交錯
一昨日に成人式があったので、今回も大分遅れてしまいました!(作者年バレ)
昨日はf○teの映画見てたしね。仕方ないね。その代わりいつもよりか文量多めです…。
神速の勇者が予想していたよりも頑なに俺を疑ってかかるので、俺とギンが戦う作戦は裏目に出てしまった。
カミルが信用されない限り勇者二人は前線に出てきてくれず、俺と魔獣だけが消耗を強いられてしまう。打開策を見つけるためには、もう生半可な演技を続けるわけにはいかない。
「クソッ……!」
軽く毒づいてから、俺はギンを睨み返す。
ギンと全力で戦うか、今にも勇者に攻撃を加えるかの二択。
しかし勇者が二人も残っている状況で彼らと敵対するのは、部下を制限されたカミルを使い潰す選択に他ならない。それは得策とは言えないだろう。
出来れば演技に留めたかったが、ギンも過剰に全力である以上そうも言っていられなくない。俺は今から、本気でギンと戦う他なかった。
「これも、皆を守るためだ……」
俺は自分に言い聞かせてから、普段は殆ど使わない剣を構える。
これまで戦闘はギン達に頼ってばかりだったが、俺だって何もしてこなかったわけではない。地道な訓練の結果、カミルの体を段々と使いこなせるようにはなっていた。
「〈指定射出〉、シールドバッシュ!」
四つの盾を全て前方に集め、ギンの方へと弾き出す。その盾に隠れるように走って近付き、ギンが盾を避けたところを狙って剣を振るう!
相手の姿が見えないのはお互い様だが、盾を避けなきゃいけない分、相手にかかる負担の方が大きい。盾を避けた後に剣が待っている二段構えの攻撃は、全力のギンにも辛うじて届いた。
「……っ!」
浅い斬撃だったが、ギンの体の感触を剣越しに感じてしまう。普段は盾による遠隔攻撃に頼っていたこともあり、その衝撃は比にならなかった。
「グルルッ……!」
それでも、ギンは止まらない。盾の間を掻い潜り、爪や牙で躊躇なく俺を傷つける。
カミルの部下は一人また一人と膝から崩れ落ち、既に残り六人になっていた。
「どうして、こんな……」
近くに勇者がいるにも関わらず、俺は困惑を口にしてしまう。
神速の勇者を信じさせるための演技だとは思いたいが、ギンの攻撃はあまりにも過剰だ。それはもう、敵に回ったと考えた方が自然な程に。
見捨てられた……のだろうか? やはり俺が人間ではなく魔獣と一緒に戦うなんて、無茶で滑稽な話だったのだろうか?
暗い想像に、剣を握る力が思わず増した。
人間の世界でもうまくいかなかった俺が、彼女達を率いるなんておかしな話ではあったのだ。裏切られたとしても、何もおかしい話ではない。
もし俺が魔獣に見捨てられたというのであれば、今はギン達を倒す絶好の機会。俺が傷つけて体のバランスを崩した今なら……そして、彼女の戦いのクセを完全に把握している俺なら、勝機はあるだろう。
俺はこちらに向かって走ってくるギンと再び相対し……そして。
「うおおおおおおおおおっ!」
一閃。
「ううっ……!」
俺達が交錯した途端、ギンが小さく悲鳴を漏らす。横腹にざっくりと傷が開き、そこから血が噴き出した。
彼女は俺の攻撃によって、とうとう地に跪く。彼女は再び、カミルの攻撃によって地に沈められたのだ。
「よくやった虐殺! 轟雷もういいぞ今すぐあいつを援護しろ早く速く今すぐに!」
「ええっ!? なんでいきなり気が変わったんだい、ちょっとは僕にも説明してくれよ!」
俺がギンに強撃を加えたと同時、神速の勇者がようやく動いた。これまでは後方支援しかしていなかった彼女が轟雷の勇者に呼びかけ、次の瞬間には……俺の隣に立っていた。
爆風で辺りの魔獣はよろけ、その内数体の動体は彼女の拳によって既に穴が開けられている。
やはり、速い。俺の目で捉えられない程の純粋な速度は勿論、決断力の速さがズバ抜けている。魔獣の中でギンが主力級の力を持っていることをすぐに見抜き、彼女に俺が大ダメージを与えた途端、俺への警戒を解いてくれたのだ。
その決断力の高さは、味方としては非常に心強いが……。
「なっ馬鹿な! まだ動けるはずが……!」
敵である現状、それは突くべき隙に過ぎなかった。
ようやく前線までやってきてくれた神速の勇者の足に、さっきまで倒れていたギンが牙を突き立てる。
ギンが重症のままなら、神速の勇者が今の攻撃を避けられないということはなかっただろう。しかし噛みついたギンの体には、今や傷が塞がった跡がいくつか残るだけだった。
「回復!? まさか虐殺、てめぇ……!」
「僕じゃない。君だって見ていただろう、僕は何もしていないよ」
怒声に答えながら、証拠を負傷した神速の勇者に回復魔法をかけてやる。魔法の使用者は体が淡く光るため、カミルがギンを回復していないというのは見れば分かることだ。
しかし……カミルは回復させていなくても、俺がギンを回復させたのは確かだが。
「なんだと? じゃあ……あそこにいる奴らか!」
神速の勇者が目を向けたのは、魔獣達の奥に立っている三人の聖職者。前回の戦いで俺が体を奪った、ソーレイの部下三人だ。
神速の勇者が言う通り、ギンが傷ついた瞬間を見計らって彼らをダンジョンから出し、彼らの魔法でギンを癒していた。
俺は今まさに、支配した体を複数同時に操れるようになったのである!
「最低でも三人が魔獣側に渡っただ? もう間違いがねぇ……やっぱり……」
ようやく動揺を露にした神速の勇者を見て、俺は薄く微笑んだ。俺はもう、昔とは違うんだと実感したのである。
昔の俺なら、ギン達を最後まで信じることが出来なかっただろう。他人との関わりを断ち自分のことしか考えていなかった俺なら、さっきのタイミングでギンを斬り殺していたに違いない。
しかし俺は、そうしなかった。
最大級の力を込めつつも、ギンが死なないギリギリを見計らって攻撃。それと同時に俺は限界を越えて能力を使い、聖職者達を同時操作したのである。
「やっぱりあいつは生きていたんだ! 魔王は……復活していた!!!」
彼女にしては冷製さを欠く金切り声で、神速の勇者が叫んだ。
ソーレイも口に出していた、魔王という単語。
やはり聞き間違いということはないようだ。俺の支配能力は、もともと魔王の力だったのだろうか……?
「クソッ私としたことがまどろっこしいことをしちまった! 裏切られてようがなんだろうが一人でなんとかすりゃ良いだけだ、これまでだって……」
猛りながら神速の勇者が前に踏み出し、聖職者の方へと向かう。
決断と結果が直接繋がっているかのように、彼女は気付けば聖職者のいるところまで歩み寄り、彼らの内一人の腹を拳で貫いていた。
速すぎる……が。先程とは違い、視認出来ない程の速さではなかった。
「なんだ……? 体が……思うように動かねぇ……」
彼女が動揺を深めるが、俺は何が起こっているのかを正確に把握していた。彼女はギンのドレインバイトを喰らったことで、普段の身体能力を発揮できないのである。
それでも視認するのがギリギリのスピードを出せるのは脅威だったが、ここまでくればもう問題はない。
遠くから豪雷の勇者を狙撃していたテラが神速の勇者に向き直り、彼女は炎の吐息を吹き出した。それに続いて他の遠距離攻撃が得意な魔獣も攻撃を加え、神速の勇者は炎の渦に包まれる。
「そんな……っ!」
サクに足止めされていた豪雷の勇者が悲鳴を上げるが、もう遅い。勇者を完全に分断した今、彼はもうか弱い獲物に過ぎなかった。
もう演技を続ける必要もないと判断し、俺はギンに感謝する。
「ありがとうなギン、俺が攻撃を躊躇わないように……全力で攻撃してくれたんだろ?」
「タケルは自分で思うより、優しすぎるから」
彼女の返事に、俺は苦笑してしまう。
優しいつもりは全くなかったが、ギンにとってはそうなのかもしれない。死が身近すぎる彼女達にとって、俺は生ぬる過ぎるのだろう。
「タケルの優しいところ、ギンは大好き。でもそれがタケルの邪魔をするなら……私はいつでも、タケルの優しさと戦う」
「ありがとうな。でも、もう大丈夫だ」
もう俺は、一人じゃない。他人どころか自分も信じられない、昔の自分とは変わった。やはりそれは、ソーレイの死に様を見てからのことだろう。
彼女達のためなら、もう自分を捨てることくらい造作もない。俺はギンを安心させるため、笑顔のまま頷いた。
「よし、自殺される前に勇者を捕らえるぞ。力を貸してくれ、みんな!」
「うん!」
ようやく出した命令に、辺りの魔獣が同調してくれる。勇者の部下は騎士含めて殆ど全滅していて、あとは勇者を捕らえるだけだ。
「魔法も使わずに、魔獣と喋って……。そうか、君は魔王だったのか」
ギンと話す俺を見て、追い詰められた豪雷の勇者が呆然と呟く。彼もとうとう俺を魔王と呼び出したので、自殺されては困ると焦った……が。
「それなら、ちょうど良い。僕の体を君に譲り渡そう」
彼が口に出した言葉は、全く予想だにしないものだった。
「その代わり……神速を助けてやってくれ」
先程までの腰が引けた様子は一切ない。真剣な顔で俺を見つめる勇者が一人、目の前にいた。
今回いつも以上に話の流れが雑に思われたかもしれないですが、決して手抜きではないのでご安心ください!(むしろ不安)
当初立てていた予定が思っていたより無茶だったのでかなり難航してしまったのです。この回だけで、執筆に五時間ほどかかっております…。宿題終わんねぇ。




