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祭壇エリア

リンの日記_七月十三日(日)


「絨毯はここに隠しておくっす」


 私達はダンジョンの中央――祭壇エリアへと辿り着いた。ドラゴンの群れに連れ去られたアセロラを取り返さなくてはならない。祭壇エリアに奴らがいる確証はないが、ラコルン曰く、ここの可能性が高いそうだ。


「アセロラ氏は、ダンジョンの中央――祭壇エリアに連れていかれた可能性が高いっす」


「どうして?」


「祭壇エリアには…ダンジョンのボス――ヴレア・ドラゴシスの根城があるっす」


 そして今、私達の前には巨大な三角錐の祭壇が存在していた。それを見上げて…思わず息を呑んだ。私よりずっと大きいサイズの石材が無数に積み上げられており、頂上には巨大なドラゴンが鎮座している。これまでの魔物とは比べ物にならないオーラ。奴こそがこのダンジョンの主。


 ――炎上飛竜ヴレア・ドラゴシス。


 で、デカ過ぎる…緑竜セーフ・ドランも三メートル近くあったとが、こいつは二十メートじゃきかない。逆光で強調されたシルエットには、神々しさすら感じている。この祭壇は奴の玉座でもあるらしい。かなり距離があるが、今は眠っているようにも見えた。


「リン氏! あれっす」


 祭壇の麓にはドーム状の魔法結界が存在しており、中には十数人の冒険者たちが閉じ込められていた。内側からは魔法が使えないのだろうか。中にはアセロラの姿もある。ボスモンスターは寝ているし、他の魔物の気配もない…捕まっている人たちを助ける機会は今しかない。


「ラコルンは絨毯の用意をしておいて」


 私は静かに祭壇へと近づいた。そして転がっている岩に身を潜めながら、檻のところまで移動する。吐き気を催すような緊張感、緑竜との戦いがなければ、とっくに発狂していただろう。こういう時こそ慎重に動くべき。アセロラが私に気が付いた。が、その表情は変わらず絶望的なものだ。


「…リン!? こっちはダメ!」


「アセロラ、今、結界を解除するから。外からの解除は難しくなさそうだし…」


「そうじゃない! これは罠だから!!」


 ――罠?


 彼女はゴロゴロ転がっている岩の方を指さした。よく見ると、岩の陰に何人もの冒険者が倒れている。まさか…おびき出された!? 直後、檻の中の誰かが叫び声を上げる。


「君! 上だ!! 早く!!!」


「ガァア!」


 私の上に黒い影が落ち、太陽の光を遮った。それは緑竜より二回り大きな赤竜ダンガ―・ドラン。このダンジョンの中ボス、幹部的な立ち位置の奴だ。


 ――逃げろ!


 私は咄嗟に結界の後ろへ回り込むが、魔物はあっという間に距離を詰めてくる。その瞳は私をあざ笑うような形に歪んでいた。コイツ、今までのドラゴンと違う。


「スロトン!!!」


【スロトン_投石強化の魔法】


 眼球狙いの投石、しかし奴はそれを簡単に避けると、益々口角を吊り上げる。緑竜セーフ・ドランは自身の肉体に胡坐をかいて、簡単な攻撃は被弾していた。こいつは知能が高い…というか人間っぽい。


 ――本当の意味で、対抗できる要素がない。


 不幸中の幸いは奴が炎の息吹を使わなかったこと。結界が壊れないようにしているのか、私を追い詰めることを愉しんでいるだけなのか。だがしかし…逃げ回れるのも時間の問題ではある。


 ――いっそのこと、この檻を壊してしまおうか。


 二十人が一斉に逃げれば、私とアセロラが生き延びる可能性は上がる。でも、この中に赤竜に勝てる冒険者がいなければ…私は最悪の場合を想像して身震いした。絨毯の上でのラコルンのセリフを思い出返す。


「緑竜セーフ・ドランは中堅冒険者二人で討伐するのが一般的とされていて、赤竜ダンガー・ドランはその四倍、八人が必要。出くわしても絶対に戦っちゃだめっす」


 基本、冒険者は四人でパーティを組む。だから赤竜は二つのパーティが合同で戦わなければならない相手…ということだ。現状、ドラゴンは檻の中の人間が傷つかないよう注意しているが…脱獄者にまで慈悲をかける可能性は低い。最悪の場合、私はそれを背負う覚悟があるのだろうか。


 ――どうするのが正解なんだ!?


 社会でも「自分で抱えるか?」と「人を頼るか?」の選択を迫られる場面は多い。私の場合、良くも悪くも前者を取ってしまう。自分の力を信じている訳ではなく、人に指示を出したり、お願いする方が難しいのだ。シンプルに自信がない。それに「頼る」という行為は、人の時間やエネルギーを奪う。今は時間やエネルギーどころか、命がかかっている。


 ――重すぎるだろ。


 そんな私が、今、ここで結界を壊せるはずがなかった。私は一人でドラゴンから逃げる方を選び、【追い風を生成する魔法】を起動。はたしてこの選択は正解だったのだろうか。


「よく寝たわあ…」


 もしこのまま単身で赤竜を対処したら…私はパクリとやられていたかもしれない。いや、間違いなくやられていた。今日の私はとにかく悪運が強かったようだ。檻の内側から聞き覚えのある声がする。このねっとりと耳に絡みつく、男性ボイスは…


「あら、リンちゃんじゃない! チョベリグな再会じゃない!?」


「た、タングス!?」


 アトラスOSでスポーツ部門に所属するタングスだ。優勝候補の一人と紹介されていたはずだが…何故こんなところに?


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