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狂戦士代表

ここまでの集大成って回では有りますが……ここに来るまで、大分回り道してしまった気がします。もっと時間があれば、もう少しスマートにここまで来れたのに…。力量不足で申し訳ないです…。

あと一、二回でこの章が終わってクライマックス章に入るので、もう少しの辛抱です!しばしお付き合い下さい!

 彼女が勇者だと聞いた時点で分かってはいたが、俺達は今、狂戦士ギルドへと向かっているらしい。


 殆ど戦えない俺と神官ギルドの信徒二人、そしてサクしか近くにいないという絶望的な状況。

 本来なら相手のギルドに出向くのは望ましくないが、先行する少女からは敵意が一切感じられず、俺達は自分でも驚くほど素直に彼女についていった。


「それで、助けてほしいってのはどういうことなんだ?」


 彼女の不自然な物言いが引っかかっていた俺は、ギン達の安全が確保できる距離まできたところでようやく尋ねた。あまり面倒な話だと、近くに混乱状態のギン達がいては危険が及ぶと考えたのだ。


 最悪のパターンもマシなパターンも複数考えた上での、覚悟を決めた質問。

 だが、返ってきたのは全く予想していない答えだった。


「難しいことじゃないよ。ただ、私とお話してほしいだけ」

「えっ」


 予想を遥かに超えて、拍子抜けな答え。俺は思わず聞き返してしまったが、特に聞き間違いということはないようだった。


「お兄さん達も見たでしょ? 囲ってたお姉さん達がおかしくなるの。だから私、殆ど人と喋れないんだー」

「ギン達がおかしくなると、どうして人と喋れないのでござるか?」

「ちょっと待て! そもそも俺はギン達を囲ってなんかいないからな!?」


 サクが平然と会話を続けようとするので、意識を正すために慌てて修正する。だが少し経って落ち着くと、イアの言葉が頭に入ってきて驚愕した。


「おい、今の話……。ギン達がおかしくなったのは、お前の意思じゃないってことか?」

「そうだよ。私を見た人は、皆おかしくなって私を殺そうとするの」


 明かされた事実に、俺は言葉を詰まらせた。


 見られただけで相手を狂わせる。それでは、人とまともに喋ることすら出来ないじゃないか。


「じゃあ、なんで俺達はなんともないんだ?」

「そんなの知らない。勇者の皆は少しの間ならお話し出来るんだけど、最近あまり構ってくれないし」


 どうやら、勇者達は持ち前の抵抗力によってすぐには彼女の能力にかからないようだ。しかし最近は俺のせいで彼らに余裕がないため、全く話せなかったのだろう。


 誰とも話すことが出来ない孤独。この世界に来る前の俺も似たようなものだったが、幼い少女にとって、俺なんかとは比べ物にならないほど苦しかっただろう。


「なら仕方ねぇ。とにかくお前と話しとけば、殺さないでいてくれるわけだな?」

「ははっ、信じてくれるんだ?」

「まぁな。そうでなければ、こんなところまで来ねぇよ」


 少し前だったら、たとえ殺意を感じなくても相手を信じはしなかっただろう。

 だがこの世界で色々な人に出会い、その上ギン達のお陰で自分を信じられたお陰で……相手を信じる事も、昔に比べれば出来るようになっていた。


 俺は確実に、この世界に来て変わっている。ギン達に会って、色々な勇者達に会って……。その度に、俺はこの世界での身の振り方を変えられている。


 自分に芯がないからだと、落ち込んだ事もあった。意志もなくギン達を率いて、これで良いのかと。しかし今は、それも違うと思える。

 俺の答えにイアは顔を綻ばせると、早速質問をしてきた。


「じゃあ、まずは質問。お兄さん達は、一体誰なの?」


 問われたのは、俺が何者なのか、という単純な質問。しかし今の俺は、その問いに対する明確な答えがなかった。


 好奇心に満ちた目で見つめられながら、俺はゆっくりと言葉を探す。そして、ギンの顔を思い出しながら、答えた。


「俺は、ただの人間だよ。空っぽで、周りに振り回されてばかりのな」

「えー、そうは見えないけど……」


 隣のサクに目をやりながら、イアが不満そうに言った。彼女にはサクが魔人であることもお見通しで、嘘をつかれたと思ったのだろう。


 それでも俺は、答えを変えない。


「いや、本当だよ。人と関わるのさえ苦手だったし、信念とかなかったし。もし俺が変に見えるなら、それは……」

「それは?」

「俺の周りが変だっただけだ」


 俺が笑って言うと、周りにいた内の一人であるサクがショックを受けたような顔をしていた。お前は変な奴の中でも上位にいたのに、自覚なかったのかよ。


「お話ししようって言われても、自分自身については殆ど語れなくて悪いけどな」


 一呼吸置いて、言う。


「周りの人については、いくらでも語れる。俺が空っぽだったからこそ、魔人や、勇者達の生き方が刺激的で、影響されてきたんだ」

「魔獣とも、勇者とも会ってきたの……?」

「あぁ。クズな勇者とか、俺以上に無個性を気にしてる勇者とかいたよ」

「あ、虐殺と轟雷だー」


 イアが笑いながら、懐かしそうに言う。つい忘れそうになるが、この少女も勇者なのだった。


「勇者とも魔獣とも話した、か……。お兄さん、なんだか魔王に似てるね」

「……!? 魔王に会ったことがあるのか!?」

「うん。魔王はお兄さんと同じで、私とも普通に話せたし。……もしかして、お兄さんは魔王なの?」


 ギン達の話では、魔王も支配能力を持っていたという。俺はようやく、イアの能力が自分にかからない理由に気が付いた。

 支配能力で複数の意識が連結しているため、体の損傷はともかく意識への影響が分散されているのである。能力で防げているということは、サクが無事なのも選択阻害能力のお陰だろう。


 やはり、支配能力は特殊だ。この能力のお陰で多くの人に関わる事が出来て……そして、この能力のせいで多くの人を傷付けた。


「俺は魔王じゃないし、自分について話せることも殆どないけど……。一つだけ、一つだけ俺にしか言えないだろうって事がある」

「お兄さんにしか、言えない事?」


 もうすぐ狂戦士ギルドに辿り着きそうな、ギリギリのタイミング。相手の反応によっては無難に殺せる、そしてギン達にも危害が及びようのない場所で。

 俺はとうとう、最近ずっと考えていた計画を口にした。


「俺は、勇者と魔獣に停戦協定を結んで欲しいと思ってる」


 俺の言葉を聞いた二人は、固まった。特にサクの狼狽は激しく、信じられないものを見るような目で俺を見つめてくる。


「なっ……、そんなの聞いてないでござるよ!? む、無茶でござる!」

「だろうな。でもこいつさえ意見に賛同すれば、勇者は残り半分。そろそろ相手に、降参か停戦かの二択を突きつけられる頃合いだ」


 そこまで言うと、爆発したかのようにイアが大声で笑い出した。


「はは、はははははっ! 凄いねお兄さん! 勇者の皆より、よっぽど狂ってるよ!」


 天にも昇りそうな笑顔を浮かべて、イアは叫んだ。


「そんなに殺気を迸らせて、私が少しでも難色を見せたらすぐ殺すつもりなくせに、停戦協定っ! よく言うよっ!」


 確かに俺は、イアが首を横に振った瞬間にサクに殺害を命じるつもりだった。

 停戦協定などと口にはしたが、決して甘ったれたわけではない。これ以上、ギンが優しさと呼ぶ弱さのせいで、ギンの手を煩わせるわけにはいかない。


 全てはギン達のためだ。俺がギン達の役に立てたなら、他の人間だって彼女達のためになる。

 この世界に来る前の俺のように、周りとの関わりを断つよりも。自分と違うものを完全に滅ぼしてしまうよりも。無理をしてでも周囲を知り、関わっていくべきだと、この世界に来て学んだのだ。


 俺の言葉が余程面白かったようで、イアはいつまでも笑い続ける。


「な? 俺にしか言えないだろ?」

「本当だね……。少なくとも、勇者の口からは絶対に出てこないよ」


 笑い終わったイアが、少しだけトーンを抑えて、答えた。


 同時に、とうとう俺達は狂戦士ギルドの目の前までやって来た。隠し通路の奥に、殆ど手入れもされていない木の扉があるだけの簡易な部屋だ。


「ましてや、私の口からはね」


 そして、扉を開く。中には生活用品と、戦士ギルドから送られたのであろう武器の類がズラリと並んでいた。

 そしてそこには、一人として人がいない。


 当然だ。彼女の周りに、まともな人間は一人として存在し得ないのだから。狂戦士ギルドは、構成員がたった一人のギルドなのだ。


「お話し面白かったよ、お兄さん。でもそろそろお姉さんが限界みたいだから、殺しておくね?」


 何事でもないように言いながら、イアが部屋に駆け入り、机に置いてあった武器をとる。


 隣を見ると、いつの間にかサクが千鳥足になっており、焦点がいつの間にかズレていた。まだ抗ってはいるようだが、どうやら選択阻害だけではイアの能力を防ぎきれていなかったらしい。


「お兄さん、そこどいて。お姉ちゃん殺すのにちょっと邪魔」


 またも何でもないことのように、言う。そこまで言われて、今更理解した。


 彼女の周りの人は、殆どが彼女を殺そうとする。それなら彼女にとって、人との接し方で大部分を占めるのは殺し合いなのだ。

 だったら彼女が知ってる愛し方なんて……話すか、相手を殺すこと以外に有り得ない。


 寵愛の勇者は愛し愛され、殺され殺す。人を狂わせる狂戦士は、とっくの昔に狂っていたのだ。

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