!」
「誰が変態だ!何度も言ってんだろ?俺は嗜好とルックスが一致してねえだけでまともだ。」
多分行きつけの道具屋なんであろう、出会い頭からの気のおけないやり取りが心地よい。が、店主が俺を目にしたところで空気が変わる。
「あれ?あんた…勇者様かい?こいつは失礼いたしました!」
深々とお辞儀をする店主。その目に宿る畏敬の念。居心地が悪くて棚の品々を見ているふりをしたが、いずれ、俺はそれらの品々に目を奪われた。
「おおー…何するもんだかさっぱりわからねえ。でもそのわからなさが逆にワクワクさせるぜ。」
「そんなもんかね?まあ、仕事となればそうかもな。はい、じゃあこれ持って!」
ロッドは紙に書いたメモを見ながら品定めをし、選んだ物をどんどん俺に手渡してきた。また、己の両手もいっぱいに塞がっている。
「今のままじゃ受け入れられる魔力の強さも量も違うから、水晶体を最新のものをすんだろ?同時にそれを動かせる基盤も全部取っ替えなきゃいけねえ。そのカロリーを躯体が支えられるとも思わないから補強もしないと…。」
見る間に馬車は見慣れないものでいっぱいになった。




