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同時操作

試験勉強が毎日一夜漬け状態なので、なんだかんだ忙しい……。

次回の更新は遅れそうですが、試験終了の30日までに一回は投稿する予定ですっ!


 虐殺の勇者……支配、暗躍の勇者……自死、轟雷の勇者……支配、神速の勇者……重体。


 十人いるという勇者の中、既に約半数と戦い、その全てに勝利を収めている。

 俺の助力が実を結び、ギン達の大活躍で勇者は全滅する……。そのために、ずっと頑張ってきた筈なのに。それだけで良かった、筈なのに。


 気付けば俺は……神速の勇者を抱えて街へと逃げ出していた。


「大丈夫かい、神速? もう声は聞こえるかい?」

「……あぁ。なんとか……な」


 ウィントの体を使って、神速の勇者に体調を尋ねる。

 先ほどまでは耳が焼けただれていて、鼓膜に支障はないものの殆ど音が聞こえていなかった。カミルの〈単体回復〉で辛抱強く回復を続けた結果、ようやく声は聞こえるようになったらしい。


 これが演技だった場合はカミルとウィントが既に敵だと分かっていることになるが……。そんなことをするには、彼女は俺でも分かるほど心が折れすぎていた。


「状況は把握してるか? 街に戻ってるところだが、特に問題はないよな?」

「あまり無理せずに休んでいていいよ。こっちが三人とも残ってる状況で、あっちからわざわざ攻めてくるとも思えないからね」


 カミルとウィントの体を使って、俺一人で同時に喋る。

 体の同時操作に慣れてきたとはいえ、やはり一人で異なる人物を演じ分けるのは言いようのない気持ち悪さを覚えてしまう。一人で延々と会話をし続けるような感覚だ。


「あぁ……問題……ない。悪い……な、焦り……過ぎた」


 息も絶え絶えに、神速の勇者が俺達に謝ってきた。あの絶え間ない喋り方は完全に鳴りを潜め、弱々しい声が断続的に届いてくる。


 俺達に謝ったことといい、あまりの豹変ぶりに戸惑う。しかし……これも仕方がないのだろう。

 俺は彼女の左足を見遣ると、カミルの体で小さくため息をついた。


「なぁ神速、お前の足は……」

「分かってる。言わないでくれ」


 彼女の左足は……完全に焼け落ちていた。


 ギンのドレインバイトを受けても彼女のスピードは驚異的だったが、流石に直接噛まれた左足までは思うように動かなかったようだ。火の渦を退けることも出来ず、左足はもう使えなくなっている。


「巻き込んで、悪かった……。本当に、悪かった……」


 もはや謝罪なのかも分からない後悔の念を口に出す神速の勇者を、俺はジッと見つめていた。


 彼女には僕に見えない世界が見えている。ウィントはそう言って、俺もそう思った。俺のように空っぽな人間が、そんな少女を殺してしまって良いのか……そう、思わされてしまった。


 しかし目の前の少女に、そんな様子は既にない。自分の目論見が失敗したことを痛感しながら、俺は神速の勇者を街へと届けた……。






「おい、こりゃどういうことだよ」


 同時刻。俺はギン達に囲まれて、自分の体で正座していた。


 体の同時操作は以前から練習を続けていた事だが、先程完全に会得して以来、この感覚が当たり前になっていた。寧ろ意識を全て保っていないと不安になるほどだ。


 思わず神速の勇者を庇ってしまったのは、支配能力との親和性が突然跳ね上がったことにも起因しているのだろう。精神の制御が効かなくなり、一瞬だけ無意識が行動に現れてしまったのだ。

 とはいえ無意識で彼女を助けようとしていたのは確かだ。俺は反論することもなく、テラの怒りを身に浴びていた。


「分かってるのか? さっきの奴は勇者だ! あいつを倒せば、私達が自由に暮らせる日はもうすぐだったんだ! それを……」

「怒りすぎだよ、テラ」


 激怒するテラを嗜めたのは、意外にもネインであった。眉を八の字にして、気遣うように俺を見つめてくる。


 しかし、テラが頑張って足止めしたのを無駄にしたのは本当だし、ネインが止めを刺すのを邪魔したのも俺だ。俺は目を瞑って、何度も謝罪の言葉を口にした。


「悪かった……。本当に、悪かった……」


 神速の勇者の言葉を聞いているからか、俺の紡ぐ言葉も彼女に釣られてしまう。


 自分が一体何なのか、何を見ているのかも分からなくなる感覚。それはまるで、この世界に来る前と同じようで……。


「痛っ!」


 目を瞑って思考の海に潜る俺の頭に、突然激痛が走った。


 やはり支配能力には副作用があったのか!? と焦って目を開くが……すぐ目の前には、自分の額を抑えるギンがいた。どうやら先ほどの頭痛は、彼女が俺に頭突きをかましたせいであるようだ。


「なっ、ギン!? 何をしてるでござるか!?」

「いったー!」


 サクが慌てて尋ねるが、ギンは痛みで涙目になっていて返事をする余裕がなさそうだった。下手をすれば俺よりもダメージを受けている様子なので、俺の罪悪感も増してしまう。


「勇者を助けるような真似してごめんな……。俺も、どうかしてたよ……」

「ちがう」


 俺が謝罪を重ねると、ギンは額を抑えたままぶんぶんと首を横に振った。そして、言う。


「言ったでしょ? 私はタケルの優しさと、戦ってあげる。タケルが優しさに押し潰されそうになっても、私がいる」

「……!」

「だからタケルは、心配しなくていい。心配しないで……自分のやりたいことを、やっていい」


 鋭い爪を持ったギンの手に頭を撫でられて……俺はようやく、彼女の言う「優しさ」という言葉の意味を知った。


 俺はこの世界に来る前、戦いで全てが決まる世界に行きたいと願っていた。でもこの世界に暮らしているギン達にしてみれば……平和な世界にいる俺は、弱すぎたんだ。彼女に言わせれば……優しすぎた。


 この世界では他人の顔色を窺う余裕もなければ、人との関わりを避ける余裕もない。そんなことをしている暇があったら、自分が生きるための戦略を考えなければいけない。

 俺は自分のことを、人と関わるのをずっと避け続けてきた人間だと思っていた。でも他人を傷つける心配や、傷つけられる心配……そんなことをしている時点で、俺は、この世界で生きるには優しすぎたということなのだ。


「おま……頭突きじゃ優しさは飛んでいかねぇよ」

「そう? へへへー……」


 可愛く笑うギンを見て、俺の心も、ようやく少しの落ち着きを取り戻す。

 彼女が他人をこうも気遣えるようになったのは、俺の影響も少しはあるのかもしれない。

 それは彼女が弱くなることにも繋がるのかもしれないが……俺は少し、嬉しくなった。自分に自信を持ったことなど全くないが……今回ばかりは、誇らしく思えた。


 だと、するならば。俺はこの世界で……まだやれることが有るんじゃないのか……? 


「よし、分かった。ギンがそう言ってくれるなら……俺もクヨクヨせずにやりたいことをやる! やりたいことが……出来た」

「おい待て! 私はまだ、お前を許したわけじゃねぇからな!」


 俺の宣言にテラが若干の警戒心を滲ませて叫ぶが、俺は突っぱねて言葉を続けた。


「安心しろ、俺はお前らの味方だよ。取り敢えず最初は……今度こそ、人間の街に潜入するぞ」


 そう言って、俺はテラに微笑みかけるのだった。さっきまでの意識が分裂するような気持ち悪さは、もう完全になくなっていた。



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