人間の街
「迷いに迷ったけど……やっと着いた……」
敵情視察の計画を立てた、二日後。俺はとうとう、この世界に来て初めて見る人間の街までやってきていた。
こうまで急いだのは、偏にギン達が心配だからだ。
住居の関係で今は魔獣達が分散しており、もし再び勇者に襲われたら今度こそ抵抗できない。そうならないよう早く街にやって来て、せめて勇者の動きを察知しようと思ったのである。
「勇者が直々に攻めたんだから、まさか返り討ちにあったとは思ってないだろうけどな……。とはいえ流石に何日も帰ってこなければ、怪しんで他の勇者が来ちゃうだろうし」
緊張を紛らわすために、今の状況を再確認しながら街に入っていく。
石造りの家が多く、天気のせいもあるだろうが空気が濁って見える。雰囲気の暗さだけで言えば、これまでいたダンジョンとどっこいどっこいだった。
「おぉカミル様! ようやくお帰りになられたのですか!!!」
「……? お、おぅ。おはようございます?」
軽く街を観察しながら歩いていると、いきなりカミルに呼び掛ける声が聞こえた。
いまいち自分がカミルであることに慣れていないので、反応が遅れてしまう。相手が誰なのか警戒しながら返事をすると、死ぬほど不審そうな顔をされた。
「え、なんで敬語……? いや、それより他の騎士達はどうしたのです? もうギルドに戻ったのですか?」
「いや、それがだね……」
カミルの口調を必死に思い出しながら、その男に答える。
「ダンジョンの魔獣どもが姑息な手を使ってきたため、部下達は全滅してしまったのだよ」
「な、そんな馬鹿なっ! 姑息な手とは、一体……?」
「え!? うーん、あー……。口に出すのも憚られるほど、姑息な手だ……」
しまった。ここに来るのを焦りすぎたせいで、まともな言い訳考えてこなかったな……。
男の顔がますます不審なものになったので、俺の顔から冷や汗が流れ出る。
「まさか……」
柔和そうな目を細めて、男が何かを口に出そうとする。おいおい、こんなに早く俺が偽物だってバレたか!? だとしたらここで仕留めなきゃ……。
物騒な発想に至り、目撃者がいないか辺りを見回す。同時に、男はその口から言葉を発した。
「まさか、負けた腹いせに部下を皆殺しにしたのですか!? もうやるなって言いましたよね? これ以上騎士団の運営力と信用を悪化させないで下さいよ!」
「え? あ、おぅ、すまん……」
予想外すぎる言葉に、俺はまともな言葉を返せなかった。
偽物だと疑われなかったようで良かったが、その理由があまりにも酷すぎる。部下の皆殺しに前科あるのかよカミル……よくギルドの代表でいられるな。
謀らずも、カミルのクソ人間っぷりに助けられてしまった……。
「本当、カミル様はいつもいつも……」
いつもいつもなの!? 流石に言葉の綾だよね!?
あまりの言い様に、俺は驚きを隠すので精一杯だった。
彼が騙されているふりをして、俺に探りを入れている可能性も考えたが……。心底呆れたという顔をしているその男に、策謀の気配はなかった。
「とにかく、まずは騎士ギルドまでお越しください。遠征の後なのでお休みなさってほしいですが……」
気遣うような視線を向けて、男は言った。
「流石に今回の一件は、騎士ギルド内だけで収まる話ではありません。他の勇者たちにダンジョン襲撃を予告した以上……顛末を報告する必要があります」
そして彼は、クソダサい単語を口にした。
「他のギルドから勇者を招集し、第二十回勇者会議を開きます。よろしいですね?」
「……? あぁ、もう好きにしてくれ……」
今の俺には分かることが無さすぎて、投げやりに答えてしまう。しかし一つだけ分かったのは、街に来ていきなり他の勇者と顔を合わせる羽目になりそうということだ……。
俺はネインよろしく、緊張のあまり腹をさするのであった。




