戦士代表
この話に繋げるために、前回あんなことなってしまったんですが……。まぁね、無茶してるよね……。自覚しております。
ウィントが口にした提案を聞いた俺は、思わず絶句してしまった。
轟雷の勇者が体を譲ろうがなんだろうが、俺に神速の勇者を助ける義理はない。彼の言葉は意味を為さない……筈なのに、俺はすぐに断ることが出来なかった。
彼の真剣な表情に何か情報を得るチャンスかもしれないと思わせられ、思わず聞き返してしまう。
「どうして……そんなことを言う?」
神速の勇者は、ことあるごとに彼を馬鹿にしていた相手だ。自分の身柄を引き換えにしてでも助けたいという気持ちが、全く分からない。
恐る恐る尋ねると、彼は薄い自嘲の笑みを浮かべた。
「僕にはね、個性がないんだ」
「……は?」
思わず頷きそうになってから、彼の返事が全く答えになってない事に気がつく。俺が訝ると、彼は言葉を続けた。
「神速も虐殺も隔絶も、それぞれ自分の信念を持って勇者らしく生きていた。でも僕には、そういうのが何もないんだ。消去法的で勇者に選ばれただけ。皆が眩しくて仕方なかったよ」
落ち着いた声で、そんなことを言う轟雷。確かに彼は、他の奴らに比べると普通感が否めない。勇者らしくないという印象を抱いたのは、いったいいつのことだったか。
「だから僕は、個性を出そうと努力したよ。インパクトの強い隔絶を真似ようとして顔に針を縫ったこともあるけど……あれは真似しちゃ駄目だよ。ちょっと針を通すだけで死ぬほど痛い」
「いや何してんだよ!!!」
そんな事してる時点でちっとも無個性じゃねぇよ、安心しろ?
「でもね、僕は気付いてしまったんだ。上辺の個性だけ真似たって、彼らに近づけはしないとね。彼らは自分の信念があるから、最終的に個性が出るんだってね」
「最初から気づいとけよ……」
呟きながら、どうしてこんな悩み相談に乗っているんだと自分に呆れてしまう。しかし答えは簡単だった。彼の悩みは、俺にも理解できたからだ。
信念もないまま、ただ状況に流されて生きる虚しさ。分不相応な地位に居座る、居心地の悪さ。
この世界に来た当初は、俺も彼と同じ境遇に身を置いていた。
だが、今の俺はもう違う。これ以上話を聞く意味はない。
そう思ってギン達に轟雷への攻撃を続けさせようとしたが、彼はまだ言葉を止めなかった。
「だからさ……僕が死んででも、神速は生かさなきゃいけないんだよ」
瞬間、轟雷の勇者の雰囲気が変わった。常に優し気に細められていた目が見開かれ、俺を睨む青い瞳の中には殺気すら感じてしまう。
あまりの変わりように、俺は衝撃を受ける。それは彼の変調自体に驚いたというより、自分に似ていると思っていた相手がそうではなかった衝撃だった。
「こんなこと言うのは恥ずかしいけど……僕はね、彼女のことが好きなんだ。彼女には僕に見えない世界が見えている。僕ではそれを見ることが出来ないし、彼女を助けるにも力不足だ」
そういえば、神速の勇者が俺に構うたび、彼は悔しそうな顔をしていた。そういうことだったのかと、今更納得してしまう。やはり俺には、人と関わった経験がなさすぎる。
そんな俺を見て、轟雷の勇者がまたも軽く微笑んだ。彼が微笑むときは、常に自嘲の笑みだった。でも今は……。
「でも、君が彼女を殺すというなら……それを邪魔することくらいは僕にも出来るよ」
戦いを前にした者の笑み……? いや、好きな人の役に立てることを喜んでの笑みなのだろう。
既に全滅した部下達に囲まれているにも関わらず、轟雷の勇者はこれまでで一番獰猛な笑みを浮かべる。如何に彼が身勝手な人物であるのか、それだけで理解できてしまった。
「……。はっ。お前は立派に、勇者だよ」
弱いと分かっているのに、彼の気迫だけで俺は気圧されてしまう。いっつも気圧されてるな俺。
俺は心理的に彼を警戒しながら、理性で完全制圧のプランを立てる。大丈夫だ、いくらこいつが本気を出したところで、こちらに大した被害は生まれないはず……。
「うっ……!」
丁度そんなことを考えていた時だった。テラの放っていた炎の渦が、解けた……いや、解かれたのは。
テラが驚愕の表情を浮かべているところを見るに、どうやら神速の勇者が自力で抜け出したらしい。轟雷の勇者が吹っ切れた今、神速の勇者まで復活してしまったら収拾がつかなくなる!
油断していたことを後悔しながら神速の勇者を注視し……俺は、再び衝撃を受けてしまう。
「あれじゃあ……もう」
冷静に考えれば当たり前の話だが、火の渦から出てきた神速の勇者は全身に火傷が刻まれていた。道着は殆ど焼け落ち、そして何より、ギンに噛まれた左足は完全に焼け落ちていた。
彼女が圧倒的なので錯覚していたが、火の渦にずっと包まれていて、生きている方が奇跡だ。恐らく彼女は、火の渦の中でも高速で体を動かして、火の被害をなるべく抑えていたのだろう。しかしそれももう、限界だ。
「そん……な……」
彼女の惨状を見た轟雷の勇者も、さっきまでの気概を失って呆然としていた。やはり、彼に神速の勇者を助けることなど不可能だったのだ。
俺は彼の目を見遣る。茫然自失といった様子の彼は、段々と性能の増している俺の支配能力に抵抗できるとは思えなかった。俺は彼に能力を使いながら、思わず呟いた。
「なんだ、この程度か」
それこそまるで……人間に愛想を尽かした魔王のように。
「神速の勇者に止めを刺すぞ。ここまでしぶといと、最悪殺してしまっても構わない。戦力としても期待できないだろうしな」
「うぅ、悪い。しくじっちまった……」
「いや、テラはよくやってくれた。火の渦を突破されたとは言え、動けなくなるところまで追いつめてくれたのはお前だからな」
申し訳なさそうな顔をするテラに向き直り、俺は微笑みながら声をかけてやる。
神速の勇者のスピードに対処するには、相手を狙い撃つよりもテラのような範囲攻撃で無理矢理攻撃を当てた方がよっぽど効率が良い。テラの技であるフレイムハンドルのお陰で長時間神速の勇者を拘束し、轟雷の勇者から情報を聞き出す時間も得られた。
ロクな情報は得られなかったが、情報を取り逃していないと分かっただけでも良しとしよう。
「じゃあ、これで……終わり」
武道家ギルドの部下を全滅させていたネインが、跳躍加速によって蓄えていた速度を無駄にしないよう、神速の勇者に向かっていく。彼女の角が神速の勇者に刺されば、それでもう……この戦いは終わりだ。
安心しきってその様子を見ていると……俺は、この戦いで最も信じられない光景を見た。
「嘘……」
攻撃していたネインも、呆然と呟く。
それも仕方のないことだった。なにせ彼女の攻撃が防がれたのだ。……それも、俺が支配したはずの、轟雷の勇者によって。
「馬鹿な、能力をかけ切れていなかったのか……? そんな間抜けなこと……」
言ってから、俺は絶句する。ネインの攻撃を防ぎ、神速の勇者を後ろに庇う轟雷の勇者の目は……虚ろだった。意思を全く感じられない。
まさか彼は、自分をサイボーグにでも改造していたというのか? それなら俺に支配された後、俺の意思に逆らって動くことも可能だろうが……。
流石にそこまでの技術力は見ていないため、これはただの現実逃避だ。
「クソッ! 俺は、これだから……っ! 〈単体回復〉!」
叫びながら、俺は神速の勇者を応急的に回復させる。そして俺は、轟雷の勇者と一緒に戦線を離脱した。
先ほどネインの攻撃から神速の勇者を守ったのは……俺だ。轟雷の勇者の言葉に知らず知らず惑わされていた俺が、無意識に……彼女を守ったのだ。
一度守ってしまえば、神速の勇者を利用しない方が馬鹿らしい。先ほどネインから守ったことへの言い訳が、まったく立たなくなってしまう。
「馬鹿野郎。お前は立派に、勇者だよ……」
困惑するギン達に背を向けながら、俺は薄く微笑んだ。轟雷の勇者と、全く同じように。
轟雷の勇者は結果的に、神速の勇者を助けたのである。
もうすぐ試験期間が始まります……が! 多分次回はそんなに遅くならないと思います! だってあんまり勉強しないか(殴




