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008_同期のアセロラ

リンの日記_四月二日(水)


 出社二日目。

 まだ会社に入る権限(宝石型の社員証)がない為、アキニレが入り口まで迎えに来てくれる。私はまだまだ緊張モードが解けていない。なんならアキニレとの距離感もリセットされている。こういうところだぞ、私…。


「お、おはようございますっ」


「あはは、昨日も会ったんだ。緊張しなくてもいいじゃないのー」


 今日も初日と同じ会議室に通された。

 会議室には木製の三人掛け長机が設置されている。

 その机の端っこに見覚えのある女の子がいた。初日に声を掛けようか迷った子だ。

 外にハネた栗色の髪とルビーのように赤く輝く瞳。可愛らしい容姿からは活発な印象を受ける。しかしそれでいてフォーマル寄りなジャケットとパンツ。それらをスマートに着こなすギャップがまたいい。少女のような可愛らしさと、大人を意識したカッコよさを併せ持っている。新社会人として満点すぎる。私が社長だったらこんな可愛い子、即採用である。


 いかん、オッサンみたいな思考である。


 彼女は私と目が合うとパッと明るい表情になった。


「あ、おはよう! 確かリンちゃんだったよね?」


「え、あ、えっと、はい…そうです!」


 いきなり話しかけられると思ってなかった。

 私はしどろもどろになりながら返事をした。


 可愛い、瞳が大きくて丸い。


「私はアセロラ・ウェルミア。ねえ、リンって呼んでもいい?」


「も、勿論です」


「あはは、同期だし敬語じゃなくていいよ」


「はは、そう、だよね」


 コミュニケーションにおいて私がザコ過ぎる。だって私は陰の者だから。服装だって数十年前の流行から抜け出せていない芋女である。アセロラは間違いなく陽の者だ。初対面での距離の詰め方でも、お洋服のスマートな着こなしでもそれは明らか。陽の者を前にすると、影の者は無性にへりくだりたくなる。だから敬語になってしまう。いや、敬語だけじゃ甘いくらいだ。いっそ自分の発言の語尾すべてに「やんす」を付けたいくらいでやんす。そうしないと吊り合わない。アセロラのキラキラと私のモッサリ感が吊り合わないでやんす。

 そんな事を考えていたら遅れてアキニレがやってきた。

 私もアセロラの隣に座らせてもらう。


 うわ、いい匂い。


「えーと、これから君らの研修は俺が担当します」


「よろしくお願いいたします」とアセロラ。


 私も慌てて「よ、よろしくお願いいたしますっ!」と続いた。


「はい、今ワークツリーの開発部門には君らを入れて十人の社員がいます。今年度からはその十人を三チームに分けて業務を行います」


 私たちが頷くとアキニレは続けて説明を行う。


「俺らはアキニレ班、メンバーは俺とリン、アセロラ、それともう一人。この四人で回していく予定ですねー」


「もう一人いらっしゃるのですか?」


 アセロラが右手を小さく上げた。


「ああ、今は別の案件で動いてるから、終わり次第こっちに合流する予定かなー。入社三年目の優秀な男の子だよ」


 知らない奴がいるのは不安だ。が、一先ずアセロラ、アキニレと一緒に仕事を出来そうなのはよかった。


「さて、ここからは具体的な業務内容について説明していきます。ご存知の通り、うちの会社では主に魔法道具の製造、保守を行っています」


「「はい」」


 私とアセロラがそれぞれ相槌を打つ。今度は遅れない!


「なんと昨日、君達にちょうどいい依頼が入りました。だから研修も兼ねて魔法陣に触れてもらおうと思いまーす!」


 アキニレはのんびりした表情で「フフフ」とほほ笑んだ。彼が自身の魔導書に手をかざすと一枚の魔法陣が宙に浮かび上がる。私はその赤い魔法陣に見覚えがあった。これはフリュウポーチの使っていた魔法――【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】だ。


「今回は二人で協力して魔法陣の改造を行ってもらう」


「改造ですか…?」


「そうでーす」


 アキニレが魔法を発動すると、彼の手元に三つの火球が生成された。私とアセロラはビックリして椅子のまま後ずさりする。彼は三つの火球をお手玉みたいにクルクル回して遊んでいた。楽しそうにヘラヘラと笑うアキニレ…。そもそも室内で戦闘用の火属性魔法を発動する事が非常識である。よって我々は割と引いている。


 この人、結構抜けてるよな……?


「この魔法は基本の攻撃魔法。発動すると火球が三つ生成されて、ターゲットに飛ばす事が出来ます」


 火球が三つ――

 私はダンジョンでの光景を思い出した。火球による攻撃はリザードマンの連携をガタガタに壊していた。ゴーレムには殆ど効いていなかったけれど…。


「重要なのはここから! 今回君らにお願いしたいのは二つです」


 そう言うとアキニレは火球を解除して、右手でピースサインを作った。


「この生成される火球を三つから一つにしてください」


「三つから一つに…」


 アセロラが復唱した。


「そして火球の体積を二倍にしてください」


「火球を倍に…ですか」


 アセロラに合わせて私も復唱してみた。


「設計書は俺が作成中だから完成次第お渡しします。詳細はそれを見て」


 何をすればいいのかイメージしきれていないけど…一先ず設計書を待つべきだろうか。


「お客様はガーゴファミリーです。リンが一緒にダンジョンに行った冒険者ギルドだね。ここはウチのお得意さんだから覚えておくといいよ」


「分かりました」とアセロラも返す。


「明後日お客さんとテストするから、期限は明日の正午まで」


「「はいっ!」」


「まずは二人で手を動かしてほしい。分からなかったら何でも聞くように!」


 アキニレは最後に「報連相は忘れずにね」と忠告すると、私とアセロラそれぞれに魔法陣のコピーを転送してくれた。私たちはアキニレから受け取った魔法陣を自分の魔導書に登録した。


やるべき事は分かった。


さて、ここからどうしたものか。タスクは以下の二つだ。


1.火球を三つから一つに減らす

2.火球の体積を倍にする



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