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069_マルチタスク

 ポツポツと小粒の雨が降り始める。


「気をつけてください、討伐会が始まりますよ」


 彼がそう言った直後、私達の目の前に三体のスライムが現れた。

 

 いや五体…!?


 八体はいる!?!?


 副団長はあっという間にスライムを一掃した。ところが次々増えるスライム。低級の魚魔物であるジャコや蟹魔物のギャンサーなど、他の水属性魔物も唐突に出現した。


「なんでこんなに一気に増えたの!?」


 私の疑問に対して答えはすぐ見つかった。魔物は雨と一緒に上から落ちてきている。こんな現象見た事ない!


「ファフロツキーズをご存知ですか?」と副団長。


「分かりません。無名芸人のコンビ名とかですか?」


「いえ、空から雨の代わりに魚やカエル、穀物などが降り注ぐ怪奇現象です。原因は分かっておりませんがトランでは魔物が降り注ぐのです」


「それは…迷惑な話ですね」


「ちなみにこの現象が起きている間、倒した魔物は光の粒となって消えます。要するに…この周辺一帯がダンジョンのような扱いになる訳です」


「分かりました。なら遠慮しません!」


 私は魔物を焼き払いながら答えた。一体ずつはたいした事ないが、予想以上に数が多い。このマルチタスクにしがみつくので精一杯だ。会社でも複数のタスクを一度にさばくのは得意ではなかった。しかしガーゴファミリーのメンバーは次々と魔物を討伐していく。流石プロ、手際がいい。


「沢山の魔物を相手に戦うコツとかあるのでしょうか…?」


「マルチタスクのコツですか? そうですね…」


 こうして喋っている間にも副団長は次々とスライムやジャコを片付けていく。(というか質問するタイミングを間違えたかもしれない、すみません…)


「まずは重要度の高い敵を見極めることですね。強い個体や、自分にとって不利なポジションにいる敵を優先的に討ち取ります」


「優先順位…ですね」


 私は慌ててバッグからメモ帳を取り出す。スライムが体当たりを仕掛けてきたので、ひとます球状結界を張った。


「次に一体の敵に固執し過ぎず、視野を広く持つことでしょうか」


「な、なるほど」


 ウチのお婆ちゃんも同じようなことを言っていたかも。広い視野をもつことは簡単じゃない。最後に副団長はマルチタスクについて以下のように補足を行った。


「ただしマルチタスクはあまり積極的に行うものではありません。基本は少ない数を相手にして、必要に駆られた場合のみ同時に対処するのがよいかと」


 なんて言いつつも副団長は四体のスライムを同時に倒してしまった。これが圧倒的な経験のなせる業…。私は頷きながらタジンのアドバイスをメモした。今度は実践あるのみだ。

 私はタジンから少し距離を置くと火球の魔法陣を起動した。そして視野を広くとって周囲を見渡す。魔物の数は決して少なくはない。だがコイツら全てを相手にするのではなく、出来る限り優先順位の高い奴に狙いを定めるのだ。その時、ラムスが叫び声をあげた。


「おい、後ろ!」


 私が振り向くより先に「ベキベキ」と木材がへし折れるような轟音が響き渡る。どうやら通り沿いの屋台が潰された音みたいだ。


 あ、あの魔物は――!?


 私の目の前に現れたのは大きなラージ・スライムだった。奴の重さと俊敏性は記憶に新しい。しかもあの時は三人がかりで、長時間かけてやっと倒せたのだ。しかも今日は他の魔物までいる。私はダンジョン〝ジャイアント・マーフォク〟でのガスタのセリフを思い出していた。


「大きさは強さだ…デカいものが厄介なのは仕事と同じだな」


 一先ず火球の魔法陣を停止。あいつは【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】では歯が立たない。魔力の消費は激しいが【メガ・ヴレア・ボール_大火球を放つ魔法】を連発してゴリ押すしかない。そしてラージ・スライムを倒した後で余力があれば雑魚魔物も倒そう。魔力が切れたらガーゴファミリーの元までダッシュだ。

 そう思って大火球の魔法陣を起動したとき、後方から「ドスンッ」と大きな音がした。恐る恐る振り返るとそこには別のラージ・スライム。しかも二体。

全部で三体のラージ・スライム……。


「む、無理無理無理!!」


私は逃げた。これは戦略的撤退である。








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