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「ウナギが滅びそうなら、ウサギを食べればいいじゃない」と言ったら、数年後に大学が肉食女子の楽園と化した話

作者:トファナ水
 大学の前期日程が終わり、夏期休暇が始まった。
 不慮の事故で両親が亡くなり、もう一年。一周忌を営むのが普通なんだろうが、両親は一人っ子同士で、祖父母も既に他界しており呼ぶべき親類もいない。
 大体、菩提寺も宗派もよく解らないし、信心もないのに行うべきでも無いだろう。死ねば、人は土に還るのだ。
 とは言え、何もしないのも気が引ける。遺骨を預けてある納骨堂に行って、線香をあげる事にした。
 僕が利用している納骨堂は、それなりに賑わっている商店街の一角にある。
 無宗派で、骨壺を収納するロッカーが並んでいるだけの無機質で簡素な処だ。半官半民の第三セクターの運営で、安上がりなだけがとりえである。
 アルバイトらしき老いた係員に申し出て、簡素な祭壇をロッカーの前に用意してもらうと、僕は来る途中の百均で買った線香とロウソクに着火して備え手を合わせた。
 脳裏に、両親が健在だった頃の思い出が蘇る。天涯孤独になったのだと、改めて思い知らされた。
 憂鬱気味な気分で納骨堂を出た。時刻は五時頃だが、夏場なのでまだ充分明るい。
 辺りは買い物らしき主婦で賑わっていた。僕も自宅の冷蔵庫が空になっていた事に気付いて、食材を買って帰る事にした。
 今日は土用の丑の日。ウナギの値段は年々上がっていく一方で、絶滅の危機すら報じられている。
 だが、そんな事は関係ないとばかりに商店街には「うなぎ」と書かれたのぼりが建ち並び、蒲焼きの旨そうな匂いが立ちこめている。
 報じられている状況が若干気にならなくもないが…… そう言えば、両親と最後に食べたのは鰻丼だった事を思い出す。
 今日はウナギを食べながら両親を偲ぼうと、スーパーの入口をくぐりかけた処で、スマートフォンが鳴った。画面を見ると、僕が通う大学の講師からだ。
 ”奢るから夕食、一緒にどう?”という有り難いお言葉に、僕は”喜んで!”と返信した。
 待ち合わせ場所に行くと、金色の長髪をツインテールにした、浴衣姿の白人女性が待っていた。
 今時の都市圏で白人は珍しくもないが、彼女は服装からそれなりに目立っていて、注目する通行人も結構いる様だ。
 彼女はポルトガル人で、僕が入学する直前に院を卒業したから実感は乏しいのだが、元々はうちの大学の留学生だ。
 卒業後は、非常勤講師の扱いで第二外国語の一つであるポルトガル語の講義を担当しており、僕も受講している。
 先生の留学生時代を知る一部の院生は、彼女を「先生」ではなく「先輩」と呼ぶのだが、僕を含め、彼女の卒業後に入学した学生は普通に「先生」と呼ぶ。
 若い在留外国人にはよくある話だが、日本アニメ好きが高じて来日したのだそうだ。
 特に、世界中で人気がある”セーラー服の少女集団が悪と戦う女児向け活劇アニメ”がお気に入りらしい。
 僕と友人めいた個人的な交流を持つ様になったのは、書店で彼女を見かけた僕が声を掛けてからだ。
 その時は知らなかったが、彼女が物色していたのが、男色をテーマとした「BL」と呼ばれる女性向け官能作品の棚だったとかで、慌てた彼女は僕に「食事を奢るから黙っていて」と懇願して来たのだ。
 以来この様な、時折食事を共にする交流が続いている。
 どうせ家に帰っても孤食だし、食事は誰かと食べた方が美味しい。それに、彼女は年上で有職者という事もあって、誘いの時は常に奢ってくれるのも嬉しい。
 僕と目が合うと、彼女は手を振ってきた。

「先生、待ちました?」「全然ー」

 ”浴衣にツインテールの外人姉ちゃん”に対する周囲の好奇的な視線を気にする事無く、彼女は何気に僕に腕を絡めて来た。
 並ぶと身長は同じ位だが、僕が童顔なので、人種が同じならカップルというより姉弟に見えるだろう。

「おねショタですよー、おねショタ。少年とお姉様ですよー」

(間違ってはないけど、偏った言葉の覚え方だよなあ……)

 いかにも御機嫌な先生の言葉に苦笑しつつ、僕はリードされるがままに歩く。
 着いた先は、ちょっと高そうなすき焼き専門店である。

「今日は土用の丑ですからねー 奮発しちゃいましたですよー」

 土用の丑ですき焼き。外国人にありがちな、伝統の微妙な勘違いだろうか……
 いや、一応、「ウ」の付く物であれば土用の丑の食べ物らしいので、「牛」でも間違いではない。日本人でも結構知らないので、それを踏まえてなら大した物だ。
 ともあれ、タダ飯としてはウナギに匹敵する豪勢さである。
 暖簾をくぐると、店内は割と空いていた。ウナギを食べる日に、わざわざ別な物を外食する人は少ないという事なのだろう。
 和服姿をした中年女性の従業員にボックス席へ案内され、僕達は席に着いた。先生は慣れた様子で、定番らしきコースを二人前注文する。
 出てきた鍋はよく煮えて旨そうだったが、肉はどう見ても牛肉ではない。一体何の肉だろう。

「まあ、食べてみて下さいな」

 先生に勧められるままに食べてみると、身が締まっている。味付けはコクがあり甘目で食べやすい。

「変わってますけど、美味しいですね。これ、何の肉ですか?」
「ウサギですよー」
「ウサギ? 珍しいですね」

 ウサギ肉とは。昔はよく食卓にのぼっていたらしいが、今は殆ど見られない代物である。

「日本では土用の丑にウサギを食べるというじゃないですか。それなのに食べられるお店がなかなか見つからなくって、ここに行き着くには苦労しましたー」
「先生。それ、ウナギです。ポルトガル語で言うとENGUIA」
「ええっ!? そうだったんですかあ!?」

 僕の指摘に、先生は慌てふためく。この人、日本在住歴は結構長い筈なのだが、やはり勘違いだった様だ。

「一応”ウ”が頭に付く物なら土用の丑の食べ物という事にはなってますから、間違いでもないのですけどね」
「良かったー」

 先生はほっとした様子で、自らも鍋をつつき始めた。

「美味しいですよねー」
「ええ。ただ、ウサギは日本で、今は殆ど食べられていないんですよね」
「そうみたいですねー。いつ頃からでしょう?」

「さあ…… 少なくとも、自分に食べた覚えはないですね。はっきりとは解りませんけど、社会が豊かになって、段々と食べられなくなったのではないでしょうか」
「ヨーロッパでは今も昔も、普通に出回ってますよ-」
「それは知っているのですが。コスト…… でもなさそうですし」

 不味いならともかく、考えてみれば不思議な話ではある。四つ足物を食べることが忌まれた明治以前でも、ウサギは「何羽」と数え、便宜上、鳥扱いで食べて良い事になっていたのだ。つまり、日本に根付いていた伝統食の類である。

「如何でしたか?」
「ご馳走様でした。美味しかったです!」
「ありがとうございます」

 会計の際、従業員から感想を聞かれ、僕たちは口を揃えて賛辞を述べた。従業員もそれを受け、にこやかに応える。

「すき焼きは元々は、ウサギのお肉が多かったんですよ。牛肉とはまた違った、さっぱりした味わいでしょう?」
「ええ。どうして、殆どなくなってしまったんでしょう」
「昭和四十年代半ばには、国内でのウサギ肉生産が絶えてしまったのです、理由は色々言われていますが、はっきりとは解らないんですよ」

 僕の質問に、従業員は残念そうに語った。
 自然消滅…… やはり、需要の問題だったのだろうか…… 美味しいのに。

「このお肉はどこから?」
「最近は狩猟で取れたジビエ肉が流通する様になったんです。けれど、この時期は禁猟期という事もあって、どうしても冷凍のお肉になってしまいます。狩猟シーズンですと、より美味しいお肉をお出しできますよ」
「なるほどー」

 僕と先生は頷きながら、従業員の説明を熱心に聞いていた。


*  *  *


「送っていきますよ」

 店を出て、先生を送っていこうと、彼女の住む大学の職員寮の方に足を向けようとすると、袖を引っ張られた。

「そっちじゃないんです」
「え? 寮は向こうですよね?」
「あの…… 実は…… 前期一杯で辞める事になって…… 今は寮も引き払って、ビジネスホテル住まいなんです……」
「先生、お辞めになるんですか?」

 唐突な言葉に驚いた僕へ、先生は言いにくそうにしながら事情を説明して来た。
 講師としての契約を前期一杯で打ち切る旨の通告が、大学当局からあったというのだ。
 第二外国語としてのポルトガル語は、就職に有利として人気がある言語の一つだ。日系ブラジル人への対応の為である。
 だが、ブラジルで話されているポルトガル語は、旧宗主国のそれとは若干異なっている。
 勿論、相互に通じない訳ではないが、より実践的な講義の為、講師にはブラジル人を充てた方が良いという声が挙がったそうだ。
 また、学生の中には日系ブラジル人の子弟もいる。彼等にしても、自分達の母語とは細部が異なる授業に違和感があったのだろう。

「それにしても急ですね?」
「私の就労ビザの更新時期が今年の九月なんですよー。で、大学当局が更新申請してくれないと、日本を出なくてはいけないんです」

 うちの大学は、留学生や帰国子女向けに九月入学制度がある。先生は最初、留学生として来日し、この制度によって九月に入学した。そして卒業と同時に講師として在留資格を切り替えたので、以後も九月がビザ更新の時期なのだ。

「他の大学とか、語学学校の口はないんですか?」
「いくつか当たったんですけど、駄目でした。やっぱり、日本人が習いたいポルトガル語はブラジル方言で、本国人はお呼びでないみたいで。それに、日系ブラジル人の方が在留資格が緩やかですから、雇う側も楽ですし……」
「そうですか……」

 他の雇用先を探したという事は、先生はこれを機に帰国するよりも、日本に住み続けたいという事なのだろう。だが、いくら日本が好きでも彼女は外国人であり、無条件で居住できる立場ではない。日本側の許可が必要なのだ。

「で…… ですね。本当は、あなたが卒業する時に言おうと思ってたんですけど……」
「何です?」

 彼女は、うつむいて口ごもってしまった。
 何事かと僕が問いただすと、突然、顔をガバッと挙げて、僕を真正面から見つめ、両肩をつかんで来た。

「私と、ずっと一緒に暮らすつもりはないですか? 勿論、日本で」
「え?」
「私……前から、貴方の事…… でも、私、講師だったし……」

 突然のプロポーズだ。
 正直、先生は七歳程年上で、かつ外国人という事もあり、異性として交際していたつもりはなかった。
 だが、一緒にいて気分が良い人である事も確かだ。突然の事だが、僕は決断しなくてはならない。ここで否と言えば、先生はいなくなってしまう。
 現実的な生活の目処はどうか。僕は学生で、先生は失職。
 親の遺産、生命保険金、事故の相手から支払われた賠償金。そして、僕一人が暮らすには広すぎる持ち家。僕が就職するまで、先生と二人で食べていく財力はある。
 加えて、日本人の配偶者としての在留資格ならば先生も就労に制限はなく、落ち着いて職を探せるだろう。勿論、僕自身もバイトすれば良いし。
 歳が上に離れた女性、しかも国際結婚となると、家族や親類から懸念の声が挙がるのが普通だろうが、天涯孤独の僕には関係ない。
 そう、僕は天涯孤独だ。だが、先生が家族になってくれれば、もう一人ではない。

「僕は身内がいないからいいんですが、御実家は大丈夫ですか?」
「私、姉妹が多いですし。両親もいい人を見つけたら、そのまま日本で幸せになれって言ってくれてますから」

 最後の懸念もなくなり、僕は決心した。

「僕がパートナーで良ければ、家族になって下さい」
「本当ですか!」

 先生はそのまま僕を、絶対に離さないとばかりに抱きついて来た。
 一人暮らしで寂しかった僕の家はその日から、居心地良い場所へと戻った。


*  *  *


 先生の実家には、インターネットの画像通話で結婚する旨の報告をした。全く便利な時代である。
 本来は直に行くべきなのだろうが、夏の観光シーズンは、航空機の格安チケットが取りにくいのだ。遠方なだけに、交通費は馬鹿にならない。
 先方の家族は、以前から先生とのやり取りで僕の事を聞いていたらしい。どうも、先生にプロポーズする様に背中を押したのも向こうだった様で、あっさりと結婚は了承された。
 異人種、まだ学生、年齢差、天涯孤独等々、こちらがマイナスと考えている点は全て問題ないとの事で、むしろ先生に、僕をしっかり支える様にと激励していた。
 経済的には裕福そうで、ウサギの畜産を手がける大規模農場経営が家業だという。
 どうも、娘を日本に送り出した際には、ウサギ肉を輸出する糸口を造れないかという淡い期待もあったらしい。現在の日本ではウサギ食が廃れてしまった現状を知り、諦めていたそうだ。
 だが、先日のすき焼きの件を聞いて、見込みがあるのではと再び思い始めたと言う。
 大学から解雇されて以後、専業主婦状態で暇を持て余している先生は、実家の意向を受け、会社を設立登記(実質ペーパーカンパニーだが)した上で、件のすき焼き店にウサギ肉の売り込みを掛けてみた。
 すると、あちらも肉の入手には苦労していた事から、”冷凍ではなく冷蔵”という条件でなら、禁猟期であれば仕入れたいという返事をもらえた。
 他にもウサギ肉料理を出す店を数軒紹介してもらえ、そこからたどって十数件の料理店が顧客になってくれそうだ。
 フランス料理店やイタリア料理店からの需要もあったが、期待よりは少ない。やはり現代の日本では、ウサギ肉は食べ慣れないせいなのだろう。店側がメニューに載せても、注文が少なければそれまでという事である。需要のあった店はいずれも、在留外国人の常連が注文するそうだ。
 食肉の輸入は検疫が面倒なのだが、先生の実家がポルトガル本国の当局へ相談した結果、支援が得られ、ポルトガル系の食肉輸出業者を間にかませる事で解決した。
 何しろポルトガルは財政的に厳しい。ウサギ肉が新たな対日輸出品になるなら、最初は小規模であっても期待がかかる。いずれ他国が競争相手になるにしても先行の利があるし、ブランド化で付加価値を高める手もある。
 ともあれ、ポルトガルからのウサギ肉輸入というベンチャービジネスが、先生が社長・僕が副社長という二人体制で立ち上がった。


*  *  *


 四月。新年度となり、僕は三年次に進級した。
 ウサギ肉の取引の方は、先生がメインで動いている。供給元は実家なので、そちらは心配する事無く、僕達は日本側での売り込みに集中出来ている。
 今のところ、初期に取引を持てた十数件の飲食店への販売は順調だが、ウサギ料理を手がける店が少ないという根本問題はいかんともし難く、新規開拓が停滞している。しかし冷蔵肉の少量輸入では高コストのままなので、何とか規模を拡大したい物だ。
 ウサギ肉の普及をはかるには何をすればいいのかと考えながら、僕は学舎に向かった。ちなみに結婚時の約束として、退学や休学はせず、卒業までは学業優先という事で、僕は学び続ける事が出来ていた。
 加えてうちの大学には、学生起業を支援する制度がある事でも助かっている。就職氷河期に始まったこの制度により、学内に仮オフィスを借りる事が出来たり、契約時の保証を得られるのだ。
 先生を解雇した事については大学側も後ろめたさがあるらしく、仮オフィスの賃料は免除してくれる事になった。光熱費も請求しないという。
 ただ、先生の退職は”起業の為”という事にして欲しいというのが条件だった。揉めたくもないので、僕達はそれを受け入れた。


*  *  *


 学内では新年度の恒例行事として、部活動や同好会の勧誘合戦が盛んになっている。
 童顔のせいもあり、僕はたびたび新入生と勘違いされて声を掛けられたが、三年次である事を告げると皆、バツが悪そうに引き下がる。
 同じ学科の同期がいる部や同好会なら、僕の事を知っているからそんな勘違いはない。しかし学科が違えば同じ大学でも接点が乏しいので、僕の事を見たままの年齢と思い込む人が多いのだ。
 学外でも、酒類を購入する時など、僕は身分証の提示を求められる事が頻繁だ。
 新人を求める声があちこちから響き渡る中、「ウサギがいなくなってもいいんですか?」という、やや場違いなのぼりを立てた集団が目に付いた。ウサギとなれば当然、興味がひかれる。
 声を掛けてみると、環境保護を目的としたボランティア同好会らしい。活動の詳細を聞いてみると、ネットコンテンツによる啓発活動がメインで、体を使った昔ながらのボランティア活動はほとんどないという。 どうも、ネットコンテンツの制作を目的とした同好会が、環境保護をテーマとして取り上げているのが実態の様だ。

「それで”ウサギがいなくなる”って、天然記念物のアマミノクロウサギとかの事?」
「ウサギじゃなくて、ウナギ。日本人がバンバン食いまくるから、絶滅しかかってるんだよねー。他に旨いもん、幾らでもあるのにさあ」

 そんな事も知らないのかと言いたそうな、ドヤ顔で上から目線の勧誘員に、僕は一言言ってやった。

「……のぼりのナの字、棒が一本多いよ」
「ああっ!」

 「ナ」を「サ」と書き間違えた、単なる誤字だったらしい。僕の指摘に、勧誘の面々は頭を抱えていた。
 昨年の先生と同じ様な間違いに苦笑しつつ、僕は入会を申し入れた。コンテンツ作成が得意なら、僕達の仕事の広報を手伝ってもらえるのではないかと考えたのだ。

「あざーす!」
「後、僕は新入生じゃなくて三年次ね。これ、学生証」
「え? え?」

 彼等は喜んだのもつかの間、僕が三年次と知ると妙に恐縮していた。
 現在の二年次が造った同好会という事で、三年次は僕一人だけという事である。
 同好会は、総勢五人。勧誘出来たのは僕を含めて五人だから、倍の計十名になった訳だ。
 僕が最年長になる為、会長は代表の地位を譲ると言って来たが、起業したばかりで忙しいと謝絶すると、彼だけでなく皆が驚いていた。

「起業って、凄いっすね、先輩!」
「いや、起業と言っても実質、妻の実家の手伝いでね。そこは畜産をやってて、取れる肉の輸入販売なんだ」
「学生結婚! 輸入って、外国? となると国際結婚ですか?」
「うん。妻はポルトガル人で、去年までここで講師をしてたんだ」

 結婚相手が先生だと聞き、彼等はさらにどよめいた。

「講師って、先輩、先生を食っちゃったんですかあ?」
「まあ、むしろ食われたというか…… 申し込んできたのは向こうだよ」
「見かけ高校生の癖に、先輩、凄過ぎる! グレイトっすよ!」

 最初会った時のドヤ顔はどこへやらで、親指を立てて僕を賞賛する会長には、思わず苦笑してしまった。


*  *  *


 同好会には部室も予算もない。ただ、学内で活動出来たり、文化祭に出し物が出せるというだけである。
 そこで僕は、広告用のネットコンテンツ作成を手伝ってもらう代わりに、学内にある仮オフィスを実質的な部室にしないかと会長に持ちかけた。返事はあっさりOKだ。
 仮オフィスは無料にしてはそこそこ広く、簡易キッチンもあるので使い勝手がいい。

「帰りました」
「お帰りなさいー。あら、お友達ですか? 大勢ですね」

 事務机でパソコンに向かっていた先生は、いきなり大勢を連れてきても、朗らかに対応してくれた。ここが大学で、自身が元講師だからだろう。

「お邪魔しますー。おお、本当に外国の人だ!」
「おおー」「凄いー」「オランダ妻ー」

 先生を見るなり、一同は驚きの声を挙げた。学内には留学生もいれば外国人の教授陣もいるので、驚く様な事とは思えないのだが……。それにしても、何でオランダ妻だ。

「オランダではなくてポルトガルね。電気ウナギの夢も見ないから」
「何です? それ」

 当の発言の主が、不思議そうに首を傾げる。冗談のつもりだったが滑った様だ。三十年前のゲームなんて普通は知らないか。

「昔、そういうタイトルの有名なゲームがあってね。それはそうと、新入生はともかく二年次は誰か一人位、先生に見覚えない? 去年まではここの講師だったんだし」

 残念ながら全員、先生の事は初めて見たという。
 同好会の誰もが、第二外国語にポルトガル語を選択していなかったらしい。ちなみに、第二外国語選択の代わりに英語のコマ数を増やす選択をした会員が多かった。
 うちの大学は第二外国語の選択肢が多く、履修届は第五希望までを出す。大半は英語のコマ数増を希望するが、定数の抽選で漏れた学生は、他の言語に割り振られる。
 ポルトガル語の他はどんな物があるかというと、イタリア語、ロシア語、アラビア語、スワヒリ語といったメジャーな物から、エスペラント、ラテン語といった実需に乏しい物まで様々だ。ちなみに、留学生や帰国子女枠での入学者専用で「日本語」も選択にある。

「で、皆さん、ゼミのお仲間とかですか?」
「違いますよ。実は今度、同好会に入ることにして……」

 一同との関係を尋ねる先生に僕は、同好会に入った事とその活動、そして僕達の仕事の広報に関するネットコンテンツ作成を手伝ってもらえる事になった事を話した。

「じゃあ、バイトさんみたいな物ですね。宜しく御願いしますー」

 本格的な広報の為に人手が欲しいという事は、以前から話し合っていたので、彼女はあっさりと受け入れてくれた。


*  *  *


 その日の夜は早速、新歓コンパとなった。会場は件のすき焼き専門店である。今回は接待費扱いで、勘定はうちの会社持ちだ。
 まずは、うちの商品を食べてみてもらわないと話が進まない。
 ウサギを食べると聞いて、最初はやや引き気味の会員もいたが、いざ食べてみると皆、箸が進んでいる。肉が奪い合いにならない様、先生が鍋奉行として仕切っていた。
 食べながら、僕は活動についての話題を切り出した。

「ウナギだけどさ。ただ食うなと言っても、誰も聞かないよね? 旨いから食べるんだし、鰻屋にしてみれば商売だしね」
「ウナギの代わりに、ナマズやサンマの蒲焼きをメニューに加える店も増えてますから、そっちを推奨しようと考えています。安いし、その線でいけると思うんですよ」

 僕の疑問に、会長はよどみなく方針を答えた。だが、ナマズやサンマを代用として普及させるというのは僕も想定内である。

「成る程。でも、それは既に業界が動いてる訳だから、僕等がやっても目新しさがないと思うね。それにサンマについては、そっちも乱獲が問題になってるってニュースでやってたのを聞いた事があるけど大丈夫かな?」
「うっ!」

 会長は僕の指摘に言葉を詰まらせた。人がやっている事の後追いでは意味が無い。彼等はそも、ネットコンテンツが造りたくて、その題材として自然保護、特にホットな話題であるウナギを選んだに過ぎないのだから。
 それに、ウナギの身代わりとしてサンマを激減に追いやったというのでは洒落にならない。

「そこで、もっとインパクトがある物を提唱したらどうかと思う訳なんだ」
「というと?」
「土用の丑の日って、実は”ウ”が頭に付く食べ物なら何でもいいらしいんだよ」
「梅干し……」「ういろう……」「うどん……」「ウニ……」

 会員達は口々に、「ウ」の付く食べ物をあげてくる。発想は豊かだが、何で目の前の物が出てこないのかが不思議である。
 ウニと言ったのは先生だが、自分が食べたかったのだろうか。この人、やはり天然ボケの要素がある。

「あのさ、今食べてるのは何かな?」

 僕の指摘に、先生を含む全員が、ハッと気がついた様に目を見開いて一斉に答えた。

「ウサギ!」
「そう、ウサギ。昔は日本でもよく食べられていたのに、今や殆ど絶えてしまったウサギ食を、土用の丑の御馳走として僕等の手で広めたらと思うんだ」
「まさか…… 先輩が入会したのって、このネタをやる為に?」

 会長が、僕に恐る恐る尋ねて来た。

「そうさ。平賀源内はたった一文の宣伝文句で、土用の丑の日にウナギを食べる習慣を広めたんだから。僕達にだって出来る!」

 僕は胸を張って自信満々で答えた。こういう事はブラフも必要だ。

「流石、私が見込んだショタですよ!」
「おおっ!」

 先生の歓声に、皆も一斉に気勢をあげる。妙な単語が混じっていても誰も気にしないのは、先生が外国人だからだろう……と思いたい。

「キャッチコピーが浮かびました、先輩!」

 会長がさっそくアイデアを挙げて来る。

「どんなの?」
「”ウナギもいいけど、ウサギもね!”」
「……」

 場の盛り上がりは一気に冷め、ほぼ全員の冷めた目が会長に注がれる。どこかで聞いた様なフレーズに、あまりにも安易だと思ったのだろう。

「だ、ダメですか?」
「いいんじゃないかな、それ。語感が似てる事を旨く使ってるし、リズム感がある」
「良かったー」

 僕の感想に、会長はホッとしていた。キャッチコピーは下手に凝った物より、覚えやすくてゴロが良ければいい様に思う。少なくとも僕は悪くない案だと思った。
 それに土用の丑まではあまり間が無いので、サクサク決めた方がいい。

「流石は先輩!」「すげえ!」

 僕が会長の案を支持すると、会員達は一転、それを賞賛し始めた。堂々としたハッタリが、余程効果があったのだろうか。
 ともあれ、土用の丑のウナギに代え、ウサギを普及させるキャンペーンを張るという僕の提案は了承され、同好会の活動をうちの会社の業務に組み入れる事には成功した。

「今日はご馳走様でしたー!」「あざーす!」

 コンパはお開きになり、会員達は各々、帰途について行く。先生が会社の経費から全額出すと申し入れていたので、彼等は上機嫌である。

「やっぱり、若い子はタダ飯で釣るのが一番ですねー。バイト雇うよりも安上がりですよー」

 先生はにっこりと僕に微笑む。何だか、普段見せない裏の顔が垣間見えた気がして、僕の額に冷や汗が浮かんだ。
 元々、同好会をウサギ販促の手伝いに引き込む画策をしたのは僕なのだが、何か怖い……


*  *  *


 数日後。
 僕達はネットに流す為のPVを撮影する事になった。ウサギ料理を出す店の紹介が内容で、出演は僕と先生である。
 会長の弁によると、僕と先生の様な、外国人の”お姉さん”と年下の”少年”という組み合わせのカップルは、組み合わせとして最良らしい。

「お二方とも、ルックスが良さげですし。一回り、女性の方が歳上というのもポイントなんですよっ! ジェラシーとか起こりにくくて、実に微笑ましい。それでいて人種が違いますから姉弟にも見えず、カップルだと解ります」

 意見が的を得ているかはともかく、彼なりに色々考えているらしい。お似合いと言われれば、こちらも悪い気はしない。先生も素直に喜んでいる。
 土用の丑に向けたPVという事で、撮影は件のすき焼き店を含め、和食店を優先的に行っていった。肉の取引先という事もあり宣伝になる為、どの店も僕達の提案を喜んで受けてくれた。
 内容その物は、奇をてらっていないオーソドックスな物だ。店の外観や内部、そして店主を紹介した後、お奨め料理を僕と先生で美味しそうに食す。そして「土用の丑はウナギもいいけど、ウサギもね!」の決めセリフでしめた後、店の案内を表示する。
 紹介する料理はウナギの価格が高騰する前の、一昔前のウナ重程度の値段の物とする事で、割安感を感じさせる様にした。
 一通りの撮影を終えた六月中旬頃から、動画投稿サイトでPVを流し始めた。また同時に、取り上げた各店で、土用の丑に向けたPRを行ってもらっている。
 ネットコンテンツを手がけているだけあって、会長は旨く動画を拡散させてくれた様で、当日を待たずして、店にはウサギ肉目当ての来客が増え始めた。
 味の方も好評で、実際に行った人達から評判が広がり、土用の丑当日はどの店も盛況で嬉しい悲鳴を挙げていた。
 元々が美味しい物だ。要は、手に取ってもらうきっかけである。
 僕達の会社には、ウサギ肉を使った料理を出したい店からの問い合わせが相次ぎ、大忙しとなった。
 陳腐だが覚えやすい、”ウナギもいいけど、ウサギもね!”というコピーはネットでのトレンドとなり、僕と先生もPVの出演者として、意図せず有名人になってしまった。取材の申し込みが相次ぎ、ちょっとした芸能人的な扱いである。
 金髪美人と日本人少年(疑似)の組み合わせは、会長の思惑通りに人目をひいた。
 現状、白人と日本人のカップルは、男性側が白人のケースの方が多い。
 アジア系男性は白人女性からみて”逞しさに欠ける”という理由が良く聞かれるが、僕達の場合、”それこそがいい”という、従来の価値観を逆転させたカップルとして、様々な方面から着目を浴びたのだ。
 移民推進派の政治家やら、対EU交易を推進したい財界人やら、グルメ関係の雑誌編集部やらが、次々に僕達に接触して来る。
 商売上悪い話でも無いので、本業に支障ない範囲で僕達はそれを受けた。会食は勿論、ウサギ料理を出す店で行い、可能なら対談も記事にしてもらう。有力者や著名人との対談が、ウサギ肉の高級感を醸し出す事にもつながった。
 常食化して需要が急増しても、すぐには対応しきれない。ウナギに代わる、やや高価な御馳走というポジションに収まるのが丁度いい。
 実家の農場では需要に応じきれなくなる事を見越し、近隣の同業者との連携を進めているそうだ。要は増産に舵を切る訳なので、ウサギ料理が一過性のブームに終わらない様、僕達も正念場である。
 急速に忙しくなってきたので、同好会の面々にも、「ウナギ保護活動」の名目でコンテンツ作成以外の業務も手伝ってもらっている。ここまで来ると無賃という訳にもいかず、バイト代はきちんと払う事にした。本人が希望すれば、卒業後にそのまま正社員という内々定もコミだ。どの道、人手は欲しい。
 また、大学の方も状況に便乗する形で、留学生募集のパンフ写真に僕と先生を起用したいと申し入れてきた。
 そもそも、大学側が先生を解雇したのが事の発端なので、何とも複雑な思いなのだが、便宜を図ってもらっている事もあり応じる事にした。
 結果、反応は良かった物の、問い合わせの殆どが学士入学を希望する二十代半ば以降の女性からだった事に、大学当局は首を傾げていた。
 だが僕に言わせれば当たり前だ。要は「可愛らしい従順な男の子を捕まえたい」という肉食女子の琴線に触れたのだ。そういう嗜好は洋の東西を問わず少数派なので、それが満たせそうな処を見つければ飛びついてくる人が殺到するのも必然である。

「これ、折角来た留学生には悪いけど、期待外れになるんじゃないかなあ」
「どうしてですか?」

 オフィスで事務仕事をしながら僕がつぶやくと、傍らの先生が首を傾げた。

「日本人の男って、欧米人の女性には気後れするのが多数派なんですよ。そもそも日本人は欧米人に比べて背が低めだし。身長が釣り合ってても、日本人の方が体格とか貧弱だし。実際、うちの学内で僕達みたいな組み合わせって他にいないですよね?」
「大丈夫ですよー。日本の男の子の方も、欧米人の歳上お姉さんと仲良くなりたいという子が集まって来ると思うんですよねー」

 僕の指摘にも先生は楽観的で、実際蓋を開けてみると、彼女の言う通りだった。元々、欧米系を含む留学生が多めの大学である。僕と先生という”ベストカップル”が実例として宣伝塔になった事で、妄想を抱いた志願者が殺到したのだ。
 ネットを見ると、うちの大学に対する風評が、”歳上の外人お姉さんと仲良くなれるのでは””実際、留学生多いし”という妄想であふれかえっている。
 単に煩悩にまみれたたわけ者が増えるという訳ではなく、志願者が増えた以上、予測偏差値も上がっている訳だが……

「どうせ僕達に着目するなら、ビジネスの方を見て欲しいんですけどねぇ。学生起業を支援する大学という、立派なウリがあるんですから」
「そういうきっちりした子も、ちゃんといると思いますよー」

 先生はどこまでも楽観的だった。


*  *  *


 二年後。
 卒業と共に僕はビジネスに専念するつもりだったのだが、大学当局に懇願されて修士課程に進む事になった。ちなみに先生は元々修士号を持っている事もあり、再入学せず仕事に専念している。
 これまで借りていたオフィスは引き続き家賃無料でOK、さらに1フロア占有に拡大という破格の条件に加え、昨年に生まれた僕達の子供を、学内の保育科の付属保育園で預かってくれるという申し入れが大きかった。
 同好会の方は、初期メンバーの卒業と共に、うちの会社に吸収されて発展解消している。会員達は正社員化を希望する者と、他に就職を希望する者が半々だった。会長は外に出る事を選び、映像業界で頑張っている。業界入りに際しては、ウサギ料理のPV作成の経歴が随分と箔になったそうだ。
 土用の丑にウサギを食べるという習慣は、日本全体へ徐々に定着しつつある。少なからぬ和食店でウサギ料理のメニューが登場し、また、西洋料理の店でも、ウサギ料理の注文が増えている。
 国内のウナギ消費量は二年前に比較して約10%減なので、僕達の活動がウナギ食の減少につながっているかというと、断言しきれないところがある。ウナギの価格上昇の方が、影響はより大きかったのではないだろうか。
 ただ、当初の同好会の目的はともかく、僕と先生は「ウサギ肉を日本に売り込む」事が第一なので、その辺はあまり気にしていない。
 後継者難で畜産が衰退している日本では、新たに食用ウサギの繁殖を手がける業者が出てこない点も、こちらの思惑通りになった。従来からあるジビエとは、ウサギ料理全体のシェアが拡大している事もあり、うまく棲み分けられている。
 ポルトガル以外の兎肉生産国との競合は予想通りに発生しているが、パイオニアとしての有利さやブランド化で充分に対抗出来ている。歴史上の関わりはともかく、現代ポルトガルの印象が日本では薄かったので「ポルトガルと言えばウサギ」に結びつく様、観光業界も抱き込んでキャンペーンを展開したのも功を奏した。
 そして、僕達の行動によるもう一つの影響も現れてきた。
 うちの大学で、欧米系の女子留学生の増加が顕著になったのだ。逆に、男子留学生は著しく減少した。
 日本人学生については逆に、男子八に対して女子二。一昨年まではほぼ半々だったのが、二昔前の男女比に戻りつつある。面白い事に、日本人と留学生の男女比をならせば、ほぼ半々となる。
 勿論、公にその様な層を標的にして学生募集の広報をかけたり、外れる層を除外した訳ではないのだが、僕と先生の存在が、大学の印象を決定的に塗り替えてしまった様だ。
 学生街で盛んに開かれる新歓コンパでは、肉食系女子留学生が率先して、奥手な日本人男子の新入生の脇をつかんで”お持ち帰り”する光景が見られる様になった。うちの大学の、新たな風物詩である。

「ま、みんな幸せならそれでいいんですけどね。僕達の様な組み合わせが増えれば、生活しやすくなるのも確かですし」
「そうですよー」

 子供が生まれて以後、先生はますます上機嫌な日常である。商売繁盛、子宝成就。全く言う事はない。
 我が子はベビーベッドですやすやと眠っている。男女の双子だ。ハーフという事で不安もあるが、この子達が育つ頃には、学校でも極端に目立つ事はなくなるのではないか。
 それに、移民推進派の議員さんとも太いパイプが出来た。万が一、人種を元にした”いじめ”にでも遭ったなら、きっと適切な処置をしてくれる事だろう。

「今日の夕食は、と。ミートパイですね。ウサギ?」

 食卓の上には、大きなミートパイが置かれている。

「はい。これまで、高級志向でいったんですけど、これからはこういう庶民的な物も出して行ければと思うんですよー」
「へえ……」

 確かに、高級料理としての売り出しは一段落したので、そろそろ大衆向けのPRをしてもいいかもしれない。本国では供給拡大も問題ないと言っていたし、きっと大丈夫だろう。

「学食から、学生さんから値頃にウサギを食べたいって要望があると聞いたものですからー」
「じゃ、試験的にメニューに加えてもらいましょうよ」
「行きましょー。名前は”うさぎパイ”!」

 その物ズバリの命名だが、僕にはピンと来た。

「浜松に”うなぎパイ”というお菓子がありますけど、狙ったんですか?」

 まあ、物は全く違うから類似品で訴えられたりはしないだろうし、嘘はついていない。

「はい。でも、似てるのは名前だけじゃないですよー」
「?」
「ほら、浜松のうなぎパイって”夜のお菓子”っていうじゃないですかー」
「ああ、夜の営みの為に精をつける、という意味ですね」

 ウナギは強精食とされており、”夜のお菓子”のフレーズもそこから来たらしい。
 先生は、何故だか日本の妙な知識が豊富だが、うなぎパイがアニメにでも出て来たんだろうか。

「で、ウサギって繁殖力旺盛な物ですから、足が子宝のお守りにされるんですよー」
「へえ……」
「ですから、うさぎパイも、そっちの効能をうたえば大人気と思うんですよー」
「気分の問題かも知れませんけど、効きますかね?」
「このパイにはホーデンも入れてあるから、バッチリです!」
「ホーデンって、”たま”?」
「はい、”たま”です」

 先生はさらっと、トンデモな事を言う。確かにホーデンとて、食材にしても問題はないし、本当に効きそうではあるが……

「学食でそんな効能うたってどうするんです?」
「えー? 女の子達、喜んで食べると思いますよー? 肉食ですしー」

 そうだった。僕と先生のパンフを見て留学してきた女子学生は、揃いもそろって積極的な肉食系なのである。

「ですから、私達もうさぎパイをがっつり食べて、三人目を造りましょー!」

 先生は無邪気に笑っている。
 眼前のパイから”もげちまえよ、この野郎!”とウサギの声が聞こえた様な気がして、僕はちょっと身震いした。


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