起源の槍を生成する魔法
――これは…いける!
ネイルの攻撃は確かにヴレア・ドラゴシスを叩き潰した。
ボスモンスターだって生き物だ。あの重さを受けて、無事で済む訳がない。ところが魔物はゆっくりと起き上がる。
「効いて…いない?」
違う、そもそも攻撃が届いていない。ヴレア・ドラゴシスは全身から猛烈な熱を放ち、水柱を端から蒸発させている。そしてドラゴンが咆哮を上げた時、その熱は二十の火の槍へと姿を変えた。それは白金で、滑らかな光沢が揺らめいている。
「ガァ!」
【デッドライン・ラース_起源の槍を生成する魔法】
冒険者達は次々と盾や結界を展開、攻撃に備える。私も咄嗟に球状結界を張った。ところが数名の冒険者が声を張り上げる。
「ダメだ、結界を張るなあ!!!」
――え、なに!?
だが言葉を理解する前に、次々と槍が降り注いだ。ブレス攻撃と比べれば、魔力密度はそう大きくない。ところがその一撃は、私の結界をいとも簡単に破壊した。
「な!?」
「リン! ウィンディンチャイム!!」
【ウィンディンチャイム_風鈴になる魔法】
私とアキニレの身体が蜃気楼のように歪み、敵の攻撃を回避。彼のフォローがなければ…やられていた。いや、落ち着け、パニックになっている場合じゃない。私は速くなる呼吸を必死に抑え込む。
今の攻撃、不気味なほど手ごたえがなかった。まるで私の結界がシャボン玉になったみたいだ。結界ごと攻撃を浴び、倒れている冒険者は少なくない。上空のネイルでさえ、結界を維持できていなかった。そしてアキニレも片膝をつく。魔力の消費が大き過ぎるのだ。
「まさかもう使うとはね…あれは結界破壊の魔法。このダンジョンが新人の登竜門とされている理由さ」
「どういうことですか?」
「リン…君が人生で最初に覚えた魔法はなんだい?」
「それは、もちろん結界魔法です」
「そう、戦闘する魔法使いが最初に覚えるのは、ほぼ結界魔法…生存率に直結するからね。それに魔法使い以外でも、結界魔法を練習する者は多い。結界魔法の取得は、戦闘を学ぶ上での王道と言える」
「王道…」
「しかしその王道が通用しないのが、ヴレア・ドラゴシスさ。僕ら企業人は業務を通して、〝学校で学んだことが、社会で通用するとは限らない〟と学ぶ。そして冒険者達がその理不尽を知る場所こそ――」
「ダンジョン〝ヴレア・ドラゴシス〟」
「…そういうことさ」
魔物が爪を振り上げると、ネイルは即座に距離を取る。結界が壊される以上、敵の攻撃からは逃げるしかない。しかし、ドラゴンの体力は底なしだ。時間が経つほど不利なのは冒険者達…。
「ガァアア!!!」
魔物が吠えると、再び〝起源の槍〟が生成された。白金のそれが太陽のような輝きを放つ。既にこれがトラウマとなっている者は少なくなかった。
「嫌だ、もう勘弁してくれ!」
「俺が悪かった、もうここには来ないと誓う!」
助けを求める声は一つ二つではない。中にはドラゴンに命乞いをしている者までいた。ネイルはヴレア・ドラゴシスと対峙したまま、その巨大な魔物を睨みつけている。しかし彼女にも打つ手は残されていない。振り下ろされる〝それ〟を待つだけの時間…それは断頭台の前に立っているに等しい。誰もが絶望の渦中にいる。
――だが次の瞬間、そんなネイルの目が大きく開かれた。
魔物の背後から現れた鉛色の大剣…それは真っすぐドラゴンへと斬りかかる。
「ガァオ!」
――ヴレア・ドラゴシスが避けた!?
巨大な剣閃は回避されてしまったが、今の攻撃が意味するものは大きい。この魔物が攻撃から〝逃げた〟のは始めてだった。だがあまりに唐突な出来事…地上の私達は「コイツも生き物なんだ」という希望より、驚きが勝っている。一方で浮遊魔法を使っているネイルは、悔しそうに唇を噛みしめていた。
彼女はその大剣使いを静かに睨みつける。きっと今のネイルはボスモンスターすら視界に入っていない。その瞳が捉えているのはたった一人の獣人である。大剣使いは地面に着地すると、ゆったりと相棒を構え直す。ネイルは静かに、けれどハッキリと彼女の名を口にした。
「フリュウ…ポーチ!」




