004_ダンジョン突入
副団長までちょっと笑ってやがる。イジワルな大人二人に対して、私は白い目を向ける事しか出来なかった。
ガーゴファミリーの面々は次々と階段を降り始める。私もアキニレに続いて、彼らについていった。階段を降りると眩い光に包まれる。光はどんどん強くなり、最終的に目を開けていられなくなった。今、私は階段を下っているのだろうか。次第に平衡感覚もなくなる。立っていられそうにない。最後に体のあちこちが引っ張られるような感覚がした。
「もう目を開いて大丈夫だよ」
アキニレの声、気が付くと私達は巨大な洞窟の中にいた。副団長が探索開始を告げる。
「さあ、ここからがスタートです」
左右の壁は鉱山のように整地されており、数メートル越しに松明が設置されている。それなりに周囲を見渡す事が出来るようだ。あの松明の火は消えないのだろうか。まあどうでもいいけど。
「ッギィイイイイア!!!」
道中ではスライムやゴブリン、低級の魔物が次々と襲ってくる。しかしガーゴファミリーの面々はそれをサクサクと片付けてしまった。私でも勝てなくはないが、もっと時間がかかるだろう。なおこのダンジョンは中堅冒険者レベルと聞いていた。しかしバーナどころか、入団したてのフリュウポーチも十分な戦力となっている。私はその事実に小さな焦燥感を覚えた。
――同じ新人でもこんなに差があるのか。
私の自己肯定感がゴリゴリと擦り減っていく。一方、副団長は戦闘に参加せず、私たちと一緒に歩いてくれていた。ここまでの道中、私とアキニレに殆ど危険はない。
再びフリュウポーチがスライムを切り捨てた。ダンジョン内で倒したモンスターは光の粒になって消滅する。消えた奴らはダンジョンのどこかで再生するらしい。その様子を眺めていたら、アキニレから声をかけられた。
「リンは落ち着いているね」
「そうですか? 緊張感はもってるつもりです…」
「いや、初めてのダンジョンならもっと取り乱すのが普通かなって」
なるほど、まあ言われてみればそうか。
「私のお婆ちゃんが冒険者だったので、割と…慣れっこですね」
「そういうものかい?」
「はい、というか魔物より人間関係の方が怖いです…。そっちの方が取り乱すし緊張します」
私たちのやり取りを聞いていた副団長が、にっこり笑みを浮かべた。
「リン君は冒険者に向いていますね」
「いやいやそれは無理です! お婆ちゃんを見てると私には無理だぁって思いますよ」
「分かるな、身近にプロがいるとそういうのあるよね」とアキニレ。
人見知りの私だが、アキニレや副団長とは話しやすかった。穏やかな雰囲気だし、私のために話を振ってくださる。それが本当に有難い。私はただ聞かれた事に答えているだけである。ま、まあ新人だし、うん。
「キィィイイイイアッ!!」
今度は耳をつんざくような甲高い声がした。ゴブリンのものとは違う。もっと鋭い高音だ。副団長が右手で私たちを制した。
――リザードマンだ、それも四体。
身長は私たちとそう変わらない。ただし爬虫類特有の光沢のある皮膚が、松明の灯で橙色に照らされていた。トカゲのように細長い頭部も、尻から生えた太いしっぽも人間とは明らかに異なる。
しかも奴らはそれぞれが金属製の防具を装備していた。その防具は個体ごとにデザインが異なっている。もしや他の冒険者から奪ったものだろうか。右手には金属製の短剣を握り、武器を握る手には鋭い爪が生えている。それを見て私はゴクリと唾を呑んだ。
――ちょっと不気味、というか怖い。
今までリザードマンを見たことはなかった。というかゴブリン以外で人型の魔物を見るのが初めてだ。このサイズ感、流石に迫力がある…。
「キィィイアッ!!」
一番後ろにいたリザードマンが叫んだ。それに合わせて他のリザードマン達が一斉に切りかかる。魔物が統率の取れた動きをするのも始めて見た。リザードマン達は明らかに〝言語〟を持っており、人間のように振舞っている。その事実に鳥肌が立っていた。心臓の鼓動が大きくなり、魔導書を握る手にも力が入る。
「に、人間みたいだ」




