強襲
「ドオーン!! 」
「うわぁ! 」
突然の爆発音でカイトは目を覚ました。すると細かい土がパラパラとカイトの上空から降ってくる。そしてその後にまた大きな爆発音が聞こえカイトの身体を激しい衝撃が襲った。カイトは思わず叫んだ。
「何だ!? 」
「敵の砲撃だべ! 伏せて! 」
ギューダがそう叫ぶがカイトにはよく聞こえない。というのもその後爆発音と衝撃が絶え間なく続いたからだ。カイトは恐怖でその場に伏せていることしか出来なかった。
「敵襲だ! 」
爆音の合間に誰かがそう叫ぶのが聞こえた。だがそれを聞いたところでカイトは何もすることが出来ない。目を瞑り身体を地面に押し付けるようにして横たわっているだけだ。だが敵の砲撃は続いている。カイトは塹壕の中で伏せているとはいえもし砲弾が頭の上に飛んでくればあっという間に消し飛んでしまうであろう。今までに経験したことのない恐怖にカイトは伏せながらガタガタと震えた。
「早く終わってくれ! 頼む! 」
カイトは震えながらそう祈った。だが敵の砲撃はなかなか終わらない。いつ砲弾が飛んでくるか分からない恐怖でカイトは頭がおかしくなりそうだった。カイトが「耐えられない! 」と叫んだその時、ギューダがカイトにこう言った。
「カイト少尉、立つだべ! 」
「えっ!? 」
頭を上げると敵の砲撃が止んでいた。煙と硝煙の匂いが充満している中、周囲はほんのりと明るくなっている。どうやら朝を迎えつつあるらしい。カイトはうつ伏せの態勢から両手を地面について立ち上がろうとしたが太腿から下はまだ震えていた。
「装填の補助だべ! 早くだべ! 」
カイトは塹壕の中でどうにか立ち上がると九十二式重機関銃が据えられた位置にヨロヨロと歩み寄った。そして足元に置いてある木箱を開けるとその中にある保弾板と呼ばれる細長い板状のものを取り出した。保弾板には九十二式重機関銃の弾丸が三十発備えられている。カイトは震える手でその保弾板を九十二式重機関銃にセットした。その隣ではギューダが「早くだべ! 早くだべ! 」と叫びながら銃口の先を見据えている。カイトは喉から声を絞り出した。
「そ、装填完了」
「了解だべ!」
ふとカイトがギューダの視線の先に目を遣るとそこには走り寄ってくる大勢の敵兵士が見えた。物凄い形相だ。そして距離はもう100mもない。カイトの身体に再び恐怖が蘇る。するとその時だった。
「撃ち方始め! 」
オーキの叫び声がそう微かに聞こえた次の瞬間九十二式重機関銃が激しい射撃音を伴って火を噴いた。カイトは突然の発砲に身体をビクッと震わせたがギューダはそんなカイトにお構いなく射撃を続ける。前方を見ると敵兵士の群れにギューダが浴びせかけた重機関銃の弾丸が振りかかり敵兵士の「ギャー! 」という悲鳴が聞こえた。だが何人の敵兵士が倒れたのか正確には分からない。ギューダはその後も断続的に射撃を続けた後カイトにこう言った。
「次の保弾板をお願いするだべ!」
「あ、あぁ」
保弾板には弾丸が三十発しか装填されておらず撃ち尽くすのはあっという間だった。カイトが次の保弾板を装填するとギューダが撃ちまくり弾丸が尽きるとまたカイトが装填をした。しばしば敵の銃弾がカイトやギューダの身体をかすめたが二人とも全く意に介さない。ギューダは射撃に、カイトは装填に必死だったからだ。
「陣地には近寄らせないだべ!」
ギューダは撃ちまくっている。そしてギューダの周囲でもガリガリに痩せたヤポン軍兵士達が力を振り絞り塹壕から小銃の銃口を敵兵に向けて射撃をしていた。ヤポン軍の反撃は予想外であったのかいつの間にか敵兵の大半は突撃をやめて遮蔽物に身を隠し我々の陣地に射撃による反撃をしてきている。するとギューダやカイトが潜む塹壕の周辺に敵兵士の小銃弾が頻繁に唸りを上げて飛んできて細かな土埃をプシュプシュと巻き上げた。だが勿論二人は射撃を止めない。
「ギューダ!撃て!撃ちまくれ!」
「分かってるだべ! 」
雨がパラパラと降り始める中九十二式重機関銃の銃身は湯気を立てている。連続した射撃により銃身は相当熱くなっているのであろう。
「山砲!塹壕前の遮蔽物を片っ端から撃て!」
オーキがそう叫ぶのが聞こえてきた。気が付くとオーキはカイトから5mも離れていないところで有線の電話機を片手に指揮を取っている。すると友軍の山砲が塹壕陣地の奥から射撃を開始した。激しい爆発音の合間に敵兵士のものらしき悲鳴がまた聞こえてくる。中にはパニックになって明後日の方向へ逃げ出す敵兵士まで見えた。
「逃さないだべ!」
ギューダは逃げる敵兵士の背後にも容赦無く重機関銃弾を浴びせる。すると今度は再び後方からの敵の砲撃が始まった。敵兵士の突撃攻撃が失敗し我々の塹壕陣地への突入が出来なかった為再度我々の塹壕陣地を砲撃しその後突撃をするつもりなのだろう。その後カイト達の付近に着弾が集中してきた。九十二式重機関銃の破壊を目論んでいるのであろう。
「カイト少尉! 位置を変えるだべ! 」
「了解! 」
ギューダとカイトは九十二式重機関銃を三脚ごと二人で抱えると塹壕の中を中腰で歩き始めた。敵の砲撃中の移動は恐ろしいことこの上ない。だが二人が塹壕内でオーキとすれ違い20m程左横に移動した時に砲撃は止んだ。敵兵の突撃前に行われた砲撃と比べると非常にその時間は短い。するとオーキがこう叫んだ。
「敵兵がまた来るぞ! 」
敵の短時間の砲撃はやはり再突撃の援護であった。ギューダとカイトは慌てて抱えた九十二式重機関銃を塹壕の脇に積まれた土嚢と土嚢の間に設置する。だがその時カイトの目に「ウォー!」と唸り声を上げながら走ってくる敵兵が迫って来るのが見えた。カイトは恐怖のあまり短く悲鳴を上げた。
「反撃しろ! 」
オーキがカイト達の横でそう叫びながら手にした小銃で発砲している。だがその時敵兵の一人が走り幅跳びのように九十二式重機関銃と土嚢を飛び越えてきた。カイトは思わず「うわっ!」と叫んだ。その敵兵は塹壕の中、ギューダの真横に着地した。銃剣が装備された長いライフル銃を両手に抱えた色の黒い長身の男だ。ギューダ越しに始めて間近で見た敵兵にカイトは思わず腰を抜かしその場へ座り込んでしまった。座り込んだカイトと敵兵の間に立つギューダは九十二式重機関銃を運搬していた為接近戦に使える武器は無い。だがそれにも拘わらずギューダは勇敢にもその敵兵に殴り掛かろうとした。すると敵兵はギューダにライフル銃の突きを見舞った。
「ぐえっ……! 」
「ギューダ! 」
カイトの叫び声に続いて「ダン! 」と銃声が響いた。カイトの目の前で鮮血が飛び散った。




