パワードスーツもどき
ギン達に向かってまず動いたのは、作戦通り轟雷の勇者だ。彼が自分の胸に触れると、機械の鎧から駆動音が漏れだした。
その鎧は金属の細い板が層状に重なるような見た目をしており、板は胸の部分で円状に密集している。
鎧が作動すると同時に板と板の間からは黄色い光が漏れだし、彼はいやに滑らかな動きで剣を構えた。
「駆動補助装置、軌道制御装置、ともに異常なし。……突撃!」
鎧の調子を確かめてから、轟雷の勇者は部下と共に洞窟へ突っ込む。
勇者ほどではないが部下達もメカメカしい装備に身を包んでおり、洞窟に突き進む彼らからは暴走族が走る時のような轟音が重なっていた。
予想を越えた技術力に、俺は思わず息を飲む。他の勇者が近代兵器を使っていなかったことを考えるに、戦士ギルドは機械技術に特化したギルドであるようだ。
轟雷の勇者が万屋を営んでいたのも、その一環なのだろう。
「僕は戦士ギルド代表、轟雷の勇者ウィント。君達の首を、精一杯討ち取らせてもらう!」
名乗りと謎の宣言をあげてから、轟雷の勇者ウィントは近くにいた魔獣を斬りつける。その剣からは電光が迸り、いかにも強そう……だが。
「これでも駄目かぁ!」
どうやら威力が足りないらしく、彼が攻撃した魔獣は軽傷を負っただけで無事だった。ウィントが反撃をもらいかけたので、怪しまれないように盾で守ってやる。
「ありがとうカミル君! いきなり固い相手と当たりすぎたようだ。こいつは任せた!」
「え、いや別にこいつはそんな固くないだろ……」
「次の獲物はお前だ! キロスラッシュ!」
俺の返事も聞かず、ウィントは他の魔獣に攻撃を加える。剣刃が高速で回転するこれまた強そうな技なのだが、普通の剣で斬りつけた方が良さそうなほどに浅い傷しか与えられない。
「おいおい会議サボってまで作った剣でその程度かよ本当にどうしようもねぇな」
「うう、そんなはずは……! 僕のギルドの最高傑作なのにっ!」
神速の勇者に呆れられ、ウィントが現実を受け入れられずに呻く。
「所詮は非力を道具で補おうとしてるだけのギルドだな。やっぱり虐殺が先行しろ」
「ぐっ……!」
神速の勇者の指摘を受け、ウィントが悔しそうに顔を歪めた。成る程、異様に威力が低いのは、そもそも武器を扱う本人が弱いからなのか。
新たな気付きを得たが、彼女の指示に従うべきなのは変わらない。俺は疑われないようにしなければという緊張感を抱きながら、魔獣達の正面に立った……その時。
「グルルル……!」
これまで聞いたこともない呻き声をあげながら、ギンが俺に攻撃を仕掛けてきた。なんとか盾で防ぎながらも、俺は慌ててしまう。
ギンが俺を襲う段取りは伝えていたが、ここまで本気で来られると何か間違って伝えたのではないかと不安になる。それに必要以上の演技で消耗してしまえば、いざというときに勇者へ攻撃出来なくなってしまうだろう。
「これはまずいな……弾け、聖域境!」
怪しまれないよう、なるべく手加減せずにギンを狙って盾を放った。彼女ならカミルよりも襲い俺の盾攻撃に当たるわけもないため、魔獣を傷つけなくても疑われずに済むのだ。
しかしギンの真意が分からない以上、この状況が続くのはまずい。俺は早く勇者の数を減らすべく、ウィントをこの苦境に呼びつけた。
「おい轟雷、こいつの足止めだけ頼む!」
「わ、分かった!」
俺に頼られたのが余程嬉しかったのか、ウィントが戦場には似つかわしくない満面の笑みを浮かべる。
子犬のように近づいてくる彼を見て毒気が抜かれそうになりながらも、計画が上手くいきそうなことに笑みを浮かべた。
「待て轟雷そいつに近づくな」
「え、なんでだい!? 僕だって援護くらいは……」
「お前がどうこうじゃねぇ虐殺を助けるなって言ってるんだ。私が良しと言うまで手を出すなどうせそいつは死なねぇ」
「そっか……。信頼、してるんだね。僕とは違って……」
神速の勇者が俺を信頼しての言葉だと勘違いしたのか、ウィントが悔しそうに目を伏せた。
しかし勿論、実際のところは違う。彼女は、俺が魔獣を何体か殺すまで信用しないと言っているのだ。
彼女の射殺すような視線を浴びて、俺は恐怖が顔に出ないように必死に踏ん張った。
勇者の執拗な監視と、何故か本気で襲いかかってくるギン。凶悪すぎる板挟みにあって、俺の頬を冷や汗が伝った。




