043_幸運のアイテム
フリュウポーチは少しご機嫌斜めになってしまった。今までクールな印象しかなかったからそれはそれで可愛いと思うけど。
「それで…昨日の話は?」
フリュウポーチの方から促された。ちょっと意外…というか、よっぽど話を逸らしたかったのだろう。私は少し周りを気にしてから、ヒソヒソ声で事の顛末を伝えた。フリュウポーチ達と挑んだダンジョンで不思議な神父服の男と出会った事。そいつに楽師と告げられ、謎のチビドラゴンを押し付けられた事
「その魔物は…今もここに居るな?」
「うん、私の横で飛んでる」
ポテトフライが届いた事でラムスはギルド見学から戻って来た。「ドラゴンがポテトなんか食べるの?」って思うけど、口にしたら「ドラゴンを差別するな」って怒るんだろう。
「ああ、魔物の匂いが…する」
彼女はそう言うと背中から大剣を下ろす。
え…。
まさか一刀両断にする気じゃ…私とラムスからサッと血の気が失せた。チビドラゴンは「ちょ、ちょっと? おい!?」とか慌てふためいている。ところが彼女は大剣ではなく…その影から何かを取り出した。
ズドン。
――壺である。
スイカくらいの大きさの壺だ。
「え…、これは、何?」
「これは悪霊退散の魔法がかけられた壺…だ。十五万レムだったが…十万レムで譲ろう」
そう言う彼女はとても誇らしげだ。
「んん?」
私は口を大きく空けた。壺はどこを探しても魔法陣が刻印されておらず…見るからに魔法道具ではない。この陳腐な壺が悪霊を退散すると本当に思っているのだろうか? 私はラムスの方に視線を向けた。チビドラゴンは「いや、詐欺だろ」って右手をブンブン振っている。
――詐欺である。
私のような田舎者でも知ってるようなテンプレのやつである。フリュウポーチはこれを十五万レムで買ったと言っていたな…。
「フリュウポーチ、まだスキットのこと怒ってる?」
念の為、聞いてみた。ここまでが全部彼女のブラックジョークである可能性に掛けたが…。
「怒ってなど…いない」
そっかぁ、怒ってないかぁ。
「他にも…あるぞ」
そう言って彼女は右手を差し出して来た。手には水色ビーズのブレスレットが付いている。
「そ、それは?」
「これは幸運を運ぶブレスレット…だ。なんでも北イントの溶けない氷で造られているそうで――
「詐欺だって!」
私はすぐにスキットを呼んだ。フリュウポーチは「余計な事をするな」と抵抗していたが寧ろ逆効果だったようだ。私達のいざこざに気がついた彼女がすっ飛んで来た。
――そして五分後。
「ウチのポーチが申し訳ないっ!!!」
スキットに一通り訳の説明をした。豊富な語彙力をフル活用してとにかく感謝される私。そして彼女はフリュウポーチに対して怒り心頭である。
「ポーチ! アンタまた騙されたって!?」
「騙されてはいない…効果に個人差があっただけだ」
フリュウポーチはぶうたれている。
「くだらない事言わないで!」
詐欺業者を庇うような発言をするのは、自分の失態を認めたくないからだろう。フリュウポーチは散々スキットに怒られて少ししょげていた。善意で私に話してくれただけに、少し可哀想かもしれない。いや、これが彼女の為なのだ。ダンジョンで華麗にモンスターを仕留める彼女にこんな欠点があったとは。
結果、フリュウポーチのブレスレットと壺はスキットに回収された。後日、ガーゴファミリーの皆で販売業者に〝ご挨拶〟に行くそうだ。まあ彼女を騙した奴らがどうなろうと知った事ではないが。
彼女はその後も頬を膨らませてはいたが、私が帰る時には小さく手を振ってくれた。今までフリュウポーチのことは〝凛とした容姿〟と“ダンジョンでの活躍〟からお姉さんっぽいと思っていたけど…実は〝妹キャラ〟なのかもしれない。
夕暮れの街、私とチビドラゴンの影が揺れている。
「結局アンタの話は流れたね」と私。
今日の本来の目的は楽師やラムスのことをフリュウポーチに伝えることだった。まあ一通りの内容を伝えることはできた筈ではあるが…。
「まあ緊急事態だったからな」とラムス。
「それもそうか…」
少しの沈黙の後、ラムスがもう一度口を開いた。
「そういえば、どうだったんだよ」
「へ?」
「初仕事…どうだったんだよ?」
――意外な質問。
「学校でも魔法や呪文は学んできたけど…根本から違う気がしてる。学生の時はミスしても『次は気をつけよ』って思うだけだったのに、仕事じゃそうはいかないし…」
「そりゃ、客がいるなら…ミスは許されないからな」
「簡単に言わないでよ。あーあ、本当に自信をなくす…」
職人への道のりは長い。アキニレやガスタのプログラムは、速いのに洗練されていた。また、レードルは鬼人という立場だが、実力一本で認められてきたのだろう。
「私はこんなんでいいんだろうか…」
「仕方ねえだろ」
身も蓋もない言葉に、チビドラゴンを睨む。するとラムスは大きな目をパチクリさせながら続けた。
「例えば…自動化技術をうまく使えば、一流職人みたいなゴーレムは次々作り出せる」
「そしたら私、廃業なんですけど…」
「いや、多分それだけじゃ足りない。お前がさっき言ってたような『誰かのため』とか『ミスはできない』みたいな意識が、人の生活を作る上で必要なんだよ」
「魔物のくせに突然いいこと言うな」
「へ、生意気なやつー」
気が抜けた瞬間、またくしゃみが出た。まだまだ花粉のシーズンは終わらない…。
「まあそんな訳で、我々は花粉に苦しみながら働くしかない訳だ」
ラムスは目をかこうとするも、やはり距離が届かない。
「俺ちゃん、手がニュルニュル伸びる魔法が欲しい」
「魔物じゃなくて、化け物になる気か」
そんなこんなで、私達の最初の案件は終わりを迎えた。




