リザードマン
一番後ろにいたリザードマンが叫んだ。それに合わせて他のリザードマン達が一斉に切りかかる。魔物が統率の取れた動きをするのも始めて見た。リザードマン達は明らかに〝言語〟を持っており、人間のように振舞っている。その事実に鳥肌が立っていた。心臓の鼓動が大きくなり、魔導書を握る手にも力が入る。
「に、人間みたいだ」
「ポーチ、魔法で迎撃しなさい」
副団長が簡潔に指示を出す。フリュウポーチはベルトに下げてあった魔導書を取り出した。そして表紙の上に右手をかざす。すると魔導書の少し上、宙に一枚の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は魔力で構築されており、直径は四十センチ程、炎のように赤く輝いている。そして魔法陣の内部には、魔法発動に必要な呪文や図形がびっしりと記されていた。
魔法陣は最も基本的な魔法道具だ。本来魔法を使うには、ダラダラと長い呪文を詠唱し、体内の魔力を支払う必要がある。しかしこの方法では呪文を知らないと魔法が使えない。それに詠唱には時間がかかる。
――そこで魔法陣だ。
魔法陣には予め呪文が書き記されているため、呪文を詠唱する必要はない。魔法陣を起動し、体内の魔力を支払うだけでよいのだ(練習が必要なものも少なくないが)。これで魔法使いでない人間も、魔法を使うことが可能にもなる。時間短縮にもつながるため、多くの魔法使いも魔法陣を使っていた。
フリュウポーチは前方のリザードマンに狙いを定める。そして体内の魔力を消費し、魔法の発動を宣言した。
「ヴレア・ボール」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
彼女が魔力を消費すると、魔法陣が一際その輝きを増す。激しく燃焼する火球が三つ、フリュウポーチの手元に現れる。【火球を放つ魔法】は誰でも知っている火属性の初期魔法。火球を三つ生成し、術者の指示した方向に飛ばす事が出来る。
真っ赤な炎が彼女の横顔を力強く照らしていた。彼女は右手をリザードマンに向けて突き出す。それを合図に火球は魔物目掛けて飛んでいった。
「キィアッ!!」
「効いている!」
火球が直撃、のたうち回るリザードマンたち。敵の陣形が大きく陣形が崩れる。この時点で勝敗は決していた。ガーゴファミリーの面々は武器を構える。戦闘が終了まで、殆ど時間はかからなかった。
なんか疲れた。戦ったわけでもないのに私も全身の力が抜け、その場にへたれこんでしまう。いつの間にか随分汗もかいていた。やっぱり私は冒険者には向いていない。一方、アキニレは手元の紙に何かをメモしている。
「何を書いてるんですか?」
「あの魔法陣の動作確認だよ」
「動作確認?」
「あの魔法陣はウチで製造したものでね。ダンジョンでの魔法発動を見る機会は貴重だから」
アキニレのメモ帳を覗き込む。手書きで作られたチェック項目のリストがあり、彼はその一つにチェックをいれた。覚えることは沢山だ。そして戦闘を終えたフリュウポーチは魔法陣を停止する。魔法陣を形作っていた赤色の光はサラサラと霧散し、魔導書の中へと戻っていった。
「ここから中盤にさしかかります。魔物の危険度も増してきますのでお気を付けください」
ま、マジか…今のより更に危険度が増すのか。私の引きつった顔を見て、副団長が声をかけてくださる。
「大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫です…」
副団長の言葉に対して、私はへなへなと愛想笑いを返すしかなかった。これがダンジョン、これが仕事か。




