潜入
ここ数話はテストが重なったり新作を書き始めたりで色々と怪しいところもありましたが、次回からはまた別の展開になっていく予定です!そろそろ終盤戦に入ります…。
「わぁーっ、ここが人間の街! すごいっ!」
「おいギン、あまり騒ぎすぎんなよ! お前の声、俺意外には唸り声にしか聞こえてないんだからな!?」
慌てて辺りを見回し、辺りに人がいないことを確認してから俺はふぅと息をつく。
俺とギン達は、とうとう人間の街への侵入を果たした。街の中にここまで戦力が揃えば、魔獣達を街に入れる作戦も成功度は上がるだろう。
ギン達の侵入はあっさり終わったが、これも偏に俺が体の複数同時操作を出来るようになった影響だ。
「まずは勇者会議が終わる前に、戦士ギルドに行くぞ。あそこは騎士団に比べりゃ、不審者にも寛容だからな」
「不審者って……言わないで」
まず一つ目の影響は、勇者会議に参加しながらギン達を誘導できるようになったことだ。
勇者会議が開かれる当日を狙って街に潜入したので、俺はカミルの体で勇者会議を引き延ばしながら、勇者会議で不慮の事態が発生した時のためのメッセンジャーとして自分の体を使えるのだ。隔絶の勇者と会う危険性を取り除ければ、俺もようやくこの街に来ても問題がなくなる。
「そうだぞ。言っとくけど、私達が不審者スタイルなのはお前の服選びのせいだからな」
「特に拙者だけ洒落にならないくらい不審者なのが酷いでござる! やっぱ扱い酷くないでござるか!?」
テラとサクに責められて、俺は罪悪感を抱きながらゆっくり頷いた。確かに酷い格好をさせている自覚はあるが、それでも街に入れるようにしたので許してほしい。
同時操作の二つ目の影響は、神官ギルドの信徒二人を戦闘に立たせることで、俺達の不審度をある程度下げることが出来るということだ。
まぁ尻尾を股に挟んでるからギンとテラは動きがぎこちないし、派手な帽子を被ったネインと浮浪者スタイルのサクまでいるので不審度は限界突破したままだが。それでも、神官ギルドのメンバーと歩いていれば街に悪さをする存在ではないのだと安心してもらえるだろう。
「ねぇ、タケルぅ……そろそろ尻尾が……その……」
「ちょっと擦れて……なぁ……」
そうして戦士ギルドに向かっている内に、ギンとテラから苦しそうな……というかどっちかというと気持ちよさそうな声が聞こえてくる。
尻尾がずっと股に擦れているため、まぁなんというか、感じてしまっているのだろう。
「もうちょっと我慢してくれ。戦士ギルドにつけば、もう少し楽になるはずだから」
「ギルドに着いたら服脱いでも良い?」
「それはダメっ! すぐに脱ごうとするな!」
やっぱり街に連れてくるのは彼女たちにとって負担なのだということを再認識しながらも、これも目的のためだと割り切って指示を重ねる。
もし俺のやりたいことが出来れば、彼女達ももっと安全に暮らせるはずだから……。
俺は未来に思いを馳せながら、今も続いている勇者会議の方にも意識を集中させた。
十人いるという勇者の内、四人は未だに姿を見せていない。しかし俺の見たことがある六人の内、同じ数の四人は程度の差こそあれ撃破している。
勇者達との戦いもいよいよ佳境だ。カミルやウィントが支配されたことまではバレていないが、それでも勇者会議には、追い詰められた者者特有の重い空気が漂っていた。
「やはり、敵は、強大だ。もう疑いようも、ない」
普段から重々しい声が二倍以上低くなり、隔絶の勇者の呟きは殆ど聞き取れなかった。しかし、彼が今の状況を恐れていることだけはよく分かる。
「神速と虐殺がいても敵わなかったんだ。もう僕達は、権力争いなんてしてる場合じゃない」
「何より……魔王が復活してるんだからな。残党狩りの気分でいること自体、間違いだ」
彼に答えるように、ウィントとカミルの口で我ながら白々しすぎる発言を重ねた。
勇者に協力されると未だに困るのだが、どうせ協調路線になるだろうし疑われないよう無難を言うべきだろう。
……そう、思っていたが。
「ふざけるなっ! 俺は魔王に支配されてるかもしれない奴と協力なんて御免だぞ……。何より、協力体制なんてとったら俺のギルドが一番活躍出来ないのは分かってるんだ。みすみすギルドを潰させてたまるか!」
会議中にいきなり声を上げたのは、カウボーイハットをかぶった青年だった。
常に余裕ぶってやり手の雰囲気を出していたが、これまでの発言を改めて思い返すとかなりの小物だ。激昂のあまりか一人称まで変わっていた。
どうやら彼がいちいち協力体制を拒むのは、魔獣を滅ぼした後にギルドの威信を保てないからということのようである。
「馬鹿を、言うな。もう権力等を気にしていられる状況では、なくなった。魔王が復活した以上、人が存続するか、滅びるかの話だ」
「魔王の脅威なんざ知るかっ! お前ら魔術師や賢者のせいで、俺は魔王と戦ったこと自体ねぇんだよ!」
喋れば喋るほどボロが出る青年を見て、俺は涙が出そうになってしまう。カミルはクズだったが、小物度で言えばこいつの方が上かもしれない……。
俺が謎の敗北感に苛まれている間も、カウボーイハットの男は怒りを募らせる。それに痺れを切らしたのか、遂に、これまで一言も喋っていなかった人物が口を開いた。
「じゃあ、今度はお前が魔王と戦ってくれ。見ての通り、私は戦えないからな」
その声が響くと同時、場がシンと静まり返る。
声の主は、もたれるようにして椅子に座る神速の勇者だった。
そんな皮肉めいたことを言う人ではなかったが、虚ろな目で円卓を見つめる彼女に、以前の快闊さを求めるのは無茶だと思えた。
勇者が追い詰められた雰囲気を出しているのは、彼女の不調も大いに影響してのことだろう。
誰もが彼女を警戒していたが、同時に、誰もが彼女はこんなところで負けるはずがないと心のどこかで信じていたのだ。
「それより轟雷、この会議が終わったら……少し私のところに来てくれ」
神速の勇者が全く会議を気にせず、終わった後の話をする。そのせいで他の勇者も身を入れるのが阿呆らしくなったのか、以後も有意義な話し合いにはならなかった。
会議はいつも以上に短く終わった影響で、俺とギン達は戦士ギルドへの到達を急がなければいけなくなった。
ギン達と街を歩ける喜びをもう少しかみしめていたかったが、町の軽い見回りを途中で区切り、俺達は早足で戦士ギルドに向かう。そして門まで潜ったところで、俺達はようやく人心地ついた。
「じゃあ、俺の部屋に案内するよ。当分はそこでゆっくり……」
「あー、自分の部屋に女の子を四人も連れ込むなんて……お兄さん、女ったらしだー」
ギン達に笑いかけながら、ギルドの階段を上がる。だが自分の部屋にたどり着いた途端、そんな余裕はなくなった。
見知らぬ少女が、俺の部屋に堂々と居座っていたからだ。
「悪い子には、お仕置きだね」
そう言って、十歳程度に見える少女は背中に隠していた武器を取り出す。
ウィントが開発していた、ライフルもどきの武器。その銃口は、俺の顔面に向けられた。




