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041_棚卸し

リンの日記_四月二十一日(月)


 新入社員四人と先輩社員――ガスタはワークツリーの建物前に立っていた。ワークツリーには私を入れて四人の新入がいる。ただアセロラ以外の二人とは班が違う事もあり、まだ殆ど話したことがない。スワロー、ランチュウという男性社員だ。ガスタは軽く腕組みをすると、私達に向けて今日の説明を始める。


「よし、これから君らには資産の棚卸しをしてもらう」


「棚卸し……?」


「おい、分からないって顔をするならちゃんと質問しろ」


 早速ガスタからのチクチク指摘が飛んできた。私だけ名指しで指摘しなくてもいいのに。


「す、すみません」


「棚卸しとはワークツリーの資産が全て揃っている事、壊れてない事を確認する作業だ。基本的に半年に一度行う」


「どんな資産があるのでしょうか?」


 アセロラが右手を上げた


「ああ、いい質問だ」


 ガスタは頷くと私達に一枚の紙を差し出した。アセロラがそれを受け取ったので私も覗き込む。どうやら資産リストのようだ。

 表の中には様々な道具や素材がリストアップされている。まずスペアの魔導書が八冊。魔法をコントロールする際、補助に使う杖が十本。それから魔法道具の生成に使う素材が色々ある。ドラゴンの角とか薬草みたいなやつだ。あとビーカーや試験管みたいな道具も細かく記載されていた。

 リストと睨めっこしているとガスタは一人で歩き始めたので急いで彼に着いていく。


「これらの資産はすべてこの倉庫にある」


 ワークツリーの隣には木と漆喰でできた小屋がある。小屋自体はあまり大きくない。しかし二階まであるから、物はたくさん収納できそうだ。ガスタが自分の首から下げている宝石(社員証)を小屋の扉にかざす。すると入り口の結界がスーッと解除されていった。


「共連れは禁止だからな。社員証はそれぞれ扉にかざすように」とガスタ。


 そのまま倉庫に入りそうになった私は慌てて社員証を扉の装置にかざした。

 古い紙の匂いがする。やや埃っぽくて、扉から差す光で空気中のゴミが浮かび上がった。壁にアーチ窓が付いているがカーテンは閉められており、部屋の中は薄暗い。沢山のランプが天井から吊り下げてあり、中にはアンティークのお洒落なヤツもあった。ちょっと意外だ。ガスタが幾つかのランプを灯した。部屋が橙色の暖かな光に包まれる。

 倉庫は決して広くはない。が、様々な物で溢れかえっていた。左の壁は全て本棚になっており、ぎっしりと魔法に関する文献が収納されている。入りきらない分は机に平積みされていた。右と奥の壁は沢山の引き出しや棚が設置されている。棚には動物の剥製や試験管、壺などがギチギチに保管されており、乾燥させた薬草は束ねて吊るされている。ワークツリーの社内は割と清潔で現代的なので、倉庫の内装は少し意外だった。この倉庫は古き良き時代の魔法使いの部屋みたいだ。


「え、なにこれ…」


 私は壁から吊り下げてあるツノを指さした。端から端までで一メートルはありそうだ。こんなの始めて見たし、このツノの持ち主はどれほどの大きさなのだろうか…。


「ああ、それはドラゴンのツノだ。まあ小ぶりな方ではあるがね」


 ガスタはそう言うと小さく鼻を鳴らす。「全く、これだから田舎者は…」というニュアンスが存分に込められており、私は心の中で「あっかんべー」をしてやった。倉庫の中は他にも興味深いもので溢れかえっている。炎のように揺らめく花や、顔のついたキノコなど…

 ガスタがプリントの一番上を指差した。


「倉庫探検はそのくらいにして、そろそろ棚卸しを始めなさいよ。まずは魔導書探しだ」


「え、場所は教えていただけないんですか?」と私。


「僕が一から十まで教えたって何も覚えないだろ?」


「な、なるほど…」

 

 私達は本棚から本を順番に引っ張り出した。魔導書は発売元や年代によってデザインもページ数も大きく異なる。だから普通の本と見分ける方法がない。これはなかなか厄介である。私とアセロラは本棚の本を端から開いて回った。だがなかなか見つからない。私は本棚の一番上に手を伸ばした。


 微妙に届かない。あとちょっと――


「俺が取るよ」


 後ろから手が伸びて、私の取れなかった本を易々と掴んだ。男性の新入社員――スワローである。ちゃんと話したのは初めてかもしれない。



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