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魔法陣の改造

リンの日記_四月三日(木)


 昨日に引き続き呪文の解読に試行錯誤している。アセロラと手分けをしているが、なかなか終わりそうにない。などと思っていたが――


「読めた…」


 アセロラが呟いた〝それ〟を私は聞き逃さなかった。思わず高い声をあげる。


「え、理解できたの?」


「うん、重要そうな部分だけね」


「じゅ、重要そうな部分?」


「頭から順に解読してたら終わらないかなって。だからアタリをつけてゴリ押しで進めちゃった」


 ――え、この娘…要領いいかも。


「ごめん、私まだ全然終わってない」


「大丈夫、手伝うよ」


 二時間後、アセロラの手を借りつつ、なんとか呪文の構造が把握できた。だが本番はここからだ。私たちは呪文を書き換えて、魔法陣を改造する必要がある。今回改造する魔法陣は【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】という攻撃魔法だ。

 この魔法は術者の手元に三つの火球を生成する。そして術者の指示した方向に火球を飛ばす魔法だ。消費す魔力も少ないし、火球の操作もそれほど難しくない。だから火属性の初心者用魔法として有名だ。なお今回の依頼事項は二つ。


1.火球を三つから一つに減らす

2.火球の体積を倍にする


 さて呪文のどの設定を変えていこうか。私が眉間にシワを寄せていると、アセロラが沢山ある呪文の中の一節を指さした。


「多分、ここの設定を変えれば火球の数を減らせるよね」


 ――そ、そうなの? そう言われればそんな気もする。


「そうだね…やってみよう」


 どうやら私とアセロラには、既にそれなりに実力差があるようだ。聞いたところ、彼女は学校でも呪文を専攻していた。魔法への興味関心も強い様で、あれこれ試行錯誤する彼女はどこか楽しそうに見える。

 私達はワークツリーの屋上へ階段を上がった。アキニレから「魔法陣のテストをするなら、屋上を使っていいよ」と聞いていたのだ。春風がとても心地いい。私はそれなりに長髪なのでバサバサと髪がなびく。


「うわ、髪が口に!」


 それを見ていたずらっぽく笑うアセロラ。私は少し恥ずかしくなって、抱えていた魔導書をバサバサとめくった。やはり春風など碌なものでない。


「ほら、テストするよっ!」


 魔法陣を起動すると宙に赤い魔法陣が浮かび上がった。あとは体内の魔力を消費し、魔法を詠唱するのみ。私はバシッと魔法発動を宣言して見せた。


「ヴレア・ボール!!」


 すると私の手元がみるみるうちに熱くなる。そして火球が三つではなく、一つだけ生成された! 火球はちゃんと私の手元で宙に浮いている。


「やった、成功!」


 アセロラが嬉しそうに声を上げた。てか結構熱いな、これ。だが改造成功は素直に嬉しい。私たちはすぐに次の改造へと着手する。今度は火球を大きくする必要がある。でも直観的に、これは比較的簡単にできる気がしていた。私とアセロラは二階の開発ルームまで螺旋階段を駆け下りる。


「これでどうだ!」とアセロラ。


 私も彼女もすでに目星はついており、こちらも呪文を書き換える。以前までの設定を削除して魔法陣に指で追記を行っていく。全ての箇所の書き換え完了を確認すると、私達は再度屋上まで駆け上がった。私も内心テンション高め。屋上につくと、再度魔法陣を起動する。


「ヴレア・ボール!!!」


 魔法陣が輝きを増し、炎が起こる。よし、このまま大きな火球が生成されれば成功だ。ところが――


「あ、あれれ…?」


 しかし炎は球体にならず、すぐに消えてしまった。アセロラも首をかしげてしまう。ダメ元で何回か魔法を発動してみた。しかし結果は変わらない。炎が球状にならないのだ。無駄に魔力を消費し、少し疲れただけだった。

 おかしいな、何故だろうか。二階に戻って魔法陣を再確認する。呪文の中に誤字脱字がないかを確認。設定を書き換える箇所も…ここで合っていると思う。それとも呪文の内容を、根本から誤解しているのだろうか。ダメだ、分からない…。

 その後も色々と魔法陣を弄ってはみた。しかし火球の大きさを変える事は出来ない。時間はあっという間に流れ、とうとう正午になってしまった。


「これは間に合いそうにない…」


 私とアセロラはとうとうギブアップした。申し訳ないが、これはアキニレに相談するしかない…。私達二人は重い足取りで先輩を探す。私にとって「エンジニアとしてのプロ意識」はまだ曖昧だと思う。


 ――だが、先輩を頼ることが申し訳ない。

 

 今はその感情が強い。アキニレや他の先輩方はもっと難しい作業を行っている。それは素人目にも分かるのだ。自分のせいで作業を中断させてしまうのが嫌だった。

 アキニレは開発ルームで別の事務作業を行っていた。机の上には財布が置かれている。これからお昼ご飯に行くところだったのだろうか。だとしたら更に申し訳ない。


「お忙しいところすみません。魔法陣が分からなくて…」


 アキニレはちょっと困ったように微笑んだ。


「やっと来たな新人二人。報連相がだいぶ遅いぞー」




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