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支配能力

 意識が途切れた次の瞬間には、目に見えていた景色が完全に移り変わった。


 目の前にはギンしかいなかったのに、いつの間にか地面が視界を埋め尽くしている。辺りからはテラ達の声が聞こえてきて、俺は自分が、さっきまでとはまったく別の場所にいることを悟った。


 混乱は、一瞬。こうなる予感がしていた俺はすぐに状況を把握し、テラ達に呼びかけた。


「テラ、ネイン、サク! 俺だ、哮だっ! 一回拘束を解いてくれ!」

「はぁ!? 何しょうもない嘘をついてんだ……離すわけないだろ!」


 すると、テラが俺に怒声を浴びせてきた。それもそうだ……何故なら俺は今、()()()()姿()()()()()()()()()()


 しかし俺は構わず、彼女達への呼びかけを続けた。


「嘘に聞こえるか? カミルがお前らの名前を知っていると思うか!?」

「…………っ!」

「俺は哮だ。今……カミルの体に乗り移ってる」

「なんだって!?」


 姿はカミルでも、中身は俺なのだということを必死に説明する。もし俺がただの勇者であれば、彼女達の名前を知らないどころか、そもそも魔人と喋ることすら出来ないはずだ。


 テラが半信半疑な表情を浮かべたところで、俺はようやく話の核心に触れた。


「いいから放せ! ギンを助けられなくなるっ!」

「うっ……わ、分かった……」


 下手なことをすればいつでも殺せるという自信からか、藁にすがってでもギンを助けたいという気持ちからか。

 テラは慌てながら他の皆に指示を出し、カミルの体から手を離した。


「ありがとう……!」


 お礼を言ってから、早足でギンに近づく。テラ達はあからさまに俺の挙動を警戒していたが、俺は構わずギンに魔法を放った。


 もちろん攻撃魔法ではない。カミルがさっきまで使っていたような、()()()()である。

 俺は回復魔法を使えないが、カミルの体なら……使える。


「〈高速回復〉!」


 カミルの体は殆ど魔力を使いきっていたため、回復の魔法を使うだけで身を切るような痛みが襲ってくる。


 それでも辛抱強く魔法を使い続けていると、ギンの体から、少しずつ傷が減っていった。今にも死にそうだった彼女が、いつもの元気そうな姿に戻る。


「良かった! ここまで癒えれば大丈夫なはずだ……」


 すぐに起きることは無さそうだが、致命傷になりそうな傷は全て癒した。

 安堵の吐息を吐いてから、ギンの隣に倒れている《《俺の体》》もついでとばかりに回復する。


 自分の体であることもあり、ギンと比べれば「死ななきゃいっか」くらいのおざなりな処置だ。


「お、お主は……本当にタケル殿、なのでござるか?」


 やるべきことを終えて脱力した俺に、恐る恐るサクが話しかけてくる。説明しないわけにもいかないので、俺は振り返って頷いた。


「あぁ、そのはず……だ。少なくとも、意識や記憶は哮だよ」

「そんな。どうやって……」


 いつも以上に怯えながら、ネインが尋ねてくる。それに対して俺は、ここまでの推測を話した。


「俺には多分、相手の体を乗っ取る能力がある……んだと思う」

「体を……乗っ取る?」


 テラが驚愕の表情を浮かべ、俺の顔をまじまじと見つめてくる。あまりに唐突で戸惑う気持ちは、俺も同じなので良く分かった。


「俺には君達のステータスを覗く能力があっただろ?」

「あぁ、あったな……」

「それは多分、体を乗っ取る能力の副次効果だったんだ。君達の一部を乗っ取ることで、自分のステータスと同じように君達のステータスを見ていたんだと思う」

「だからステータスを見られる時、中に入ってくるような感じがした……ってことか?」


 自分で言いながら、テラは顔を赤くしていた。恥ずかしくなるなら言うなよ、俺も恥ずかしくなるだろ……。


「そうだと思う。魔獣に対してはいつでも使えて、人や魔人に関しては、許可を得るか相手が気を失うえば能力の対象に出来るんだろうな」


 普段は許可を得なければ見えないギンのステータスも、案の定彼女が気絶している今なら覗くことが出来た。


 何故俺にそんな能力があるのかは、未だに分からない。しかし今までは分からなかった使い方がいきなり分かったことからも、この能力との親和性が段々と増しているのだろうとは思える。


 この能力が最後まで明かされたときどうなるのか……俺は、得体の知れない不安に襲われた。


「やっぱり俺は、もう君達と一緒にいるべきじゃないのかもしれないな。今回勇者がやって来たのも、俺が余計なことをして冒険者を完全にやっつけたのが問題だ。だから……」

「そんなことはない……よ?」


 寂しさを噛みしめながら、俺は今感じていたことを素直に言う。すると、意外にもネインから否定の言葉が返ってきた。


「君は……いや、あなたは私達に必要。どうか私達を……導いて」


 言って、ネインが俺の前に(ひざまず)いた。


 彼女だけじゃない。テラやネインやサク、そして、人間の仲間を認めていなかった魔獣達でさえ、その後ろに並んでいく。


「私達を導き、この地に平穏を……」


 ネイン達の目をみて、俺は唾を飲んだ。そこには俺が彼女達を導くことへの、大きな期待があった。そして何より、隠しきれない……勇者への復讐の意思が。


 確かに俺の助力で勇者を制し、果ては支配能力によって騎士の体を得ることまで出来た。この体を上手く使えば、勇者達の敵情視察をすることさえ出来るだろう。


 しかし今の俺に、彼女達を導くことなど出来るだろうか? それが、許されるのだろうか?


「ギンからも、おねがい」


 その迷いを打ち消したのは、足下から聞こえたギンの声だった。いつの間にか目覚めていた彼女は、地面に倒れたまま、優しい目で俺を見つめていた。


 その目は楽しい日々を思い返しているようにも、新しい未来を見つめているようにも見える。いずれにしても、彼女は覚悟を決めているのだ……このどうしようもない世界で、生き続ける覚悟を。


「分かった……」


 気づけば俺は、答えていた。さっきまで敵だったカミルの体で、俺は皆に宣言する。


「俺が……君達を導くよ」






 一つ、言い忘れていた事がある。


 これは一介のゲーマーに過ぎなかった俺が異世界に辿り着き。そして、魔王になるまでの物語だ。

これにて一章終わりです。

これからもよろしくお願いします!

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