炎上飛竜ヴレア・ドラゴシス
赤竜三兄弟を全て倒してしまった。しかもタイマンで。残るはラスボスのみ。アトラス・グランスターが裏でどんな悪事を働いていようと、コイツさえ倒せば、ダンジョンから出られる。
「ガァア!!!」
祭壇の頂点、巨大なシルエットがついに身体を起こした。炎上飛竜ヴレア・ドラゴシス、奴の目が静かに輝きを放つ。
【ヴレア・ブレス_火息吹を放つ魔法】
緑竜のブレスがロウソクの灯に見えるような特大業火。ここまで二百メートル以上あるが、そんなのお構いなし。だが攻撃の矛先は私達ではなかった。灼熱の業火が幹部の赤竜兄弟らへと降り注ぐ。これが竜の親玉…弱肉強食の世界。
ラスボスは巨大な翼を持ち上げると、ゆっくりと祭壇の上に浮き上がった。それは今まで見たどんな魔物より恐ろしく、神々しい。
「これが…ヴレア・ドラゴシス」
そして放たれる二発目のブレス。真紅の炎がフィールドを包み、冒険者達の悲鳴が響き渡る。炎に巻かれた者は逃げるように戦線を離脱。だが次々と飛来するドラゴン軍団によって、逃亡すらも難しい。これが上級ダンジョンへの登竜門…これまでのダンジョンとは、格が違う。
「これはマズいね」とアキニレ。
「敵の炎、強すぎますよね…」
「それ以上に体力の差が大きい。ヴレア・ドラゴシスは毎年、三十人規模の攻撃を集中させて倒していたはず」
現状、ドラゴン軍団と戦っている冒険者は十数名、ヴレア・ドラゴシスに意識を向けている者も十数名…足してもギリギリ三十には届かない数。
「それに…直近三年で、炎上飛竜の儀でのヴレア・ドラゴシス討伐は失敗している」
――ええ!? それは全くの初耳!!
一気に雲行きが怪しくなってきた。怪しいどころか大荒れ、台風直撃である。しかし一人の冒険者がこのラスボス魔物の前に立ちはだかった。彼女は浮遊魔法を用いて、敵の高さまで上昇。ゴスロリドレスが風で激しくなびいている。
――ネイルだ。
彼女は魔法陣を起動、複数の水柱を連続で叩き込んだ。竜の胴体を三本の柱が穿つ。
「この程度じゃ、大したダメージになりませんわね…」
敵が大きすぎるせいで、頭の近くに魔法陣を設置することが出来ていない。故に胴体を狙い撃つしかない(仮に頭部を攻撃できても、どれくらい効くかは不明だが)。
「それならば水の体積を増やすまで。数こそ私の正義…ウォータン・ピラー!!」
【ウォータン・ピラー_水柱を生成する魔法】
ネイルは五倍の体積で水柱を生成。圧倒的なサイズの円柱が生み出される。が…ヴレア・ドラゴシス相手に隙を与え過ぎた。巨大な爪が未完成の水柱を引き裂く。彼女自身は咄嗟に攻撃を回避したが、制御を失った水塊に呑まれ、地面に叩きつけられた。既に魔力の消耗も激しい。
「ネイルちゃん!」
タングスが彼女の元へ駆け寄る。
「援軍を待ちましょう! このメンツで戦うのは無茶よ!!」
「いいえ、皆の奮闘で雑魚ドラゴン共の陣形は崩れつつある…無茶をするなら今ですわ」
ボロボロにも関わらず、ネイルの気迫は益々強くなる。その瞳に映っているのは、眼前の巨大ドラゴンだけでない。どうしてそこまでフリュウポーチを…一方で彼女の決意を聞いた男は、静かに拳を突き出した。
「分かったわ…なら攻撃はアーシが引き受ける。貴方は特大ダメージを敵の顔面にお見舞いなさい!」
「ええ、そのつもりですわ」
即席で作られたアトラスOSのタッグ。最強の競技者――タングスは祭壇の頂上まで駆け上がり、下半身に大きくタメを作る。
「行くわよ! ビルディ・ロア!!」
【ビルディ・ロア_下半身強化の魔法】
彼は勢いよく跳ね上がり、魔物の尻尾に飛びついた。肉体強化の魔法は、シンプルだが使いこなすのが難しい。術者が脆弱だと、魔法の効果に身体が耐えられない。逆に肉体が強靭であれば、魔法の力を大きく引き出すことができる。マッチョは組技の要領で、ドラゴンの尻尾をガッチリとホールド。機動力を削ぐには十分だ。
「ガァアア!」
ヴレア・ドラゴシスはタングスを振り落とそうとする。が、彼はびくともしない。他の冒険者達も魔法攻撃で援護を開始。しかしこのタチの悪いやり方が、ボスモンスターの怒りを買った。魔物は自身の身体を神殿に叩きつける!
「タングス!」
彼は崩れた祭壇と共に落下…白目を剥いて気を失った。だがタングスの意地は無駄じゃない。浮遊魔法を用いたネイルは、完全にドラゴンの上を取った。空中戦において、明らかに優位な位置。そして巨大水柱の準備も万端である。上空から叩きつける攻撃――それは巨人が放つ鉄槌のようだ。
――これは…いける!
ネイルの攻撃は確かにヴレア・ドラゴシスを叩き潰した。




