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モンスーンの雨と硝煙 そして君  作者: 菅谷 ケント
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交戦

カイトの横に立つオーキがこう言った。


「敵戦車が3台、その後方にトラックも3台程続いているようだ。一列になってこちらに向かっている」


オーキも双眼鏡を持っており敵の様子を眺めている。オーキはこう続けた。


「あのクソ戦車……! 」


オーキ達は最前線で散々敵戦車に苦しめられてきたのだ。オーキの顔は憎しみで歪んでいた。


「榴弾を装填するぞ。最後尾のトラックから殺る」


ミヒャエルがそう言ったのでカイトはそれをオーキに伝えた。オーキが心配そうに言う。


「戦車を先に殺らなくて大丈夫か? 」

「君達はあの戦車を中型戦車と言っているようだが我々にとってはあれは小型戦車に分類される。この距離なら問題ない。この砲の使い方は私の専門だ。任せておけ」


ミヒャエルは淡々とそう言った。そして敵戦車の名称はスチュアートだということも教えてくれた。ドク国はスチュアートなどより更に大型の戦車を相手に戦っているという。カイトは全てをミヒャエルに任せることにした。


「距離八百m! 」


測距儀を持った兵士が叫ぶ。カイトがミヒャエルに叫んだ。


「まだ撃たないのか!? 」

「まだだ。今射撃開始すれば逃げられてしまう。後二百m引き寄せるぞ。誰にも撃つなと伝えろ! 」


カイトの心臓の鼓動は高鳴り掌はいつの間にか汗でびっしょりだ。ここで焦ってはいけないのだろうと思ったカイトはミヒャエルを信じてじっと待つことにした。


「距離七百! 」


その時カイトは自分が唾をゴクリと飲み込む音が皆に聞こえるのではないかと思った。そして覗き込んだ双眼鏡からはもう敵戦車がはっきり見える。戦車砲塔の上部ハッチから上半身を出している敵の戦車兵の勝ち誇った笑い顔までこの時のカイトにははっきり見えた。ミヒャエルは8.8cm高射砲を細かく動かして照準をしている。その長い砲身は意外と機敏に動くことをカイトはこの時初めて知った。そしてカイトが「ふぅ」と小さく息を吐いた次の瞬間だった。


「距離六百! 」

「ファイヤ! 」


ミヒャエルがそう叫んだ後轟音が鳴り響いた。するとカイトが覗く双眼鏡の中で大きな爆発が起こり最後尾にいたハーフトラックが一台横転するのが見えた。


「次発榴弾装填! 急げ! 」


ミヒャエルの言葉を翻訳してカイトが皆に指示する。皆訓練通りテキパキと動き榴弾が装填され誰かが「装填完了! 」と叫ぶ。するとカイトが訳す間もなくミヒャエルは射撃を行った。再び轟音が響いたかと思うと二発目の砲弾は別のハーフトラックのエンジン部分を直撃した。爆発が起こって土煙が舞った直後にハーフトラックが火を噴いているのがはっきりと見えた。カイトが興奮して叫ぶ。


「命中だ! 直撃だぞ! 」

「カイト! 次は徹甲弾だ。軽戦車を殺るぞ! 」


カイトの言葉を遮るようにミヒャエルが叫ぶ。双眼鏡の中の敵戦車は何処から砲撃されているのか分からず砲塔上部のハッチから頭だけを出した戦車兵が双眼鏡を片手にあたふたとしている様子がはっきりと見て取れた。


「徹甲弾装填完了! 」

「ミヒャエル! 撃てるぞ! 」


すると次の瞬間だった。三度目の轟音が響いた後にカイトが覗く双眼鏡の中の先頭のスチュアート戦車の砲塔が空高く吹っ飛ぶのが見えた。同時に敵戦車は大爆発を起こしその場で動かなくなった。カイトは興奮して大声で叫んだ。


「やったぞ! 」

「残りの2台がこちらに砲塔を向けている! 次発装填急げ! 」


ミヒャエルの方がカイトより遥かに冷静だった。カイトは慌てて徹甲弾装填の指示を出す。そうして放たれた四発目の砲弾は二台目の敵戦車車体の前面装甲を切り裂いた。敵戦車は爆発を起こした後砲を項垂れてもうもうと黒煙を噴き上げている。


「最後の敵戦車が逃げるぞ! 」


誰かがそう叫んだ。不意打ちを喰らい敵はパニックに陥ったのだろう。だが敵は後進しながらも我が方に砲撃を始めた。するとまた誰かが慌てて叫ぶ。


「敵戦車の砲撃だ! 」

「あんなの当たりっこない。適当に撃っているだけだ」


慌てる我が軍の兵士の横でミヒャエルはそう呟いている。すると敵の砲弾はミヒャエルの言葉通り8.8cm高射砲が設置されている場所とは明後日の方向に着弾した。それを見てカイトは言った。


「皆落ち着け! 同盟国の友人に笑われるぞ! 装填急げ! 」


次のミヒャエルの射撃はノロノロと後進するスチュアートの右履帯を捉えた。爆発が起こり鉄の破片が周囲に飛び散っている。すると敵戦車兵が慌てて戦車砲塔の上部にあるハッチを開けてそこから飛び出し地面に降り立った。


「逃がすかよ! 撃て! 撃て! 」


オーキがそう叫ぶとそれまで8.8cm高射砲の射撃を眺めているだけだった他の兵士達が一斉に小銃を構えてパンパンと射撃を始めた。だが誰の小銃弾もその敵戦車兵を捉えることは出来ない。するとオーキが少し苛立った様子で「九十七式を持ってこい!」と叫んだ。すると近くにいた兵士がオーキに小銃を手渡す。どうやらそれは性能の良い狙撃銃のようであった。その間に敵の戦車兵は荒野を走って逃げている。オーキはスコープを覗き込みながらじっくりと狙いを定めると引金を引いた。「バーン! 」という発砲音と共に敵の戦車兵は倒れた。


「今まで散々痛めつけられたお返しだ! 馬鹿野郎! 」


オーキの叫び声が響きそこで戦いは終わった。ハーフトラックを何台か逃したが後の車輌は全て葬り去ったのだ。荒野で燃え続ける敵戦車の残骸を見てある者は歓喜の涙を流しある者は「万歳! 」を繰り返した。その中でカイトはこう呟いていた。


「この砲は……凄いぞ」

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