競技者のタングス
「ウォータン・ピラーですわ」
【ウォータン・ピラー_水柱を生成する魔法】
そんなドラゴンの身体を、今度はネイルの魔法が押し戻す。三体の赤竜と、背後から迫るドラゴン軍団たち。冒険者たちの戦いが始まろうとしていた。
「リン! アセロラ!」
アキニレは私達に気が付くと、すぐに駆け寄ってくる。まさか彼に赤竜の攻撃をいなすような力があるとは…。でもよく考えたら、アキニレはちょくちょくダンジョンに出張している。それにサミダレ討伐会の時も、ミラーが「アイツは生存能力が高いから、雑に扱っても平気」みたいなことを話してた。
「アキニレって、戦えたんですね」
「戦えないよ! ほら、俺らは逃げるよ!!」
流石はアキニレ。無駄に争わず、生き延びることに全振りしたスタンス…グッジョブである。彼は私とアセロラ、非戦闘職の者達を先導しようと動いた。だがそう簡単にはいかないらしい。
「ガァアアア!」
再び炎の息吹が飛んでくる。あの赤竜は先ほどアキニレに攻撃をいなされた奴だ。長い角を生やしており、三体の中で二番目に大きな個体。どうやらコイツはうちの上司に狙いを定めたようだ。これは…まずい。ネイルとタングスはそれぞれ赤竜を相手取っており、こちらに気を回す余裕はない。他の冒険者達も下級のドランを食い止めていた。やるしかない。ところが魔導書を構える私を制したのは、他ならぬアキニレだった。
「アキニレ?」
「リンは既に満身創痍だろ? 俺がヘイトを買う」
「で、でも…」
「それに…アイツは僕をご指名らしい」
アキニレはドラゴンの前に立ち、魔法陣を起動。その間、ドラゴンは不意打ちのような真似はしなかった。膠着状態というよりは、純粋に彼を待っている。真面目…なんだろうか。それかドラゴンにはドラゴンのプライドがあるのかもしれん(最初に遭遇した赤竜は、不意打ち上等で、性格も悪そうだったけど)。
「ウォータン・ピラー…!」
一方、分かりやすく苦戦しているのはアトラスOSのネイル。彼女と戦っている赤竜は三体の中で最も大きく、角も二本生えている。言わば赤竜三兄弟の長男だった。奴はネイルが水柱を撃ち込んでも、すぐに立ち上がる。そして被弾なんかお構いなしの体当たり攻撃をかました。ネイルはそれを紙一重で回避するが、背後の岩塊はバラバラに砕け散る。一撃でアウト…結界の上からでも致命傷になり得る威力。
「ガァ~ア」
ネイルの攻撃は効いていない、のか…? コイツは妙に表情の変化が乏しい。落ち着いているというより鈍感、マイペースな印象。今はその鈍さが驚異的だった。
「チョベリバー!!!」
そして背後からの粉砕音。タングスが祭壇の壁に叩きつけられた。背後の壁はバキバキにひび割れており、彼じゃなければ、とっくに終わっている。タングスが戦っているのは、私達が最初エンカウントした赤竜。短い角で俊敏に動く個体だ。奴は口角を釣り上げながらマッチョへと迫る。プレッシャーのかけ方が狡猾、性格が悪い。こちらのミスを待ち構える姿勢は、ほぼ悪質クレーマーだ。微力だが、私も加勢すべきだろうか。
「赤竜って本当に強いわね。アーシ、初めてのコトばっかでビックリしちゃう」
「ガァアア(笑)」
「でもね、アーシの仲間もなかなかのものよ?」
タングスのセリフを聞き、私は魔導書を構えた。非戦闘を除けば、この場でフォローに入れるのは私だけ。もしや加勢を期待されている?
「いくわよ、アーシの筋肉たち! まずは大臀筋ちゃぁあああん!!」
――おっと、勘違いだ。
私を呼んでいた訳じゃないらしい。彼の相棒はあくまで筋肉だった。お尻を活かしたパンチがドラゴンの鼻に直撃。魔物の脳が、大きく揺さぶられている。これはチャンスだ!
「大腿四頭筋は親友! 広背筋は兄弟!! そして僧帽筋はアーシの恋人よ!!!」
なんとタングスは突進してくるドラゴンを掴み、そのまま地面へと叩きつけた。敵の勢いを利用したとはいえ、なんて怪力…。生意気な三男ドラゴンは泡を吹いて気を失った。
「アーシの勝ちィ! アゲェエエエエエエ!!!」
まさかドラゴン相手にステゴロで勝ってしまうとは。もしかすると赤竜三男は兄貴に依存することを覚え、鍛錬を怠っていたのかもしれない。そしてタングスは日々の鍛錬で種族の壁を乗り越えて見せた。この男は「塵も積もれば山となる」を体現してみせたのだ。彼の勝利によって、冒険者達の士気も大きく高まっている。
「タングス、それで良くてよ」
「あら、ネイルちゃん!」
「水滴石穿…アトラスOSの冒険者に必要なのは才能ではなく、時間の積み重ねですわ」
ネイルは巨大なドラゴンと戦っていたはずでは…? 振り返ると、あんなに暴れていた赤竜長男が地に伏していた。




