懲罰大隊上がり
「協力してくれる方はどなたでも大歓迎です」
ミヒャエルを迎え入れるとサ・ガンがカイトにこう言った。
「カイト、お前は通訳だ。ナガック技術少尉の言うことを彼に伝えろ」
「……はい」
カイトは渋々サ・ガンの言葉に従った。ナガックは再びミヒャエルとカイトを連れて潜水艦に乗り込むと8.8cm高射砲の解体について細かく確認していった。
「カイト少尉、彼にこの高射砲の重量を聞いてくれ」
「ミスターミヒャエル、こいつの重さはどれぐらいだ?」
「おおよそ7.5tから8tだ」
カイトの質問にミヒャエルは素直に答えてくれた。しかもミヒャエルは質問に答えるだけではなくアドバイスもくれた。
「台車の上に固定する為の溶接はしっかりやらないといけないぞ。この砲の反動は物凄いのだ。頬杖もあった方が良い」
「前線に運んだ後は陣地に台車を埋めてしまえば良いだろう。そうすればそのまますぐ使えるし高射砲のシルエットも低く出来る筈だ」
「砲弾もデカいし重いぞ。運ぶ時は慎重にな」
ミヒャエルは昨夜の態度が何だったのかと思う程今日は協力的だった。翌日には8.8cm高射砲は潜水艦から取り外され台車の上に載せられていた。最初はミヒャエルのことを鬱陶しく思っていたカイトだが作業が終わるとカイトはミヒャエルに頭を下げながら笑顔でこう言った。
「ミスターミヒャエル、助かったよ」
ミヒャエルは暫くの間何も言わなかった。カイトが下げた頭を上げて再びミヒャエルの顔を覗き込んだ時に初めて口を開いた。
「ミスターカイト、実は……」
「どうした? 」
「……実は俺は懲罰大隊に送られたことがあったんだ」
「……! 」
カイトは絶句した。懲罰部隊というのは軍規違反等で階級を取り上げられた兵士が地雷処理や最前線での突撃など生存の確率の極めて低い任務を優先的にやらされるのだ。万が一それに生き延びたとしてもまたすぐに別の死と隣り合わせの任務を与えられてしまう。生きる希望すら持つことが出来ないのが懲罰部隊であっだ。過酷な戦場の中で更に家畜のように扱われるのは相当辛かった筈であった。
「ムカつく上官が俺を懲罰大隊に送り込みやがった。たった一回敬礼を忘れただけだぜ……! 」
「……」
「その時から俺の人生はゲロにまみれちまった。それでも俺は歯を食いしばって生きてきた」
俯いたミヒャエルの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。カイトは黙って話を聞いていた。
「その後やっと原隊復帰したと思ったらいきなりヤポン行きのUボートに乗れって言われたのさ。俺はヤポンになんか行きたくなかった。だがまた命令に逆らったら懲罰大隊に逆戻りさせられるかもしれない。だから俺は黙ってUボートに乗ったのさ」
「……」
「でもな、Uボートでの生活は良かった。狭い艦内での暮らしは過酷だったが俺の素性を知らない他の乗組員は皆親切だった。皆本当に良い奴ばかりで俺はUボートでの生活を楽しんでいたんだ」
「……そうか」
「だが俺の人生はいつも良いことは続かない。敵の攻撃に遭ってUボートはぶっ壊れ仲間も大勢死んだ。漸く辿り着いたこの港ではあんたらからまともな医薬品を受け取れず傷付いた仲間は更に何人か死んだ。その上生き残った俺達に出てくるのは不味いクソ飯ばかりだ。酒を飲ませろと言っても言葉も通じねぇ。同盟国から虐待に等しい扱いを受けていると俺は思っていたのさ」
彼らにとって言語の通じない見知らぬ異国の地という環境と口に合わない食事が相当なストレスになっていたことにカイトはこの時漸く気が付いた。
「そんな時にあんたらが来ていきなり協力しろ、なんて言うもんだから頭に来ちまってさ。だけどあんたらも俺らと同じクソ飯を食ってるしこのクソ暑い中汗まみれになって一生懸命仕事をしているのを見ていたらあんたらに悪気なんか無いことが分かった」
それまで俯いていたミヒャエルが突然顔を上げてカイトを見上げた。その顔は笑っていた。
「協力するぜ、カイト」
「ありがとう、ミヒャエル」
二人はがっちりと握手をした。その日の夜カイトは補給部隊からこっそり酒を盗みだしミヒャエルと二人で密かに杯を交わした。ミヒャエルは久しぶりの酒の味とカイトの心遣いに感激し二人はその夜のうちに仲良くなった。




