引っ越し計画
カミルを倒して一時間も経つと、俺の元の体も目覚めた。すると二つの体を同時に操っていることになるので、なんだか気持ち悪くなってくる。
支配能力との親和性が高まれば同時操作も出来るようになるかもしれないが、今のところはカミルの体をダンジョンの奥で寝かせ、元の体で動くことにした。
「それにしても……すごいことになってるな……」
自分の目で、改めてダンジョンの中を見回す。
カミルによって潰された魔獣達の死体が散乱しており、死臭もダンジョンに充満していた。やはり勇者と戦った被害は甚大だ。
「流石に、この場所にはもう住めないな……」
「埋めてもダメ?」
「病原菌とか考えると、それは危ないだろうな。まぁどちらにしても、ここは侵入しやすすぎるから潮時だろうし」
実際この風通しの良さのせいで勇者にも襲われたわけだし……。むしろ今まで、よくここに留まろうと思えたよね?
「でもここより広い場所、少ない」
「これまでは魔獣達の数が多すぎて、なかなか入り切れる場所がなかったのでござるよ。多くを勇者に殺された今でも、なかなか良い場所はなさそうでござる……」
成る程。魔獣達は勇者に対し、数の有利を強みとしている。下手に分散すると冒険者のいい的になってしまうので、大きな住処を探さざるを得ないということか……。
とはいえ、彼女達も見つけていない大きな住処などそうそう見つかるものではない。それにこの場所以上に人の街に近いところへ引っ越せば攻めやすくなりすぎるので、街からの距離でも条件は絞られてしまう。
「あまり長距離の大移動をすれば、そこを冒険者に狙われるし……。うーん」
言いながら、俺はダンジョンにいる生き残りを見回した。この数を一か所に集める方法……それか、分散させても大丈夫な方法?
「もういっそのこと、こちらから攻めるってのはどうだ?」
「ん?」
思いついた結論を口にすると、ギンが呆けたような声を出した。少し説明が足りなかったので、俺は慌てて訂正する。
「いやもちろん、いきなり勇者達に攻め入るってわけじゃない。ただその時を見越して、人間の街に拠点を構えても良いんじゃないかって思ったんだ」
「そんなの無理だよ……」
俺の提案に、ネインが顔を顰める。腹をさすっているところを見るに、人間の街に行くのを想像してストレスで腹を痛めたのだろう。本当にストレス弱いんだな。
「無理と決めつけるのはまだ早いぞ? 何せ俺には、勇者の体があるからな」
「まさか……」
俺の言葉を聞いて、テラが目を見開いた。多分、テラが考えている通りだろう。何せ……。
「騎士代表の権力をうまいこと使って、誰にも気づかれないように街へ魔獣達を忍び込ませていけばいい!」
何せそれは、パワーで押し切るだけの超超単純な作戦なのだから!
「騎士団ってのはまだ人数残ってるだろうし、そいつらをうまいこと誘導すれば隠れ家の一つや二つ用意できるはずだ。取り敢えず俺が確認しに行くから、それまでは分散してでもどこかの洞窟で隠れてもらうしかないな……」
「人間のとこ、行っちゃうの?」
思いついた計画を少しずつ形にしながら伝えると、不意にギンがか細い声を出した。
「一緒にいてくれないと、寂しい」
「いやすぐに戻ってくる……って、どうしたんだギン!?」
慰めるように声をかけていると、ギンがいきなり抱きついてきた。彼女は顔を赤くして内股を擦り合わせ、今にも倒れそうなくらい荒い息を繰り返していた……って、なんかこのシチュエーション覚えがあるぞ。
「いつの間にか支配能力が発動してたのか……?」
あまりのデジャヴ感に尋ねると、ギンは俺に擦り付けながら首を振った。カミルとの戦いで彼女のパーカーはボロボロになっているので、いつも以上に扇情的だ。
「違うの? じゃあ何で……」
「多分魔獣達がいきなり減ったから、繁殖本能が刺激されたんだと思うぜ。男の魔人はいなかったから……その、なんだ。凄く気になるというか……」
「そんなことある!?」
驚きながらテラを見遣ると、彼女まで顔を火照らせていた。
いつもは股間を隠している炎の勢いも、敢えてなのかかなり弱まっている。
「ちょ、タンマタンマ! 数が多すぎて困ってるって話なのに、何いきなり生殖本能刺激されてんだよ!?」
「こればっかりは仕方ねぇよ。だって動物だもの」
俺の下半身を見つめながら、テラがいつも以上に理性の感じられない言葉を吐く。その後ろからは全裸のサクもおずおずと寄ってきており、ネインは興味ない素振りを見せながらも遠くからチラチラとこちらの様子を窺っていた。
そしてとうとう、我慢出来なくなったのかギンが俺のズボンを引摺り落とす。
「わぁ……!」
「わぁ……じゃないっ! そんなクリスマスプレゼント貰った子供みたいなテンションで喜ぶなよ! いきなりこんなの、駄目だって」
「なんで駄目? ギンのこと、嫌い?」
「いや、そうじゃないけど! 順序ってものがあるじゃんか……」
こんなところで人間の価値観を押しつけても仕方ないと言えば仕方ないのだが……。もっと単純に、童貞には刺激が強すぎるのでゆっくり女の子に慣れていかないとショック死しそうなのである。
どう諦めさせようと考えていると、ギンが予想だにしないことを言った。
「順序? そんなのいらない、ただ魔力貰えば大丈夫」
「魔力……? もしかして魔人や魔獣は、魔力をあげるだけで子を生めるの?」
「うん!」
成る程、それならショック死の心配はないか……と納得しかけたが、俺のズボンがずり落とされてる時点で、行為を勘違いしているなどということはあり得ない。
冷静さを取り戻した俺は、間一髪のところでギンが俺のパンツまで下ろすのを阻止することが出来た。その魔力は出しちゃ駄目なやつです!!!
「というか……」
冷静を取り戻したついでに、俺はあることに気付いた。
「俺はカミルの体で人間の街に行くんだから、寂しがることないじゃんっ! いつでも戻ってこれるよ……」
「あー」
気の抜けたような返事を返してくるギン。完全に理性をなくしてやがる。
こりゃあ、出張中に体を弄らないよう注意しておかないと何されるか分かったもんじゃないな……。
俺は新たな不安を抱えながらも、敵情視察の予定を組むのであった。




