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075_伝説の冒険者

「応えよ、我が聖剣! 邪な者へ救いをもたらしたまえ!!」


 そのセリフを最後に何も見えず、聞こえなくなった。いったいどれくらいの時間が経ったのだろうか。 

 地面の感覚がある。どうやら私はうつ伏せに倒れているようだ。目がチカチカしていたが、時間が経つにつれて段々とマシになってきた。スワローとガスタが駆け寄って来るのが見える。カササギ兄弟も来ているな。

 私の隣にはラムスと…初めて見る大男が立っていた。ランチュウは大男の腕の中で気を失っている。彼は既に人間の姿に戻っていた。

 

 ――よかった、本当によかった。

 

 大男の身長は二メートル以上。四十代前後でロングコートの上から高価そうなマントをかけている。一見するとワイルドなアゴ髭は、キチンと整えてあり紳士的な印象も受けた。そして男の足元には一本の剣が落ちている。私はそれを見て思わず息を呑んだ。その複雑な文様と黄金の剣身は歴史の教科書で見た事がある。ただしその黄金の輝きは教科書の挿絵よりずっと神秘的だった。


 ――聖剣だ。


 世界で一本しかない伝説の剣。

 ガスタとスワローも男と剣を見て目を丸くしていた。(ガスタのこんな顔珍しい)最初に口を開いたのはスワローだ。


「貴方はもしかして、伝説の冒険者――アトラス・グランスターですか!?」


「いかにも、吾輩がアトラス・グランスターである」


「すげぇ!」


 伝説の冒険者――アトラス・グランスター。現在の聖剣所有者にして、冒険者ギルド――アトラスOSの名誉冒険者。大手ギルドのメンバー、千二百人を束ねる生きる伝説である。そんな彼がどうしてここにいるのだろうか。サミダレ討伐会は彼のような英雄が参加するイベントではない。


「危ないところを助けていただき、誠にありがとうございました」


 ガスタが彼に感謝を伝えるので、私とスワローも慌ててそれに続く。しかしアトラスは「ラハハハハハ」と独特な笑い声をあげると、ランチュウを乾いた地面の上に下ろした。


「吾輩は最後の美味しいところを持っていったに過ぎない。君達が生き残ったのは君達自身の実力によるものだ」


 そしてカササギ兄弟の二人はアトラスに対し、一際大きく頭を下げた。まあ自分たちが所属するギルドのトップオブトップがいるのだ。当然の反応かもしれない。カササギ弟は恐る恐る先ほどの戦闘について報告を行った。


「アトラス様、申し訳ございませんでした。我々は魔物討伐の力になれず…」


 カササギ兄弟は早々にランチュウに敗れリタイアしていた。確か意識を失う間際に「こ、こんなのマニュアルになかった…。想定外の…ケースだ」とかこぼしながら散っていった筈。そんな二人の肩にアトラスは自身の手を置いた。


「一回の敗北がなんだと言うのだ。吾輩は君ら兄弟の成長を期待している」


「アトラス様…」


「そしてそれは身体や技術に限った話ではない。〝心の在り方〟を見つめ直す機会とするのだ」


「かしこまりました!」


 カササギ弟がより深く頭を下げると、カササギ兄もそれに続いた。これが大手ギルドを代表する男の器の大きさか。それにギルド内の下っ端であろうカササギ兄弟についても、その欠点を正確に把握していた。世の中、凄い人はいるものだ。

 結局アトラスとカササギ兄弟がワークツリーまで私達を送ってくれた。ランチュウはその後一日眠っていたが、命に別状はないとのこと。目が覚めたら自警団へ行って事情聴取を受けることになっている。

 慌ただしかった討伐会も何とか終わりを迎えることが出来た。本当に長い一日だった。そういえばどうしてランチュウは魔物化したのだろう。そしてどうやって戻ったのだろうか。他にも色々と疑問は尽きない。しかし今日はとにかく身体を休めることにしよう。寮に戻りベッドに倒れ込むと一瞬で意識を刈り取られた。

 おやすみなさい。



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