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同期のアセロラ

リンの日記_四月二日(水)


 出社二日目。

 まだ会社に入る権限(宝石型の社員証)がない。だからアキニレが入り口まで迎えに来てくれる。彼とは昨日、散々話したはずだが…私はまだまだ緊張モード。なんならアキニレとの距離感もリセットされている。こういうところだぞ、私…。


「お、おはようございますっ」


「あはは、昨日も会ったんだ。緊張しなくてもいいだろ~」


 今日も初日と同じ会議室に通された。会議室には木製長机が設置されている。そしてその机の端っこ、見覚えのある女の子がいた。初日に声を掛けようか迷った子だ。

 外にハネた栗色の髪と、ルビーのように赤く輝く瞳。可愛らしい容姿からは活発な印象を受ける。しかしフォーマル寄りのジャケットとパンツをスマートに着こなすギャップがまたいい。少女のような可愛らしさと、大人を意識したカッコよさの融合。新社会人として満点すぎる。私が社長だったらこんな可愛い子、即採用である。いかん、オッサンみたいな思考だ。彼女は私と目が合うとパッと明るい表情になった。


「おはよう! 確かリンちゃんだったよね?」


「え、あ、えっと、はい…そうです!」


 いきなり話しかけられると思ってなかった。私はしどろもどろになりながら返事をする。可愛い、瞳が大きくて丸い。


「私はアセロラ・ウェルミア。ねえ、リンって呼んでもいい?」


「も、勿論です」


「あはは、敬語じゃなくていいよ」


「はは、そう、だよね」


 私のコミュニケーションがザコ過ぎる。だって私は陰の者、服装だって数十年前の流行から抜け出せていない芋女である。アセロラは間違いなく陽の者だ。初対面での距離の詰め方も、衣服のスマートな着こなしも素晴らしい。陽の者を前にすると、影の者は無性にへりくだりたくなる。だから敬語になってしまう。いや、敬語だけじゃ甘い。いっそ自分の発言の語尾すべてに「やんす」を付けたいくらいでやんす。そうしないと吊り合わない。アセロラのキラキラと私のモッサリ感が吊り合わないでやんす。そんな事を考えていたら遅れてアキニレがやってきた。私もアセロラの隣に座らせてもらう。


 ――うわ、いい匂い。


「えーと、これから君らの研修は俺、アキニレが担当します」


「よろしくお願いいたします」


 アセロラが頭を下げるので、私も慌てて「よ、よろしくお願いいたしますっ!」と続いた。


「はい、今ワークツリーの開発部門には君らを入れて十人の社員がいます。今年度からはその十人を三チームに分けて業務を行います」


 私たちが頷くとアキニレは続けて説明を行う。


「俺らはアキニレ班、メンバーは俺とリン、アセロラ、それともう一人。この四人で回していく予定ですねー」


「もう一人いらっしゃるのですか?」


 アセロラが右手を小さく上げた。


「ああ、今は別案件で動いているから、終わり次第こっちに合流する予定かなー。入社三年目の優秀な男の子だよ」


 知らない奴がいるのは不安だ。が、一先ずアセロラ、アキニレと一緒に仕事を出来そうなのはよかった。二人とも穏やかな性格にみえる。


「さて、ここからは具体的な業務内容について説明していきます。ご存知の通り、うちの会社では主に魔法道具の製造、保守を行っています」


「「はい」」


 私とアセロラがそれぞれ相槌を打つ。今度は遅れない!


「なんと昨日、君達にちょうどいい依頼が入りました。だから研修も兼ねて魔法陣に触れてもらおうと思いまーす!」


 アキニレはのんびりした表情で「フフフ」とほほ笑む。彼が自身の魔導書に手をかざすと一枚の魔法陣が宙に浮かび上がった。私はその赤い魔法陣に見覚えがある。フリュウポーチの使っていた【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】だ。


「今回は二人で協力して魔法陣の改造を行ってもらう」


「改造ですか…?」とアセロラ。


「そうでーす」


 アキニレが魔法を発動すると、彼の手元に三つの火球が生成された。私とアセロラはビックリして椅子のまま後ずさりする。彼は三つの火球をお手玉みたいにクルクル回して遊んでいた。楽しそうにヘラヘラと笑うアキニレ…。そもそも室内で戦闘用の火属性魔法を発動することが非常識である。よって我々は割と引いている。この人、結構抜けてるよな……?


「この魔法は入門用の攻撃魔法。発動すると火球が三つ生成されて、ターゲットに飛ばす事ができる」


 私はダンジョンでの光景を思い出した。フリュウポーチは手元に三つの火球を生成し、魔物に向けて放っていた。そして攻撃はリザードマンの連携をガタガタに壊したのだ。ゴーレムには殆ど効いていなかったけれど…。


「重要なのはここから! 今回君らにお願いしたいのは二つです」


 そう言うとアキニレは火球を解除して、右手でピースサインを作った。


「一つ目、生成される火球の数を、三つから一つにしてください」


「三つから一つに…」


 アセロラが復唱した。


「二つ目、火球の体積を二倍にしてください」


「火球を倍に…ですか」


 アセロラに合わせて私も復唱してみた。


「設計書は俺が作成中だから完成次第お渡しします。詳細はそれを見て」


 何をすればいいのかイメージしきれていないけど…一先ず設計書を待つべきだろうか。そんな私達二人に向けて、彼は最後の補足を行った。


「お客様はガーゴファミリー、リンが一緒にダンジョンに行った冒険者ギルドだね。ここはウチのお得意さんだから覚えておくといいよ~。そして明後日にお客さんとテストするから、期限は明日の正午まで!」


「「はいっ!」」


「まずは二人で手を動かしてほしい。分からなかったら何でも聞くように!」


 アキニレは最後に「報連相は忘れずにね」と忠告すると、私とアセロラそれぞれに魔法陣のコピーを転送してくれた。私たちは彼から受け取った魔法陣を自分の魔導書に登録した。やるべき事は分かった。さて、ここからどうしたものか。タスクは以下の二つ。


1.火球を三つから一つに減らす

2.火球の体積を倍にする






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