奇襲
「すまない、待たせたな」
「い、いかがなされたのですかカミル様!? 体調でもお悪いので?」
意識をカミルの体に戻した俺は、部下に遠巻きに見られている状態だった。鎧の隙間には魔獣の攻撃跡が残り、各所が痛む。
どうやら、部下の殆どはカミルが意識を失っている内に逃げようとしていたようだ。ギン達とは歓迎の度合いが大違いすぎて、人間側のロクでもなさを再認識してしまう。
ま、それもこれもカミルのせいだし……俺も同じくらいロクでなしになるつもりなんだが。ギン達は純粋なままでいてほしいと思いながら……俺はギン達の服を草地に置き、神官ギルドの方へと近づいた。
「一体どうしたのです? あなたの持ち場はここでは……」
「押し潰せ、聖域境!!」
俺の掛け声と共に、四つの盾が信徒達目掛けて降りかかった。
カミルも使っていたこの技は、〈指定射出〉という触れている物を好きな方向に飛ばす魔法と、〈必中対象〉の合わせ技だ。
空中にある盾を好きな方向に何度も飛ばすことで、擬似的な自由操作が可能となる。扱いには苦労したが、街で練習していて細かい方向転換以外は習得していた。
「何をするのです虐殺……! 手柄を惜しむにしても、仲間割れなどしていられる状況では……」
「はっ、仲間だと? 笑わせるなよ暗躍。僕は君を仲間だと思ったことなどないよ」
なるべく魔獣に寝返ったことを悟らせないよう、カミルらしく振る舞う。突然裏切ってもいつも通り振る舞うだけで不自然じゃなくなるカミルさん、便利すぎる……。
「愚かな……! そんなことだから敗走してしまったのです。第二傷隊、目標を虐殺に変更しなさい!」
「りょ、了解しました!」
おそるおそるといった様子の返事をしてから、信徒の一部が俺にナイフを投げつけてくる。期待通りの展開に、俺は笑みを隠せなかった。
「ぐはぁ……!」
「ごはっ……!」
ナイフを食らって傷つくのは、あくまでカミルの部下……つまり魔獣達にとっての敵だけだ。
ノーリスクどころか敵が減るメリットを得ながら、信徒の一部が目標を変えたことで魔獣の被害まで減る。
カミルの裏切りは、この協同戦線において非常に大きな意味をもつのだ。
「成る程。どうやら騎士団ではなく、あなただけがどうかしてしまったようですね……。となれば、こちらにも打つ手はあります」
ソーレイは覚悟を決めたような表情をしてから、大声で叫んだ。
「騎士団の皆さん! カミルの被害転与は100メートル範囲内でしか発生しません! 命が惜しければ、早々にここから立ち去ってください!」
「やっぱり伝わってたか……」
カミル戦で逃げた部下達は、やはりカミルの能力をソーレイに伝えていたらしい。ソーレイの言葉を聞いて、ただでさえ逃げるか迷っていた部下達はすぐに背を向けた。
しかし、そんなことを俺が許すはずはない。
「ぐわあああああああ!」
辺りから響いたのは、部下達の悲鳴。俺は鎧の中に短剣をいくつも隠し持っていて、それを盾と同じ要領で自分に突き刺したのである。
その分のダメージが全て部下に転与され、部下がバタバタと倒れていく。能力の陰湿さは、ソーレイのそれに引けを取らなかった。
「自分の部下を殺した!? それではまるで……」
「まるで人間を裏切ったかのようだ、ってか?」
部下という肉の壁を失った俺は、それでも不敵に笑った。第二傷隊とやらは俺の攻撃で半壊し、段幕が薄くなった分魔獣達の接近も許している。
防御力を対価とする、一度しか許されない奇襲がうまくいったのだ。既に趨勢は逆転し、勝利は目前だった。
「その通りだよ。俺は……お前らの敵だ」
「くっ……!」
自らもナイフを放ちながら、ソーレイが俺と距離を離す。その正確な投擲を、俺はギリギリのところで盾で防いだ。
俺個人の力では、ここまでが限界だ。しかしここからは、魔獣達と協力して追い詰められる。
俺はこちらに走ってくるギンとネインの姿を見つけ、心が休まるのを感じながら宣言した。
「暗躍の勇者……。お前はここで、終わりだ」
ちょっと神官戦が長引いてしまってますが…。次で終わるはずです!俺はそう信じてます…!(力説)




