闇の向こうに
ひたすら続く闇。
またこの夢だ。
遂に6度目になった。
「また、貫かれるのか……」
飛燕は呟いた。
まだ沈み続けている。
そして、飛燕はそっと目を閉じた。
どうせ、また同じ展開になるなら、考えない方が良い。
「……お願い……します……」
遠くから声のようなものが聞こえる。
それが鼓膜で捉えているものなのか、脳の中で響いているのかも判断できない程度の小さな音。
飛燕はそっと目を開いた。
暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。
「……止め……て……」
まだかすかに聞こえる。
飛燕は光の方向へ手を伸ばした。
その瞬間、身体が沈まなくなった。
「誰……?」
飛燕は声の主へ問いかけた。
「私が……成し得なかったこと……、貴方に……やってもらいたい……です。」
声がかなり近づいてきている。
それとともに光も明るくなっている。
「さぁ、お願いします……未来をあなたが……」
その瞬間、光がまるで宝石のように砕けた。
「僕に出来ること……」
そんなもの本当にあるのだろうか。
そして、頼まれたところでそんなことを成し遂げられるほどの能力が自分にあるのだろうか。
「頭がぁっ……」
考え始めた瞬間、飛燕は激しく頭痛に襲われた。
飛燕はそのまま意識を失ってしまった。
◆
目の前に見えるのは、白い天井。
飛燕はベッドの上に寝かされていた。
「そうか、僕はあの時……」
親友だった奏多に唐突に別れを告げられ、何が起きたのか、倒れてしまった。
おそらくその後、この病院に搬送されたのだろう。
外の暗さから、おそらくあれからかなり時間が経っている。
「半日以上寝ていたのか……」
また、あの夢を見てしまった。
しかし、今回の結末は過去5回とは全く違った。
遠くから女の声が聞こえ、それと共に光も差し込んだ。
そして、意味深な女の発言。
かなり明確に覚えている。
「成し得なかったこと……そして、僕に出来ること……」
わからないことが多すぎる。
あの女が何を成し遂げようとして、出来なかったのか。
そして、僕が何をどうすれば、それを成し遂げられるのか。
「全くわからない……」
青年は1人悩み続けた。
◆
「挨拶は済ませてきたのか?」
大柄な男は自分の剣を研ぎながら言った。
「あぁ、既に済ませてきたよ。これで心置きなく動ける。」
奏多は男に向かって小さく答えた。
ここはアメリカ。
無限に広がるような大地の中に、奏多の住処があった。
「なぜ、お前はここを選んだ?もっとまともな場所に住めばいいのに……」
男は剣に向き合ったまま、言った。
「僕はここが好きなんだよ。誰にも邪魔されない感じで、居心地が良い。まぁ、多少主要な街から遠いのは難点だが。」
奏多は着替えながら、言った。
「それで、とりあえず何をする?」
男は研ぎ終わった剣を鞘に収めながら言った。
「とりあえずは、街を1つ。僕たちのものにしよう。宣戦布告ってやつだ。ここから僕の世界を創りはじめる。」
奏多は悠々と語った。
「とりあえず準備をしておいてくれ。明日、正午に仕掛ける。目標はニューヨーク中心部。君なら1時間もあれば制圧できるだろ?」
奏多は剣を持ち、壁にもたれかかっている男に言った。
「伝説の殺し屋・氷堂クロト。」
「舐めてもらっては困る。奏多、お前も出るのか?」
2人は向き合ったまま、話を続けた。
「あぁ、現地に行くが、手出しはしないよ。だから、君に制圧の仕方は任せた。といっても、どうせ刀でやるんだろうけど……」
「もちろんだ。しかし、制圧だけできれば良いのだろう。逆らう者だけ殺せば良いのか?」
この言葉を聴いた瞬間、奏多の雰囲気が少し変わった。
「いや、殺せ。僕が1から創りなおす。その世界に、今の住民は必要ない。」
奏多の声のトーンが下がった。
明らかに殺気がこもっている。
「了解した。準備しておこう。また来る。」
そう言うと、クロトは、静かに出て行った。
「さぁ、始めよう。僕の世界を。」
静かな部屋に、奏多の不気味な笑いだけが響いた。