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呪文の解読

 アキニレは最後に「報連相は忘れずにね」と忠告すると、私とアセロラそれぞれに魔法陣のコピーを転送してくれた。私たちは彼から受け取った魔法陣を自分の魔導書に登録した。やるべき事は分かった。さて、ここからどうしたものか。タスクは以下の二つ。


1.火球を三つから一つに減らす

2.火球の体積を倍にする


「どうしよっか?」とアセロラ。


「ええっと…」と私。


 私は学校で「芸術家になる」勉強をしていた。呪文に関しては一般教養のレベルしかない(魔法業界は常に人手不足なので、私のようなド素人でも新卒なら採用されやすい。運動神経がよかったのも一因かもしれないが)。私は足りない頭をフル回転させた。ダンジョンでアキニレが魔法陣を改造した時の様子を思い出す。

 彼は魔法陣を起動して〝編集モード〟に切り替えていた。そしたら魔法陣に記された呪文を追記、削除できるようになる筈だ。呪文の内容を書き換える事で魔法の効果や設定を変更できる。私達はまずそこから魔法陣をいじってみることにした。


「リン、編集モードに移行するためのパスワードを貰ってきたよ」


「ありがとう」


 アキニレから貰った魔法陣は既に自分の魔導書に登録済み。私は魔導書の表紙を撫でると「ヴレア・ボール」と心の中で唱えた。


【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】


 起動すると、宙に真っ赤な魔法陣が浮かび上がった。これを編集モードに移行し、パスワードを入力する。すると――


「おお!」


 魔法陣の前に半透明なウィンドウが現れた。そしてドバっと大量の呪文が表示される。モードの切り替えは成功だ。これが全部【火球を放つ魔法】を使う為に必要な呪文…。思ったよりも多いな。魔法陣の表面に記されていたのは氷山の一角だったようだ。私は思わず途方に暮れる。


「これのどこを編集すればいいんだ…」


「思ったより複雑…かも」


 アセロラも同じように苦笑、私たちは二人で顔を見合わせる。やはり可愛い。推しのアイドルより可愛いかもしれない…とか言ってる場合ではない。


「とにかく呪文を理解しなきゃ」


 呪文は日常で用いる言語とは異なり、古代の文法・単語で構成されている。また地域や魔法の種類によって、独自ルールが使われていることもある。だから他人の呪文を解読するのは、なかなか骨の折れる作業なのだ。始めて見る外国語だと思ってくれていい。私達は会社の本棚から呪文の用語辞典を引っ張り出してきた。学校にあるような分厚いやつだ。本棚の場所はアキニレから聞いた。本棚の鍵をくれる彼は、昨日と同様ヘラヘラしている。


「ワークツリーで作成する魔法陣は呪文の規格を揃えてある。だから一度慣れちゃえば大丈夫だよ」


 いやいや、私達はかなり苦戦していた。


 ――どうやら「一度慣れる」までの道のりが長そうだ!

 

 まず知らない単語を辞書で調べる。すると辞書の中にも知らない単語が出現、知らない単語が増える。最初に知りたかった単語の意味が理解できないまま、調査範囲だけが増えていく。調べても理解できない単語すらあるし…。

 気が付くと既に二時間が経っていた。どうしよう、嫌な汗が出る。一日使って半分も進んでいない。これ、終わるのだろうか。私は人差し指でアセロラの腕をつついた。


「終わりそう…?」


「なかなか難しいかも…」


 アセロラもやや顔色が悪い。でも、とにかくやるしかない。作業に集中するしか選択肢はないのだ。学生時代もギリギリで間に合わせたレポートとかあったし…。アキニレの「報連相は忘れずにね」という言葉は、すっかり頭から抜け落ちていた。


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