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神官代表

 遠征隊は、騎士団と教会からちょうど半分ずつの戦力を出して組まれた。


 いくらカミルの力があるとは言え、あまり教会から戦力を出され過ぎるとギン達が危ない。新しい洞窟の規模を過小に伝えることで、俺は遠征隊の戦力を抑えることに成功したのだ。


「副団長さんはいらっしゃられないのですか?」

「ジークは戦闘よりも運営や経理の方が向いているからな。それに何より、今回の遠征に過剰な戦力は不要だ」

「その油断が前回の敗北を生んだ気がしてならないのですが……」


 洞窟までの行程は沈黙が基本で、互いに気まずくなったタイミングで少しだけ話を振り合うような状況が続いた。


 勇者会議の時から分かっていたが、やはり手柄を取り合うだけあって勇者同士の仲はあまりよくないようだ。睨み合いの緊張感は部下達にも伝播し、街を出てから常に重苦しい空気が流れている。


 しかし辛うじて重苦しさが紛れているのは……偏に、俺が手に持っている女物の衣類のお陰であった。


「いやそれ何なんですかホント。なるべく無視しようと思ってましたけど、流石に気になるんですが」

「部下に持たせたかったけど、誰も持ってくれなくてね……。仕方なく僕自ら運んでいるんだ」

「そもそも何のために運んでるのかを聞いてるんですよ……」


 俺の答えが気に入らなかったのか、ソーレイが諦めたようにため息をつく。もう少し隠密に運んでも良かったのだが、彼女の意識を逸らすために敢えて俺が持ち運んでいるのだ。


 作戦は成功したようで、ソーレイの目はこちらにくぎ付けだった。これなら、魔物に包囲されていることにも気づくまい。

 俺は彼女が思惑通りに動いてくれていることにほくそ笑みながら、洞窟へと近づいていた。


「ところで、虐殺。あなたは気付きませんか?」

「気付くって何にだ?」


 だが、どうやら俺は勇者というものを見くびりすぎていたようだ。予め魔物達に指示して作らせておいた包囲網の中心に来るや否や、ソーレイは俺に尋ねてきた。


「やはり気付いていませんか……。私達、魔物に包囲されていますよ」

「何っ!?」


 俺の驚きは、もちろん包囲されていることに対してではなくそれを看破されたことに対してのものだ。俺は最初から知っていたことを顔に出さないよう苦慮しながら、話を合わせることにした。


「包囲されてるって……。それじゃあどうするんだ? 二手に分かれて攻撃するか?」

「いいえ、こうなった以上は分散する方が危険です。大丈夫……包囲網に突入したのは、私の意思ですから」


 俺の誘導も虚しく、ソーレイが気丈なことを言う。横顔を見れば、それが強がりでないことはすぐに分かった。


 凛々しい表情を崩さずに、彼女は自分の部下達に指示を出す。


「第一傷隊は東南、第二傷隊は西方向に攻撃を開始して下さい」


 第一小隊? 神官らしくない用語に首を傾げていると、まるで答えを見せつけるかのように信徒達が動いた。


 信徒達は一様に左手で杖を持っていたが、それを使いもせず彼らはローブの下から黒いナイフを取り出す。しかもそれを、異様に正確な動きで投擲した!!!


「一体、何だってんだ……?」


 彼らの攻撃は教会の者らしくないだけでなく、そもそも威力が高いようには思えない。洗練された動きによって森に隠れていた魔獣達にもナイフが掠っているようだが、逆に言えばこれだけだ。


 まさか聖職者のギルドは攻撃力が低いのか? そんな希望も見えた、その時だった。


「〈過剰回復〉」


 ソーレイが何事か呟いた瞬間、さっきまで攻撃を受けた魔獣達が……弾けた。まるで内側から爆破されたかのように、あっさりと。簡単に。


「は……?」


 何が起こったか分からない俺は、目の前で起きた現象に呆けた声を出すしか出来なかった。【ウィザーズ・デスマッチ】に〈過剰回復〉などという魔法はない。だとすれば……。


 思考が追い付く前に、ソーレイの指示が飛んでくる。


「見ての通り、私の〈過剰回復〉は勇者最高の殺傷力を誇ります。あなた方は魔獣を少しでも傷つけることに注力して下さい」


 やはり、そうか。彼女の言葉に、俺は自分の推測が合っていることを確信する。


 熟練の回復魔法によって相手の傷を過剰に回復させ、肉体を膨張させているんだ……! 少しでも傷ついてしまえば即座に殺される……驚異的な力だ。


 予想以上に厄介な相手を前に、俺は生唾を飲むのだった……。

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