投降
「武器を捨てろと皆に言え。抵抗すれば殺す」
ムルアカはそう冷たく言った。ムルアカの背後に並ぶ兵士達は無表情のまま小銃をカイト達に向けている。それはまさに彼らのヤポンへの訣別の意思を表しているようであった。
「君達はもう無敵のヤポン軍兵士ではない。ただの落ちぶれた負け犬の集団だ。立場が変わったのだよ」
「……! 」
ムルアカの侮辱にカイトは内心怒り心頭であった。腰に下げた拳銃を抜こうかと思ったがそんな動きをすればカイトは間違いなく小銃弾で蜂の巣のようにされてしまうであろう。カイトは何も出来ず黙っていた。
「早くしろ! 」
ムルアカがそう急かす。するとアキヨシがカイトとムルアカの間に突然飛び出してきてこう言った。
「貴様! 我々に銃を向けるとはどういうことだ! これまでの恩を忘れたのか!? 」
アキヨシがムルアカにヤポン語でそう叫んだ。アキヨシも怒りの表情でムルアカを睨みつけている。ムルアカ達の訓練を見学した時に親しそうに接していたムルアカの態度がここまで豹変するのを見てアキヨシは逆上の一歩手前であった。だがムルアカは冷淡な笑みを浮かべるとベイ語でこう言った。
「ヤポンのチビめ。それ以上近づくと死ぬことになるぞ」
アキヨシはベイ語が分からない。アキヨシは拳を握りしめつつ更にムルアカに近づこうとした。するとムルアカの背後の兵士達が今にも撃たんと小銃を改めて構え直す。カイトは慌ててこう言った。
「アキヨシ! 止まれ! 」
だがその言葉は遅かった。「ダーン! 」という銃声が響きその直後にアキヨシは崩れ落ちた。ムルアカの背後の兵士の一人が発砲したのだ。
「うわっ! 」
「アキヨシ! 」
カイトは思わずアキヨシに駆け寄ってその上半身を抱き起こした。アキヨシの軍服の胸の辺りは血塗れになっている。
「アキヨシ! 大丈夫か!? 」
「う……うぅ」
アキヨシは苦しげな表情をして目を瞑りそう唸っていたが突然ゴホッと咳をしたかと思うと口から血を吐いた。
「アキヨシ! 」
「カイト……少尉……」
アキヨシはそう言って右手を上げようとした。だがその右手はほんの数秒後にだらりと力なく地面に落ちた。
「馬鹿な……! 」
自分の腕の中で目を瞑ったアキヨシの顔を覗き込みながらカイトはそう呟くと大粒の涙を零した。最前線の激闘を折角生き残ったのにこんなところで生命を落したアキヨシが不憫でならなかったのだ。
「アキヨシ……」
カイトは泣きながら再び腕の中の友人の名前を呼んだ。だがアキヨシが返事をすることはもうない。カイトは顔を上げるとムルアカを思いっ切り睨みつけた。するとムルアカは何も気にしていないかのように冷淡にこう言い放った。
「早く武器を捨てろと皆に伝えろ」
「……! 」
これ以上の犠牲者を出す訳にはいかない。カイトの怒りは頂点に達していたが今はムルアカの指示に従うより他になかった。カイトは皆に武器を捨てるように伝えた。




