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セキュア・ゴーレム

 彼女は巨大な魔物に向けて【火球を放つ魔法】を放つ。しかしゴーレムはびくともしない。流石に体格差がありすぎる。その防御力に対して、彼女は小さくため息を吐いた。一方、副団長は私達の前立つと、本日初めて腰の双剣を抜いた。


「金属製のセキュア・ゴーレムですか。ボディの強度が厄介ですね」


 対するは五メートルの金属製ゴーレム。魔物はそのバカでかい拳大きく振り上げた。巨大な腕が勢いよく地面に叩きつけられ、瓦礫が飛ぶ。潰されたらペシャンコである…。

 ゴーレムはガーゴファミリーを狙うと、次々に地面を破壊し回る。副団長もフリュウポーチもそれを巧みに回避する。敵がのろまな事もあり、命中する気配はない。が、一瞬の気の緩みが致命傷になる。


 ――大丈夫、だよね?


 魔物は「自身の攻撃が命中しない」と理解したのかもしれない。奴は壊れた壁の一部を拾い上げる。そして瓦礫の重さを確認すると、副団長を目掛けてぶん投げた。彼はこれも紙一重で回避。しかし地面に激突した瓦礫は四方八方に砕け散った。こっちにもその破片がすっ飛んでくる。


 ――まじか、無茶苦茶しよる!!


「リン、結界魔法だ」


 アキニレの指示で私も球状結界を張った。結界は魔法の基礎、どんな魔法使いでも何かしらの結界を会得している。私も〝球状結界〟であれば、魔法陣なしで詠唱できた。瓦礫の破片ならこれで大丈夫。だがあのゴーレムに直接殴られたら…それはちょっと想像したくない。

 私はリザードマン戦と比べると、いくらか落ち着いていた。無論ゴーレムの方が強敵ではある。でもリザードマンと比べてゴーレムの方が非動物的というか…無機質なのだ。敵対するならそういう方がいい。もしかすると「生魚を触れない現代の若者」と似た感覚なのかもしれぬ。そんなことを考えていた時だ――

 ゴーレムが次の瓦礫を持ち上げた。


「で、デカい!?」


 フリュウポーチと副団長はとっさにバーナの大盾後方に避難。放られた瓦礫は一直線に飛び、盾に激突した。砕け散る瓦礫と舞い上がる土煙。そして煙幕の上からゴーレムの強烈な右ストレートが襲い掛かる。バーナはこれも辛うじて受け止めた。流石は冒険者、無茶苦茶な筋肉だ。


「今だっ!!!」


 バーナが叫んだ。副団長はいつの間にかゴーレムの背後で双剣を構えていた。無防備な踵に的確な二連撃。ゴーレムは前のめりで「グラリ」と姿勢を崩した。


「ポーチ、後は頼みました…」


「ああ、任せ…ろ」


 フリュウポーチはゴーレムの前に立つと、そのまま大剣を振り上げる。金属と金属がぶつかる鋭い音。ゴーレムの首は胴体から離れ、彼女の後方へと飛んで行った。無駄のない洗練された動き、彼女は敵が仰向けに倒れる勢いを利用したのだろう。首を飛ばされたゴーレムは地面に横たわり、動かなくなった。ガーゴファミリーの勝利だ。


「さ、三人とも強い…」


 あれだけ大きな魔物を少人数で倒してしまった。しかも殆ど無傷で。私が舌を巻く一方で、ガーゴファミリーの面々はさっさとゴーレムのドロップアイテムを回収していた。

 ダンジョンで魔物を倒した際、魔物は光の粒になって消滅する。しかし一部消えずに残る場合があった。こういった魔物のアイテム(皮膚や角)は強力な武器の素材になったり、高値で売れたりするそうだ。

 周囲にはゴーレムのネジやボディが散乱していた。中堅冒険者、バーナはそれをくまなく回収。そして麻のリュックに詰め込んでいる。ちなみにフリュウポーチは副団長の指示で少し先に偵察しに行った。三人とも本当に手際がいい。しかもフリュウポーチに至っては新人である。


 ――わ、私も見習わなくちゃ。


 バーナがアイテム回収を終えた頃、フリュウポーチが戻って来た。


「この先にもゴーレム…少なくとも、四体」


 それを聞いて副団長が眉をひそめた。


「数年前と比べてゴーレムが随分増えていますね。今回は一度撤退した方がいいかもしれません」


 え、まだまだ余裕そうなのに。終わってみればゴーレムだって圧勝だった。フリュウポーチも納得できないようだ。無言のままだが「ムッ」とした顔を副団長に向けている。


「リン君には伝えていませんでしたが、このダンジョンに入った目的はボス個体の討伐ではありません」


「え、違うんですか?」


「はい、それは過去に達成しています。今回、我々が来たのはこのダンジョンに〝隠しエリア〟があるという情報を掴んだためです」


「隠しエリア…ですか?」


「はい、どのような場所で何が眠っているのかまでは定かではありません。しかし確かな筋の情報です。隠しエリアを探索する為、何度も同じ場所を行き来する必要があります。ゴーレムの数も増えているようですし、それらの対策をする必要がありますね」


 な、なるほど…。副団長は私にも理解できるよう、丁寧に状況を説明してくれた。そういえばお婆ちゃんも「冒険者は絶対に準備を手抜いてはダメだ」と言っていた。魔物と違い、人間は倒れればそれまでである。ここはそういった場所なのだ。

 結局、私達は引き返すことになった。長い時間をかけて来た道を逆走していく。入り口が見えた時、私はほっと胸を撫でおろした。なおアキニレと副団長は既に、次回の予定について話し合っている。私は内容の半分も理解できない。かといって聞き逃すのも「まずいか」と思い、相槌は打った。「フリュウポーチの魔法陣を、対ゴーレム用に改造してほしい」とかそんな感じだったかもしれん。

 今はそれよりも無事生還できた安堵が強い。何だかんだで、随分張りつめていた。出入り口の階段を上がると、空は夕焼け色に染まっている。本当に長い一日だった。そういえば今朝、司祭服が立っていたのもここだ。結局ダンジョンの中でもあの人と出会う事はなかった。


 ――やはりあれは私の見間違いだったのだろうか。


 今日は会社に寄る事なく、そのまま直帰となった。入社の翌日からなかなかハードな経験だったとは思う。これから私はここで頑張っていけるのだろうか…。正直、今は不安の方が強い。





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