071_引き抜き
「イッヒッヒッヒ、ガーゴファミリーは今日も一般人のお守りですか」
丘の上に見覚えのある二人組がいた。片方はガリガリのノッポ、もう片方は丸々と太っている。大手冒険者――アトラスOSのカササギ兄弟だ。
ガリガリの弟は三角形の目を意地悪く尖らせる。腰に差しているのは先日と同じレイピアだろう。太っちょの兄貴も前回同様に黒い鳥をモチーフにしたマスクを被っており、釣竿のような特殊な武器を装備していた。先々週、私たちがダンジョンでラスボスと戦っている際に乱入して報酬を奪い取ったやつらだ。私は警戒心を抱えたまま二人と距離を取った。
奴らはドロップアイテムを腰にくくりつけて「こんなに沢山の魔物を倒したんですよ」と言わんばかり。圧縮魔法を施した冒険用リュックなんかも持っているだろうに。カササギ弟はフリュウポーチに向けて口を開いた。(そういえばカササギ兄が喋っているのを見たことがない)
「ガーゴさんは本当に働き者ですねぇ? 仕事を選ぶと言う概念がないらしい」
「ああ、迷子の猫探しなんかも…するぞ」
フリュウポーチはカササギ弟の皮肉が分からないのか、彼の挑発をあっさりと肯定した。それを聞いた兄弟は「ね、猫探し!」と爆笑している。もしこの場に団長がいれば既にブチ切れているだろう。以前のダンジョンでも「なにが適材適所だ。新人に楽な仕事ばっかり任せるから、現場が偏った人材ばかりになるんだよ。若者には何でもやらして〝基礎と粘り強さ〟を強化すべきだ。適材適所なんてお上品な考え方はその後だろう」と言っていた。私だってコイツらの態度には憤りもする。一方のフリュウポーチはいつも通りの真顔のままだ。時々彼女が何を考えているのか分からない。二人はひとしきり笑うと再度フリュウポーチに視線を戻した。
「それでも我々、君のことはとても高く評価しているのですよ、フリュウポーチ」
「それは…どーも」
「ええ、君が今年度の〝期待の新人冒険者トップテン〟にノミネートされたことは記憶に新しい」
「そうか…」
そこでカササギ弟はフリュウポーチに向けて距離を詰めると、大げさに腕を広げて見せた。
「どうです、アトラスOSに移籍するつもりはありまんか?」
ひ、引き抜きだ!
しかもこんなに白昼堂々と!!
私は慌てて彼女の顔を確認する。
「面倒だ…断る」
フリュウポーチがあっさりと断ったので、私はホッと胸を下ろした。ところがカササギ弟もそう簡単には引き下がらない。
「ウチに来れば今より遥かに良い待遇を約束しますよ。装備は一流メーカーのものを支給しますし、仕事だって自由に選べるようになる」
「面倒…だ」
それでもフリュウポーチは表情ひとつ変えない。当たり前だ、お前らみたいな奴がいるところに彼女が行く訳ないだろう。私は心の中で二人に「やーい、やーい! 断られてやんのー!!」とヤジを飛ばしておいた。ところがカササギ弟はしつこく食い下がる。
「で、でも給料だって今の比じゃありませんよっ」
それを聞いた時、フリュウポーチの耳がピクリと反応した
え、フリュウポーチ?
「ちなみに…いくらだ」
「いや、聞くのかよ!」
私は思わず声に出して突っ込んでしまった。フリュウポーチが驚いたような視線を返してくるので、まごつく。ちょっと今までにない距離の詰め方をしてしまった。これだからコミュニケーションに難のある陰の者はいけない。いや、これも全部カササギ兄弟のせいだ。すると――
「ウチの新人をたぶらかさないで貰えますか?」
大通りを副団長――タジンと数名の部下が上がってくるのが見えた。カササギ弟が「げ、ガーゴのタジンか」と呟くのが聞こえる。
「ちっ、今日のところは撤退しますよ」
そう言うとカササギ兄弟はタジンとは逆の道を去っていった。その後もフリュウポーチは特に悪びれる様子もなく、ケロッとした顔で魔物退治を続けている。タジン達も特に言及している様子もないし、冒険者ってそういうものなのだろうか。
――十九時になった。
日が落ちてきたので今日の戦闘はここまでだ。今日はひたすらモンスターと戦っていた。カササギ兄弟が腰にくくりつけていた大量のドロップアイテムを思い出す。私の倒したモンスターの数は奴らに遠く及ばない…。腐ってもプロということか。でもアイツらに負けたままなのは悔しい。討伐会は明日もあるし、どうにかして一泡吹かせてやれないだろうか。
ちなみに小雨は降り続いており、モンスターは絶えず増え続ける。だから今日は寮ではなく、ワークツリーで一夜を過ごすこととなっていた。私はガーゴファミリーのメンバーに一日のお礼を伝えるとワークツリーへと戻る。クタクタに疲れたけれど、脳が興奮してそう簡単に眠れそうにもない。とにかく今日あった色々をアセロラと愚痴り合いたい。
ところが会社に入ると先輩達がざわついているのが見えた。
「あ、リン! お疲れ様」
アセロラが出迎えてくる。私は彼女からタオルを受け取ると、びしょ濡れになった髪を乾かした。
「なんか慌ただしいけど、なにかあったの?」
彼女は少し躊躇うような素振りを見せた後、小さな声で告げた。
「ランチュウが…行方不明なの」




