11.変態ロッド
「あんたら、いつも俺を変態変態いうがな、俺だって好きでこんな変態染みてるわけじゃあねーんだ。」
身長は百九十三センチある俺より少し低いくらい。ピンクのふわふわのドレスに包まれた、パッツパツに発達した大胸筋。鼻筋の通った彫りの深い顔立ちにツインテール。
「もっと中性的な見た目に生まれてりゃあよお、こういうのだって可愛いですんだはずだろ?それがなんだよ?この太い眉に奥まった目は。だから俺は、変態なんじゃなくて、嗜好とルックスが一致しないという業を背負って生まれただけなんだよ。」
魔法科学推進派の幹部達が寄越した男はミリアムさんにぼやいていた。
「あんたらというが私らだけじゃない。お前が変態だというのは一般的な認識だぞ。」
ピンクのふわふわしたドレスの袖から伸びる太くて逞しい腕とその先にあるゴツゴツとした手は仕事をして来た職人のものだ。こいつの腕は信用できると直感的に思った。男は舌打ちをして、視線を俺たちに移した。
「俺はロッド・ターメリック。魔法技師だ。俺に仕事を頼みたいのはあんたらか?…おっ…ちょっとお前、俺と並んでくれねえか?」
ロッドはズカズカと近づき、ジュードの腕を掴んで引き寄せた。
「ひぁっ?!あっ?えっ?おっ…俺?ぇ?なん…?え。」
「ほらな!俺よりでけえこの熊ちゃんみたいな男と並びゃ、ちゃんと俺、可愛いだろ?だからこのバカ高え身長と力仕事でついた筋肉がダメなんだって!こうやって相対的に見れば可愛いじゃん!」
うんざりした様子でミリアムさんが口を挟んだ。
「いや、ロッド。お前は可愛いは向いてないぞ、やっぱり。」
「あ?ババア、てめえっ!寿命が尽きたら死ねよ!」
絶対いい奴だ…。
「悪口も向いてない。すまないな、オリヴァーくん。この、ロッドという男は、こんなおかしな奴でもこの町で一番の魔法技師なんだ。」
ミリアムさんが歯に衣着せずに言った。
「それはありがたい。よろしく、ロッド。俺はオリヴァー・ガーランド。みんなが知ってる勇者だ。君の隣のほぼ熊がジュード・ガーランド、本当の勇者だ。」
ロッドが怪訝な顔をした。
「本当の勇者…?」
まあ当然の反応だと思ったが次に出た言葉は予想外のものだった。
「魔物じゃないのか?」
ジュードの顔がサッと青ざめた。
「なぜそう思う?それが君の魔法の力かい?」
「いや、俺は魔力はない。ただ鼻がいいんだ。魔力の匂いがわかるんだよ。魔物かそうでないかだけじゃなくて、魔力の強さ弱さ、後種類とか…まあそういう体質なんだよ。」
そりゃ腕がいいはずだ。魔法技師は、魔力の強弱、適性なんかを見て魔道具を作ったり調整したりする。その判断に時間もかかるし、見立て違いが起こる場合もある。それが匂いでわかるなら、早さも正確さも頭ひとつ抜きん出るのは当然だ。
「まさに天職だな。」
ロッドはしたり顔で頷く。
「ジュードは魔物を体に埋め込まれて勇者に作り変えられた。元は気の弱いただの人間だよ。」
ミリアムさんが言った。その後を引き継いで俺は全てを話した。ロッドは気まずそうに頭をかきながらジュードに頭を下げた。
「おお…そらぁ悪りいこと言っちゃったな。ごめんな。」
「えっ?あっ!は…。」
ジュードがオロオロしながら俺の顔とロッドの顔を見比べている。
「責任は俺が全て負うから協力してもらうことはできないかな?」
ロッドの顔が、それまでのヘラヘラした顔から厳しい顔つきになった。プライベートと仕事のスイッチのオンオフができてる証拠だ。俺は益々気に入った。
「いいけどよ、リミッターのアップデートにはそれ相応の魔力は必要になる。しかも、東西南北の全部だろ?結構な消費だぜ?あんたからは全く魔力の匂いを感じないし、勇者に憑いてる魔物の魔力でも、二年ごとに一箇所ずつならまだしも今回で一度に全部っていうのは不安が残る。」
「君は若いから、勇者の力がどれほどのものか知らないんだろうな。」
ミリアムさんが口を挟んだ。
「出たよ、そーゆー態度、老害って言うんだぜ?ジュードに憑いてる魔物でも…怪しいって言ってんの!それが更にジュードを介してる分出力は減るんじゃないのか?」
「お、怒ってるから…。」
ジュードがおずおずと口を開いた。
「え?」
「あ、え、あいつ、お、俺に、お、怒ってるから…そのせいかも…。」
「なんじゃそりゃ?そんなもんかなあ。まあでも、面白そうな話じゃん。いいよ、一緒に行ってやるよ。」




