人の布団と獣の布団
「お疲れ様です、カミル様。コーヒーをご用意しておきました」
「用意していただと? ちゃんと僕が来るのと同時に用意し終われよ、冷めるだろ」
「かしこまりました」
騎士のギルドに到着するなり、街で最初に会った部下の男が出迎えてくれた。
勇者会議でクズ人間ムーブをしている内に癖になってきたので、今度も思わず酷いいちゃもんをつけてしまう。しかし彼は文句を言うことすらなく、当たり前のようにコーヒーを入れ直した。
「……。すまん、会議のストレスが溜まっていて無茶を言ってしまった」
「分かっていますよ。あの勇者達から責められれば、心労はやむを得ません……。むしろ今日のカミル様は、しおらしすぎるくらいです」
これでしおらしいって言われるのマジか。あまりカミルのロールプレイングに染まりすぎてはいけないなと、俺はすぐに反省した。
勇者会議の前に聞いたところだと、彼はジークという名前で騎士ギルドの副団長らしい。
こんな優しい男がカミルに従っているのは、やはり脅されたからなのだろうか。それが分からないことには、距離感が掴みづらくて困る。
少し危険だが……。今後のことも考えると大事なことなので、俺は意を決して尋ねてみた。
「なぁ。なんでお前は、そこまで俺に従ってくれるんだ?」
「なんですか? 本当に疲れていますね、カミル様。騎士団の威信が落ちたことに堪えているのも分かりますが……」
俺が質問すると、ジークは困ったように笑った。カミルがそんなことで落ち込むタマには思えなかったが、彼は勝手に納得する。
「面と向かって答えるのは恥ずかしいですよ。でも、強いて言うなら……」
彼は薄い笑みを消して、言う。
「あなたが誰よりも正義を愛しているからです、カミル様」
どういう意味かは、分からなかった。
部下を人とも見ていないカミルが、正義を愛している等と信じられるはずもない。しかしジークの強い信頼だけは伝わってきて、俺は思わず目を逸らしてしまう。
カミルがどんな悪人であるにせよ、このジークという男が信じた男は、もうこの世から消えてしまったのだ。俺が……消してしまった。
「成る程ね。あっ、ちょっと疲れてるから部屋で寝ても良いかな?」
「えぇぇ!? こんな話題振っといてその反応、流石に酷くないですか!? なんかすごく恥ずかしいんですけど!」
俺の反応がそっけなさ過ぎて、ジークが顔を真っ赤にする。俺はそれを笑いながらも、早くここから立ち去りたくて仕方がなかった。
彼の言う通り、やはり俺は疲れているのかもしれない。自分の部屋の位置を聞き出して怪訝な顔をされてから、特権階級らしい豪華なベッドに潜り込んだ。
「ただいま。そんで、これはどういうことかな?」
「タケル!? やっと帰ってきた!」
ベッドに潜り込んだ俺は、すぐに意識を元の体に戻した。周りの景色が白い壁から洞窟の岩肌に変わっている。
未だに二つの体を同時操作は出来ないが、片方を眠らせれば瞬時に意識を移動できることは実験して分かっていたのだ。
そうして戻ってくると、俺は新しく見つけたダンジョンの床に転がされており、何より服を全て剥かれていた。左腕にぴっとりくっついた全裸のギンが、俺の帰還に歓声を上げた。
「寝てるとタケルが寒いから、くっついて体を暖めてあげてた!」
「それはありがとうだけど、俺が裸に剥かれてる理由にはなってないよね!?」
「んー?」
俺が突っ込むと、ギンは「どうしたものか」というように困った顔をした。どうやら、そこまでしっかりとは言い訳を考えてなかったらしい。
言いつけはなんとか守っていたようだが、寒くて人肌が恋しかったということなのだろう。
右手にはテラまでくっついていて、両足にはサクとネインまで抱きついて寝ていた。完全に布団扱いじゃねぇか。
「タケル寝てて寂しかったから、かへいをおそなえしたんだよ! そしたら帰ってきた!」
「お供えしちゃったら俺が死んだみたいじゃん。縁起でもないからやめてくれよ」
「へへー」
俺と喋れるだけでも嬉しいというように、ギンは突っ込まれても楽しそうに笑う。
そうだ。俺がカミルを倒さなければ、この笑顔は守れなかった。これからも彼女達を守るためには、余計な感傷をすてなければならない。
俺はジークの眼差しを極力思い出さないようにしながら、ギンの頭を撫でてやるのだった。




