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モンスーンの雨と硝煙 そして君  作者: 菅谷 ケント
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Uボートと高射砲

移動する車の中でサ・ガンとカイトの会話は続いた。


「これから会うのは潜水艦の艦長らしい」

「どんな男です? 」

「ワシも初めて会うのだ。その男は酷い怪我をしていて今まではとても話しが出来る状態ではなかったらしい」


同盟国の士官同士の面会ということでわざわざ車が用意された、ということもカイトはこの時聞いた。ヤポン陸軍の見栄であろうとカイトは思った。カイトにわざわざ風呂に入らせて軍服を新調させたのも同じ理由であろう。そしてその後もサ・ガンは色々と教えてくれた。潜水艦が漂着したのが二週間前だということ、潜水艦は港に接舷されているが損傷がひどくもう動けないこと、潜水艦の乗組員の生き残りは三十名程いること、そして彼らとのスムーズな意思疎通が早急に必要になったこと、これらサ・ガンの発言をカイトは一つずつ頭に整理していった。


「そろそろ着きます」


運転手が前席でそう叫んだ。外を見ると小雨の中に小さな民間の船が何隻か並んでいるのが見える。軍艦は一隻もいない。こういうことからも我が軍の劣勢が感じ取れるとカイトはしみじみ思った。


「おっ、あれが潜水艦だな」

「えっ? 」


サ・ガンが顔を向ける方向にカイトも目を遣った。すると民間の船と船の間に艦橋を少し右に傾けながら係留されている一隻の潜水艦がカイトの視界にも入ってきた。


「こりゃひどいな」

「ええ……」


二人は思わず溜息をついた。その潜水艦の艦橋の側面から後部上甲板にかけて大きな穴が空いておりその穴の周辺は黒く焦げているのが見えたからだ。よくあれだけの損傷を負ってここまで辿り着けたものだとカイトは感心した。


「沈むか沈まないかの瀬戸際で……頑張ったのだろうな」

「……そうですね」


その時潜水艦を眺めていてカイトは一つ気が付いたことがあった。その潜水艦の艦首甲板上に大型の大砲が一門装備されていることだった。


「高射砲……かな? 」


それはロングーンにいるヤポン陸軍では保有していないタイプの美しい長砲身が特徴的な砲であった。そしてカイトが車の窓からその砲を何となく見ていると運転手の兵士が二人にこう声を掛けた。


「着きました! 」


二人は車を降りると運転手に連れられて港の脇に立つ小さな二階建ての建物に入った。そこは潜水艦の乗組員の病院のようになっていたがベッドの数は足りず建物の中にいくつかある部屋にはドク軍兵がそこら中に寝転んだり壁に寄りかかったりして溢れていた。カイト達は二階の一番奥にある個室の入口のドアの前に連れていかれた。運転手がドアを指し示しながら「こちらです」と言うとサ・ガンが歩み出てドアをノックをした。


「失礼します」


サ・ガンがドク語でそう言うと中から「どうぞ」と声が聞こえた。その声も勿論ドク語だった。サ・ガンがドアを開けるとそこには大きなベッドがあって1人の男がそこで寝ていた。髭や髪の毛が伸び放題のドク国軍人であった。


「サ・ガン中将です。こちらは私の部下のカイト少尉です」

「おぉ! 初めてドク語を喋れるヤポン人に出会えた! 」


ベッドの上で寝ていたその男は上半身を起こすと笑顔で二人を迎えてくれた。握手をしながらその男はこう言った。


「Uボートの艦長のルドルフです。部下の受け入れと治療に感謝します」

「我々は同盟国ですから。当然の対応ですよ」

「ただ部下の中には意思疎通が出来ない為に治療が進まない者もいます。彼らへの対応を急いでほしいというのが私の願いです」


おそらくこの艦長がドク語の通訳者の早急な手配をヤポン軍に訴えたのであろうとカイトは思った。そしてサ・ガンが笑顔でこう答えた。


「すぐに対応致します」

「ありがとう」

「ところで……ドク国の戦況はどうですか? 」

「実は……」


その後はサ・ガンとルドルフが互いの国の戦況を話し合った。ドク国もヤポン国と同じように苦戦をしており戦況は日に日に悪化していることがルドルフの口から語られた。サ・ガンもロングーンで大きな作戦が失敗し敵が反撃に転じていることを正直にルドルフに話し最後にこう付け加えた。


「……ここも安泰ではなくなるかもしれません」

「そうですか……でも我々はUボートの修理が終わらない限りここから移動することも出来ません。そもそもあのUボートが修理出来るのかすら怪しいですがね。ここにいる以上は我々も何かあなた方の役に立ちたい。我々に出来ることがあれば何でも言って下さい」


ルドルフは笑顔でそう言った。良い漢だとカイトは思った。そしてカイトふと思いついたことを口にした。


「ルドルフ艦長、あの潜水艦の上甲板に備え付けられている砲は高射砲ですか? 」


それまで黙っていたカイトが突然流暢なドク国語で喋りだしたのでルドルフは目を丸くしながらこう言った。


「あなたもドク語を話されるのですね! 驚きました。えぇ、そうです。あれは我が軍が誇る8.8cm高射砲です。戦闘機から戦車まで何にでも使える万能砲です」

「戦車? 」


カイトの瞼がピクッと動いた。


「対戦車戦にも使えるのですか? 」

「えぇ、あの高射砲を装備した戦車もあるぐらいですから」


カイトはルドルフの前に突然歩み寄って近づくと改めてこう言った。


「ルドルフ艦長! あの高射砲を貸して下さい! 」

「えつ!? 」

「我々には強力な対戦車兵器がないのです! お願いします! 」


カイトはそう言って頭を深々と下げた。いきなりのその申し出にサ・ガンはルドルフ以上に驚きつつこう言った。


「おいおい、いきなり何を言い出すんだ? 」

「サ・ガン中将、我が軍の兵士は今も敵戦車に蹂躙されているのです! 敵戦車への有効な対抗策が早急に必要なのです! 」


カイトは引き下がらずにそう答えた。カイトのその必死な表情を暫くの間見つめていたサ・ガンは小さく頷くとそれ以上は何も言わなかった。


「ルドルフ艦長、お願いします! 」


カイトが再びルドルフに向き直ってそう直訴する。するとルドルフは拍子抜けするほどあっさりとこう言った。


「良いですよ」

「へっ? 」

「動けない潜水艦に積んだままでも仕方ありませんから。どうぞ使って下さい」

「あ、ありがとうございます! 」


カイトは笑顔になってルドルフと再び握手をした。サ・ガンもホッとしたような笑顔で二人を見つめている。するとルドルフはこう付け加えた。


「8.8cm高射砲の担当者がこの建物の中にいる筈です。名前はミヒャエルといいますから。彼に協力させましょう」

「ありがとうございます! 」


ルドルフは部屋の隅にいた従兵に指示してミヒャエルを呼んでこさせた。ミヒャエルはドク国人としては身長が低くサ・ガンと同じぐらいで痩せた男だった。サ・ガンとカイトが彼に挨拶するとルドルフがこう言った。


「ミヒャエル、こちらのお二方に8.8cm高射砲をお見せしてその特徴を説明しろ」

「はい」


ミヒャエルはそう大きな声で返事をすると勢いよく艦長に向かって敬礼をした。その態度は非常にきびきびとしたものであった。その後サ・ガンとカイトはミヒャエルに連れられてルドルフの病室を出た。8.8cm高射砲を上手く使えば敵戦車に一矢報いることが出来るかもしれないのだ。カイトの心は色めき立っていた。

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